ほたる
前半と後半で視点が違います。
好きで好きで どうしようもなくて
それでも好きで 苦しくて しかたがないんです
このまま黙っていることなんてできなくて 身体が 心が 熱くて
いっそのこと燃えて消えてしまえばいいのに
好きなんです 涙がこぼれるくらい
好きなんです 息もできないほど
好きです 死んでしまいたいくらい
だから 迷惑だとわかっていても
この想いを伝えることを____ゆるしてください。
今日の日のために、昨日はいつもより念入りにお風呂に入った。半身浴をして、とっておきのトリートメントをつかった。
お風呂上がりにはいい匂いのするアロマオイルでリラックスしながらマッサージもして、お肌のお手入れも完璧。
緊張して寝付けなかったけれどなんとか最低限の睡眠をとって、今朝は早起きをして支度をした。
制服にしわ一つないようにアイロンをかけ、髪を艶が出るように梳かしてからゆるく編み、食欲はなかったけれど朝食もとった。
後悔しないために、今の最高を心がける。
手紙は、書かなかった。
きちんと自分の言葉で、顔を見て伝えたかった。
手紙を書いてしまえば、それを逃げ道にしてしまいそうだった。
わたしは弱い。だから退路は一つも残してはいけない。
あればわたしはそこに逃げ込み、一生後悔し続けるだろう。
だから、わたしはわたしを追い詰め、壊すのだ。
受け入れてもらえないとわかっていても、自分だけでなくあの人にも傷をつけるとわかっていても、わたしは、伝えよう。
_______誰にも知られず燃え尽きる前に、身を焦がすこの想いを。
「蛍」
わたしの名前。本当はあまり好きではない。
あまりにもあの生きものははかない。たった7日。その短い日々にありったけの想いをこめて、命を燃やして恋をする。
目の前の友人が昔わたしに言った。
「あんたは名前のとおり、蛍だね」
あの時は意味がわからなかった。
今はなんとなくだけれども、わかる気がする。
でも、わたしは蛍であることをやめるのだ。
「おはよう」
「おはよう」
友人はわたしをじっと見つめ、穏やかに笑った。
「うん。良い顔だ」
「ありがとう」
友人は、今も昔も変わらない。
お世辞ではなく、いつも本音で語る。独特の感性で世界を見つめている。
だから、飾らないそのほめ言葉を素直に嬉しいと思えるのだ。
「鳴かぬ蛍が身を焦がす、とはよく言ったもんだね」
友人は、わたしの想いを知っている。
そして、今にも燃え尽きそうなわたしの傍に黙っていてくれた。
何も言わないわたしの傍に、何も言わずに。
この想いは一度も口にしたことはない。つぶやきにすらのせない。
最初で最後、あの人に、ただ一度だけ、そう決めたのだ。
恋人がいることを知っている。とても愛し合っていることも知っているのではなく、わかる。
優しく、甘く見つめる視線、仕草、その一つ一つに心があふれている。
万が一にもわたしに想いを返すことはない。それくらい、強く、深く、愛しいその想いをわたしは知っている。
だから、わたしの想いの行き場所なんて、最初からなかった。
それでも、蛍のように黙って燃えることなんて耐えられなかった。
だって、蛍は、ただ光るだけなのだ。
相手に気付いてもらえなかったら、そのまま何も残さず消えてしまう。
_____だから、だから、わたしは。
◆◇◆◇◆
美しい、と心底思う。
言葉にしなくても、表情が、瞳が、何より雄弁に秘めた想いを語る。
どこかで、蛍が光るのは身のうちの恋心が光となってあふれているからだ、と聞いた。
_____燃えたつように熱く、切ない色の瞳に、友人自身を名前のとおりに『蛍』と例えたのはいつだったか。
容姿なんて問題にもならないくらい、友人の想いは美しい。言葉にならない想いは、より一層友人の美しさを引き立てている。
凛と背筋を伸ばし、前だけをひたすら見つめ、逃げることなく、目を背けることすらしない。
まるで、呼吸や瞬きすらも惜しむようで_____。
誰かを一途に想う姿を、こんなにもまばゆく思うなんて。
蛍は成虫になって、相手を見付け、愛し合い、子を残す。
ほんの数日に生の全てをかける。
だから、あんなにも美しくはかなく輝くのだろう。
相手を見つけられなかったら、その生命はただ散ってしまうのだろうか。
蛍火、という言葉どおりに美しい火で身も心も焦がし、燃え尽きて、あとには何も残らないのだろうか。
_____そんなことはない。
蛍の美しさは、一度目にしたら二度と忘れられない。
人の心を、熱を持たないはずの燈で温め、癒す。
あの愛しい光は心の奥深くに刻み込まれ、永遠に輝く。
だから、ぼくの心にもこんなにも強くあとを残すのだろう。
蛍、ぼくの友人。
君の全てがぼくを焦がすなら、ぼくは。
_____ぼくは、何も言わずに燃え尽きよう。
本当の『蛍』は名前も出なかった友人でした____という話です。




