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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある呪いのお話

美味しい料理の食べ方

作者: 高月水都

ずっと書きたかったメシマズヒロインと味は気にしないヒーロー

 ぱくっ

 エルザは森の中の池の傍で自分の作ったお弁当を一口食べる。


 もぐもぐと口を動かしていたがさぁぁぁぁと一瞬で青ざめる。

「まずい………」

 また失敗だ。

 そんな気がしたからこそ、せめて気分だけでも美味しいモノを食べてると思わせるようにお弁当箱に詰めたのだが、気分だけではこのまずさはごまかせなかった。


「何が悪かったんだろう……」

 膝に乗せてあるお弁当を見て呟くとついため息が漏れてしまう。


『お前の飯なんか食えねえよ!!』

 と昔頑張って作ったお弁当を一口食べた幼馴染が、あまりにもまずさに頭からお弁当をぶつけてきたがあの時から進歩しない。


「どうしよう………」

 エルザの両親は村に一軒しかない食堂をやっていて、その評判のよさに時折訪れる旅人もわざわざ寄ってくれるほどだ。


 そんな二人が自慢で二人の跡を継ぐのだと頑張って練習しているのに。


 ぼろぼろぼろと涙が流れる。お弁当がまずいから。自分がいつまでたっても上達しないから。


 泣きながら食べていると、何かが頭に降ってきた。

「痛っ!!」

 頭を押さえる。木の実でも落ちてきたのかとそれにしては大きいようなと周りを見渡すと、

「…………何これ?」

 黒い棒。両端に紐状の皮が付いているが、それが切れている。


 少し手を伸ばせば届きそうだなと思ったが、変な感じで濡れているし、なんとなく触りたくない。とか思っていたら、いきなり木の上から人が降りてきて、はぁはぁはぁと息を乱していて、口から涎が気持ち悪いぐらい滴り落ちていた。


(変質者!!)

 ど、どうしたらいいのかとびくびく震えながら後退しようと思うが変質者の方が動きが早く、一瞬で間合いを詰められる。


 殺されると思って目を閉じる。だが、何も起きない。


「…………?」

 恐る恐る目を開けると変質者は膝に置いてあったお弁当を食べているのが見えた。


「あ、あの………」

「……(モクモク)」

 食べながら男はこっちを見る。


「美味しいですか……?」

 そんな風に勢いよく食べていると思ったら男は行儀悪く、食べながらずっと持っていたスケッチブックに何かを書きだして、

『味に拘りはない』

 と書き終わった文章を見せてくる。


「は、はぁ~?」

 首を傾げていると再びキュッキュッと字を書きだす。

『説明する暇ないが、食べ終わった瞬間に口を塞いでくれないか。口を動かせないように』

 ………………意味が分からない。説明してほしいが暇がないってどういうこと?


「…………」

 よく分からないまま言われた………というか書いてあったことを実行した方がいいかと落ちてあった謎の黒い物体をハンカチ越しに手に取って、お弁当を包んであった、ナフキンにくるんで、男の背後に回る。


 そして、食べ終わった瞬間に口を塞いで、ナフキンを縛る。


「こ、これでいいですか…………」

 なんか自分がいけない趣味に巻き込まれた気がするが、そういう趣味なら一人で………一人では無理なら同じ趣味の人に付き合ってもらってほしい。


『勘違いするな。好きでしているわけではない』

 考えている事が見透かされたのか男がスケッチブックでそんな事を書いていた。


『呪いの影響で常に飢餓症状が出て、口を何かで塞がないと正気を保てないんだ。不本意だが』

 よほど嫌なのだろ眉間にしわを寄せて、忌々しいとペンを握る手に妙に力が入っている。


「飢餓状態……口塞いで大丈夫なんですか……」

 飢餓って常にお腹すいた状態と言うことだと言うのは知っていたから尋ねると。


『飢餓と言っても常に何かを食べたい欲求だからな。栄養なら注射でとればいいし、最低限の生活する分は足りている。もともと食事にそこまで心惹かれないからな物理的に塞いでも仕事に支障が出る程度で気にならないな』 

 口を塞いだままそんな風に応える様は料理を全く楽しみに感じていないのだと思わされる。

「ああ……、だから、私の料理の味を気にしないんですね」

 こんなにまずいのに完食して、私ですら頑張って咀嚼しているのに。

『料理の味? ああ、鳥の煮物は中まで火が通っていないので生だったな。食中毒になるから注意しろ。野菜炒めは野菜が新鮮だったから水分が多く出て、味付けが薄くなっている。水分をもっと飛ばしてから味付けるか濃いめに味を付けた方がいい』

 とアドバイスを書き連ねられて、慌ててその内容をメモしようとポケットにメモ用紙が入っていないかと探る。


 その様を見て、彼は頭を押さえて、

『好きに使え』

 と、アドバイスを書いたページを破いて渡してくれる。


「あ、ありがとう!!」

 もらった紙を抱きしめてお礼を述べると、今更ながら、

「そう言えば、貴方のお名前を聞いてなかったですね。私はエルザと言います。あの…貴方は?」

 変質者とか失礼な事を思っていたのは秘密にしとこうと思いつつ尋ねると。


『わざわざ聞く必要があるか?』

「ありますよっ!! だって、誰に教えてもらったのかと聞かれたら知らない人って答えるよりも名前を言った方が印象がいいですし」

 詰め寄るように告げると、

『…………レイクだ』

 観念したように小さく走り書きのように書いてくれる。


「レイク……さん……」

 その時になって口輪ばかり視線に入っていたので気付かなかったが、

「目が青に僅かな銀色が混ざっている不思議な色ですね。まるで光を受けて反射する水面みたいで」

 とつい感想を述べると、レイクさんは持っていたスケッチブックを手から滑り落してしまった。


 慌ててそれを拾わないとと焦る私を見て、レイクさんは大きく目を見開いてじっと凝視していた。




 その日を境にレイクさんと私は毎日お弁当を持っていき、試食してもらう関係になった。

 レイクさんは本業を今休んでいて……どうも友人方に少しは休めと説教されたとか、かといって何をすればいいのか分からないからともともと一人で居るのが好きだからと人があまり来ない場所で野宿しているとか。


『アーレクイン領の山にいると友人には伝えてるし、何かあったら連絡もある』

 その言葉通り、時折レイクさんの元に鳥の形をした魔法で作られた手紙が届く、食料も届いた時はいくつか渡されてこれで料理の練習をしろと告げられた。

 はっきり言って貴重な食材を私のまずい料理に使ってしまう事が申し訳なかった。


「一人で居るのが好きなのに付き合わせてよかったのですか……」

 何日目かのお弁当を作った時に問い掛けてしまったのはずっと気にしていたから。自己紹介をした後はそれ以後会うことないだろうと思っていたが、次の日も池の傍に向かったら会えたのだ。


 そこで挨拶をして一人で処理するつもりだったまずいお弁当を一人で片付けるのも大変だろうと手伝ってくれて、その都度何が悪いのか教えてくれる。


 それもあって、口輪の装着に慣れてしまった。


『別に……この口輪に関して何か言われるのが嫌だと言うのもあるし、喧しい輩が多いから。お前は煩くないから気にならない』

 そんな事を告げるレイクさんはどこか遠い目をしていた。


 スケッチブックに書かれる今日のお弁当の注意点。

 調味料を使いすぎて味を相殺してある。

 弱火でじっくり焼いていた方がいい。

 少しだけ硬さを残しておくと触感でまた楽しめる。


『サンドイッチは野菜の水気をきちんと切っていなかったらシャビシャビだが、卵サンドは美味しくなった。――頑張ったな』

 今日はそんな事を書かれてあり、嬉しくて顔を赤くなってしまう。


 レイクさんはまずいと言いながらもきちんと最後まで食べてくれて、改善点を教えてくれる。本当はお父さんとお母さんに聞いた方がいいのに、恥ずかしくて二人の前に出せないことも見抜いて美味くなったら食べさせてやればいいと告げてくれた。


(………レイクさんの声が聞きたい)

 レイクさんの声で直接料理の事を言われたいとレイクさんの呪いの事を知りながらもそんな事を思ってしまう。


(ああ、レイクさんの呪い。私が肩代わりしてあげれたらいいのにあっ、駄目だ)

 将来の事を考えたらそんな呪いを変わるなどとやすやすと言えない。言ってはいけない。


「何か呪いが解ける方法があればいいのに……」

 そういえば、アーレクイン領主様が先日まで呪術王の呪いに掛かっていたな。【真実の愛】で呪いが解けたとかでお芝居になったとか。


「真実の愛か……レイクさんにそういう人が……」

 レイクさんに視線を送るとレイクも同じようにこちらを見ていた。


「もしかして……口に出ていました……?」

 しかも聞かれていたのかと尋ねるとレイクさんは頷いて、

『しっかり聞こえた』

 と困ったように視線を動かすが、レイクさんがそんな表情を浮かべるのを初めてみたので戸惑ってしまう。


 レイクさんの表情は口輪をしているからか動かないのだ。口輪を外すと涎を流して凶暴さが出るのだが、こんな表情を見るのは初めてだ。


「す、すみません。レイクさんの声を直接聞きたいなと思って、あっ、考えてみたらレイクさんが心から美味しいと思える物を食べれたらいいな。そんな都合よい事はあるわけないけど、呪いが解けたら好きなモノ食べ放題ですよねっ!!」

 慌ててそんなことを言っているともし呪いが解けたら私のお弁当を食べてくれないのではと今更気付いた。

 

 いや、そもそもわざわざ私のまずいお弁当を食べなくてもよかったのだ。それなのにいつも食べさせてしまっていて………。


 そこまで考えてしまうと私はレイクさんに甘えていたのだと気付き、迷惑を掛けていたのだと申し訳なく思えてきて、酷い事をしてきたのだと泣いちゃいけないのに涙があふれてきた。


 レイクさんはそんな私に戸惑って視線を動かしていたが、やがて何かに気付いてじっと考え込んで考え込んでしまった。困らせてしまった事にますます自分もどうしていいのかなんとかしないといけないと何か言おうとしているが言葉にならない。


 それはスケッチブックを取り出して何かを伝えようとしているが、何を書きたいのか自分でも分からないのか妙な模様になっている。

「レイクさん……ごめんなさい……」

 とりあえず謝らないといけないと口を開くとレイクさんはじっとこっちを見て、首を横に降ってからそっと涙を拭きとろうと自分の袖口を当ててくる。


「レイクさん……」

 何かを伝えたい。そんな態度のレイクさんと目が合う。真っすぐなレイクさんの視線はしゃべれない口よりも雄弁で……。と思った矢先、レイクさんが何かに気付いて顔を上げると同時に私の腰を掴んで引き寄せる。


「見つけたぞ!! 何やってるんだ!?」

 がさがさと現れたのは、幼馴染のディビット……昔作ったお弁当をまずいと言ってぶつけてきた。それ以来疎遠になっていたのだが、なんで急に。


「エルザが毎日お弁当を持っていくって噂になっているけど、お前のまずい弁当を誰かに与えて毒を持ったと騒がれたら迷惑だから見に来てやったんだ。ありがたく思え」

 と上から目線の言い方をしたかと思ったら。レイクさんが私の腰に手を回している様に気付いて、

「なんだお前!! エルザに何をするつもりだ変態っ!!」

「へっ、変態じゃなくて、レイクさんはっ!!」

「口輪を嵌めているだけで変態だろう!! さっさとエルザから離れろ!!」

 ともしもの時に持ってきたのだろう護身用の木剣をレイクさんに向ける。レイクさんはとっさに私を庇うように動いて、レイクさんの顔に木剣がぶつかり、口輪が衝撃で外れた。


「レイクさん!!」

 レイクさんの光の加減で青く見える黒髪に少し赤い血が付着する。


「ディビット!!」

 きっと睨むが、

「なんだよ。こんな怪しい奴を庇うのかよ!!」

「怪しくない!! レイクさんは私のお弁当を食べてくれて」

「はっ。お前の殺人的まずい飯をかよ!!」

「――殺人は起こさないと思うぞ」

 淡々とした声が耳に届く。


「エルザの料理は調味料の間違えや、温度設定焼き加減などでまずくなるが、最近では気を付けてきて少しずつ改善されてきた。殺人というのは」

 レイクさんの姿が一瞬で消えて、

「――こういうのを言う」

 ディビットの木剣をあっという間に奪い、首元に充てる。


「お、お、おま……」

「――静かにしろ。お前を殺しても一銭にならんからする気もない」

 木剣がレイクさんの手から消える。でも、レイクさんの手はディビットの方に触れる。


「武器を持つ者はその武器の恐ろしさを知ってから持つべきだ。そうしないと人は簡単に人を壊せるからな。第一」

 レイクさんがディビットの耳元で何かをささやく。


 するとディビットの表情が真っ赤になり、レイクさんの手を慌てて振り払うように距離を置く。


「なんだよ。あんたっ!!」

「俺は……」

「英雄レイク。呪術王を倒した俺の仲間だが」

 第三者の声が割り込んできたと思ったら馬に乗った数人の騎士が現れる。


「村の外れに不審者がいると苦情があってな。お前がいると聞いていたから誤解しているのだろうと直々に来た」

「間違っていないだろう」

 レイクさんは立ち上がって自分の格好を見せつける。


「こんな怪しんでくださいの格好をしているしな。報連相がしっかりできていてよかったじゃないか」

 肩をすくめて告げるレイクさんに、

「そうだな。確かにそれは言える。お前の口に口輪など嵌っていたしな。――呪い解けたんだな」

 よかったと微笑むのは、銀色の髪に紫の瞳の綺麗な男性。

 ご領主様だと言われなくても分かった。だって、ご領主様はずっと馬の手綱を握っていて、馬には紫色の服に身を包んだ奥方がずっといるのだから。


「ああ。さっきな」

「――条件は?」

「誰かと共に食事をしたいと心から思える時。だったな。呪術王は食事に一番興味ない俺に掛けるには的確過ぎる呪いだな。ほんと」

 ずっと口輪を着けていたからかしゃべるたびに口元を抑えているレイクさんに、

「呪いが解けたんですね。よかった……」

 と心から喜ぶと。


「ああ。裏の意味で呪いの解除方法もあった」

 レイクさんが領主様に告げる。


「なんだ?」

 それに関してはレイクさんは意味深に笑って、

「秘密だ」

 となぜか私を抱き上げて、

「怪我をしていないか確認しないとな。じゃあ、またなガルディン」

 とすべてを押し付けて行ったのだった。





 食べると言うのは食べた分だけ命が伸びると言う意味しかなかった。

 俺の目が気持ち悪いと俺を生んだ女はそう罵って、俺を人買いに売り飛ばした。生んだ女にも生んだ女の伴侶にも似ていない目が気持ち悪く、不義を疑われたそうだ。

 俺を買ったのは暗殺者組織で、俺の目は時折現れる魔力が身体能力に全振りした人間の特徴だと安い値段で掘り出し物が買えたと喜んでいた。

 物心ついた時から暗殺テクニックを叩きこまされて、命の価値など分からなくなっていた。

 自分の命も他人の命も軽く、味こそ分かるがそこに意味があるとは思えなかった。


 だからこそ、エルザの料理はまずいと思っても気にせず食べられたし、改善点も教えれた。

 最初は気まぐれ。だけど、それを真剣に聞く様を見て、何かが生まれてくるような気がした。


 俺の目が綺麗だと笑う。俺の言葉を真剣に考えて必死に挑戦するさま。


 ああ、ずっと見ていたいな。


 そう思えると身体から熱いモノが零れ落ちた。

――誰かと共に居たいと心から思える。共に食事をしたいと思う心。そして、誰かを食べたいと思えた時。


 呪術王は悪趣味だな。だが、それはおそらく。


『ユキ………ああ。君に会いたい……』

 呪術王が死ぬ直前弱々しく呟いた声はきっと俺にしか聞こえていないだろう。誰かを求めていた様は、おそらく、彼が世界を滅ぼしたいと思うきっかけなのだろう。


 奴の様にはなるつもりはないが、気付かされたのだ。

「レ、レイクさん……」

 腕の中にいるエルザにそっと安心させるように笑い掛けると、

「一生食べさせてもらおうか呪いを解いてくれたしな」

 料理も。お前も。


 いただきます。

 と美味しくいただいたと言うことだけ自慢しておこう。



もちろん責任は取ります。既成事実が先で。

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