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少年からの「告白」は彼の一度限り
其の後も
其の前と変わらず自分と少年は付かず離れずの関係
嫌いな理由 等、ない
突き放す理由 等、ない
唯、自分は少年とは相容れないだけ
多分、自分は母親とも相容れないだけ
自分には酷く詰まらない
自分には此処は酷く詰まらない場所
若しかしたら
自分が酷く詰まらない
自分が此処では酷く詰まらない人間なのかも知れない
高校卒業を待たずに家出同然、「片田舎」を飛び出した
と、言えば恰好?が良いが
実際問題、不動産屋と此の部屋の賃貸契約を結んだのは母親だ
初期費用の敷金礼金を支払ったのも母親だ
当然、母親は諸手を挙げて
我が子の「我儘」に賛成した訳ではない
此処ぞとばかり
自分は母親の「我儘」に付き合って「片田舎」で暮らした
今度は母親が自分の「我儘」を聞く番だ
と、半ば強引に押し切った結果だ
許さなくても良い
許されなくても良いと思ってる
其れでも笑って頷いてくれた母親には感謝しかない
散散、世話を掛けた
母親への「恩」は借りた当面の生活費も含めて
此れから返済していくつもりだ
然うして朝焼けに色 付く
御襤褸駅舎から「都会」に行く電車に乗った
流石に気が付かなかった筈だ
一人寸法の寝台
自分の背中に、背中を付けて横になる少年は気が付かなかった筈だ
其の証拠に
玄関 引戸を(音を立てないように)引き開けた時も
校舎裏の竹林が唐突に揺れたのを
「猫」かと思ったのも束の間、本当に野良猫の「三毛」だった時も
知らず知らず立ち止まり
知らず知らず振り返る其処にも少年の姿はなかった
結局、少年は宿泊先の宿へは戻らず(終電)
一人用の寝具しかない部屋で仕方なく寝床を共にした
結局、「同棲」だか「同居」だかの話し合いは
決着は着かなかった(着く前に自分は睡魔に襲われた)
途端、携帯電話の「起床時間」が鳴る代わりに振動し始めた
直ぐ様、枕の下から引っ張り出す
携帯電話の「二度寝対応」を押す也
胸に抱えたまま瞼を閉じる
「何してる?」
携帯電話の「起床時間」は
如何やら少年を起こしてしまったらしい
「「何してる?」って、二度寝」
五分後の「二度寝対応」が発動する迄
微睡む時間は唯唯、至福
貴方も気にせず寝ていて欲しい
と、寝返りすら打てない一人寸法の寝台の上で
もぞもぞ動く自分を余所に少年が再度、訊ねた
「仕事、何してる?」
ああ、其れは貴方のお察しの通り
高校中退の中卒が働ける職場 等、然う然うない
高校中退の中卒の「女」が一人
「都会」で暮らして行ける程に稼げる職業 等、然う然うない
徐徐、種明かしの時間
「片田舎」に身を置く場所が見付からない以上
「都会」に身を置ける場所を見付けなければならない
父親の一件(不倫)で
専業主婦の母親が「片田舎」の実家、祖父母に頼らざるを得なかったのは
偏に日銭を稼ぐ術を持っていなかったからだ
「簿記の資格、取得ってた」
簿記二級、三級は高校生の内に取得できる資格だ
学業の合間、通信講座と問題集を駆使して
インプットとアウトプットを繰り返し繰り返し学ぶ日日
「お陰で何とか事務職に就けた」
信じようが
信じまいが其れは少年の自由だ
抑、日銭の為
「自分」を売ろうが少年には何等、関係ない話しだ
然して到頭、五分後の「二度寝対応」が発動する
至福の時間を邪魔されて多少、腹が立つ
縮める身体を伸ばして起き上がる瞬間、腹癒せで私語く
「其れに此処、事故物件だから家賃が安いんだ」
自分の衝撃発言に勢い良く振り返った少年の所為で
一人寸法の寝台が大きく軋んだ