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すごい新入社員(後編)



続きです。ようやく終わります。


後編は短め(説明は長い)です。



 全体会議は休みの日に行われた。

 休日出勤扱いとなるため、全員に出席が義務付けられ、総勢五、六十名ほどの社員が一堂に会する。


「この度、社内の就業規則、労働諸規定などを改定しました」


 社長がマイクを通して言った。

 広い会議室で、パートや派遣社員も含めた全従業員が集まっているので、マイクを使っているようだった。


「まずは十五分ほど時間を取るので、手元のレジュメに目を通してください」


 一斉に紙をめくりはじめる。

 俺も同様に一枚一枚わりと丁寧に読んでいったが、正直元々の就業規則やらをしっかり読んでいたわけではないので、どこが変わったのかあまりわからなかった。

 せいぜいが細かく書いてあるな〜と思うくらいである。


「それでは、変更した点を説明します。一つ目、昼休憩中の電話応対や来客対応は原則禁止とします。電話については専用メッセージの留守電、来客については受付時間の札を掛けるなどして対応してください。緊急等のやむを得ない理由で行った場合、相当する時間分の時間外労働申請書を提出するか、同日中に相当する時間分の休憩を別途取ること」


「続いて、従業員個人の私用の携帯電話を仕事で使うことについて。これは本人の同意がある場合にのみ、同意書の提出があった上で許可します。その際の通信量はこれまで通りとします。本人が拒否した場合には、会社で社用携帯を用意しますが、それを持ち帰ることは原則禁止とします。社外に持ち出す際には申請書を提出するように」


「残業時間について。当社は業務上残業時間が多い傾向にありますが、残業を推奨しているわけではありません。今後は残業する場合は事前に申請するか、緊急の場合は翌日以降に届け出を提出すること。書面の提出がない残業については、固定残業代を超過した場合にも支払いは行われません。なお、みなし残業時間の範囲内であったとしても、書面の提出を義務とします」


「最後に、親睦会について。当社では福利厚生の一環として歓迎会や親睦会といった、いわゆる飲み会を開催しています。昨今の情勢もあり、ここ数年は自社ビルの会議室や応接室を利用して来ましたが、今後は原則禁止とします。飲み会は以前に実施していたように団体予約が可能なお店を利用すること。費用についてはこれまで通り会社負担とします。ただし、自由参加です。参加を強制するような言動は慎んでください」


「その他細々とした追加事項がありますが、その点については記載のとおりです。これは来月一日より施行予定です。意義のある方は今月二十日までに書面で提出をお願いします。質問があればどうぞ」


 数人が質疑応答を行い、全体会議は終了した。


 大多数の社員は突然のことに首を傾げていたが、俺は淡海さんが原因だろうとアタリをつけていた。


「淡海さん、社長に何言ったの?」


 こっそりと尋ねてみると、彼女は薄っすら微笑んでこう答えた。


「私、父が社労士なんです」




〈蛇足の後日談〉


 諸規定が変更されてから数ヶ月が経つと、例の変更について社内では賛否両論だった。

俺の部署では否定派が多数である。というのも、残業が日常化しているのにいちいち申請だの届け出だのをしなきゃいけないのが面倒くさかったり、昨年入社した中途の人は『もう個人番号教えちゃったのに、いまさら社用携帯とか言われても遅い』とぼやいていたりする。

とはいえ、これまで曖昧だったものが、しっかりと明文化されたことで全員の共通認識に繋がった。

小さいことでは“私物を業務に使わない”とか“業務に必要なもの以外はロッカーに仕舞う”といったことが実施されるようになってきた。

 また、会社全体としては今回のことは好意的な意見が多いので、取引先との世間話や、来客時の繋ぎの会話などで話題に出されることが多く、社外からも高評価を得た。

 淡海さんはまだ新人ではあるが、かなりの功績を残したと俺は密かに感心していた。


 その淡海さんはというと、産休中ではあるものの今もまだうちの会社に在籍している。


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