電車での悲劇 ー続ー
昨日の晩御飯はビール1L
豆腐3丁
麻婆茄子
どれ程気絶した振りをしていただろう?
今の俺の脳がタキサイキア現象状態か否かで変わってくる。
視覚で確認するまでもない。
うつ伏せ・下半身の不快感・悪臭。3種の神器が揃ってる時点でそれ程時間は経っていないだろう。
俺の頭付近で恐く男性と女性が、俺の安否を確認するため「大丈夫ですか?」っと声をかけたり、揺すったりしているが今はまだ起きる訳にはいかない。
俺の下半身からは人の気配がしないので、ある程度距離を取っているのだろう。満員電車でもスペースを本気で作ろうと思えば作れるものだ。
暫く今後の対応を考えていると、更なる爆弾が起爆した。
「皆月さん! 大丈夫ですか!!」
声色的に俺の安否を確認していた女性が、俺の名前を叫んでいるのだ。
現在地はジモッティー、それ程多くは無い名字、そばに居る女性は顔見知り。この3連コンボは立ち上がれない。
逆に立ち上がれたとして、どんな顔で立ち上がればいいんだよ。どんな顔も致死率99% 逆に1%を引けたとして、その後どうすればいいんだ。
この女性も顔見知りで安否確認出来たからそれじゃ! って訳にも行かないし、沈黙も気まずい。会話するにしても禁止ワードが多すぎて会話にすらならない。
「人身事故大変ですね」って会話も違和感しか無いからね。人身事故の心配する前に自分の心配をしろって話で。
周りの乗客も俺の第一声に注目するだろう。「今日は少し暑いですね」って言ったところで、暑くても車内の空調を止めて、悪臭を端まで輸送しないで欲しい訳で、どう転んでも死亡フラグしか立たない。
実質死亡してる人に新たな死亡フラグを立てないで欲しい。
こんな時だからこそ色々悪い方に考えてしまう。例えば某掲示板で
【悲報】人身事故、次の電車でも逝く
1:鼻詰まりマン
〇月〇日〇時〇〇分に発生した〇〇線の人身事故。
次に到着予定の電車でも逝ってる模様
2:名無し
>>1
ごめん言ってる意味が分からん。
調べてみても1件しか人身事故発生してないし嘘乙
3:名無し
>>1
まさかスレ立ってるとか笑
イッチが近くに居ることはわかった。
>>2
これが嘘じゃないんだよなー
4:名無し
>>3
ソースは?
5:名無し
>>4
画像どぞ
6:鼻詰まりマン
>>5
画像あげるとか鬼かw
7:名無し
>>6
特定出来ないくらいモザイク入れてるし、まー
8:名無し
草
9:名無し
草
10:名無し
草しか生えん
11:名無し
>>8、9
草じゃなくて臭なw
>>10
種蒔いたら草以外でも生えるやろw
食うかは別にして
こんなスレ終わってる……こりゃだめだな……
周りの乗客も【触らぬ神に祟りなし】精神だろう。勿論俺もそうなんだが、神じゃなくて紙は触れて欲しいけど、そもそも俺は神じゃなくて糞な訳で、触れても触れなくともこの空間は祟りだしな……
あ――、やっぱりこの思考はダメだな。
もう少し甘えて日々の疲れをここで癒すとしよう。俺は再び気絶している振りをした。
知らない天井……っと言う訳には行かない。
飽くまで気絶した振りなんで、救急隊員がそのまま俺をドナドナした事も知っているし、されるがままに衣装チェンジをした事も知っている。
そして今、フカフカとも何とも言えない硬さのベットに寝かされてる。
まぁー病院ですよねここ。
周囲には諸悪の根源である衣服達がビニール袋に詰められ厳重に監禁されている。
これには難攻不落の刑務所もびっくりである。あちらはネズミ1匹通さないかも知れないが、こちらは空気1つ通さない。完全勝利である。
まぁー諸悪の根源は衣服達ではなく僕君なんだけどね……
その隣には何世代前かも分からない俺のスマホがあった。
案の定、会社からの着信が何件もあったが、ある時間を境に途切れている。
メールの方も『人身事故があったが会社に間に合うか?』とか『今日の会議までには必ず来い』とかある中、1件だけ同僚からのメールもあった。
天瀬海美
『皆月さん大丈夫ですか? 突然倒れるし、声を掛けても返事が無いからびっくりしました。会社には私の方から連絡しておきますので安心してください』
とまぁーこんな感じのメールだ。
あれやな。電車で俺の名前を叫んでいたのは間違いなく天瀬さんだな。
別に文句を言うとかそんなつもりはない。誰だってあの状況ならパニックにもなるし、知ってる人なら名前だって叫ぶ。逆に俺の安否を心配してくれた事に感謝したいくらいだ。
そんなこんなでメールチェックしていると白衣の天使が俺の病室に訪れた。
「皆月さん。気が付いたんですね! 先生を呼んでくるのでちょっと待っててください」
俺の返事を待たずして白衣の天使は去っていった。
あの人が俺の後処理をしてくれたのかなー? 仕事だからといっても本当に申し訳ない。何かお礼でも考えておこう。
そうこうしている内に、先程の白衣の天使様が先生を連れて戻ってきた。
「皆月さん、大丈夫ですか? 今、頭がぼーっとしたりとかありますか?」
「いいえ、ケフィ……ありません」
「そうですか。それは良かったです。今回の症状ですが、恐く極度の緊張状態で血圧が急激に変化して気を失ったのだと考えられます。排便と排尿についてですが、気を失った後なら稀に起きる現象ですのでそれ程心配いりません。気を失って倒れた衝撃で脳にダメージを受ける可能性もありましたが、運良く頭を守る形で気を失ったので脳にもダメージがありませんでした。親御さんには連絡していますので、そのまま退院してください」
先生が当時の状況を推理した後、病室から去って行った。
ふむふむ。
まぁーあれだ。排便してから気を失ったし尿なんてしてないし、そもそも気絶もしてない。順序やら結果が色々ごちゃ混ぜになってるけど気にしたら負けだ。
取り敢えず褒めるべきは俺の腹の中腹辺りで控えていた水属性達だな。
あれのお陰で色々辻褄があったのだろう。
気絶してるのに排便だけとか信頼度低いもんね。
パチンコと一緒だ。色々な役物が重なって初めて当たる。今回も排便と排尿の役物があったから当たったのである。
そんなこんなあって、親から染みひとつない真っさらな服を受け取り帰宅した。
少し時間は早いが明日の仕事に備えて寝るとしよう。
今日はとっても楽しかったね。明日はもっと楽しく…………なるかい!!
そんなもんはハムスターに任しとけ!
明日からどんな顔で出社しよう……
読んで頂きありがとうございます。
とても嬉しいです。