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「猫」  作者: 七星瓢虫
5/19

5

一間(ワンルーム)集合住宅(アパート)

靴箱を積み重ねた下駄箱 (もど)きの上に置いた

小物入れに自室の鍵を(ほう)ろうとして、()の手を止める

()のまま(かばん)の中へと戻す


「お茶、()れるから」


何時(いつ)から待っていたのか、春先とはいえ()()だ寒い

服越し、(つか)んだ腕が何処(どこ)迄も冷えていた気がした


幾分(いくぶん)手狭(てぜ)な玄関 三和土(たたき)

()れでも家主(少女)を差し置いて入室する気 (など)、少年にはない


昔馴染みの少女も理解していた

()の少年には独自(マイ) 規則(ルール)が存在する

()れに付き合わされる此方(こちら)としては若干(じゃっかん)(わずら)わしい


壁際に身を寄せる少年の脇を()り抜ける

深靴(ブーツ)に手を掛けて、上がり(かまち)に腰を下ろす少女の目前

(かが)み込んだ少年が手伝う


(おお)いに助かる

足が浮腫(むく)んで深靴(ブーツ)が脱ぎ(にく)くて(たま)らない


「ありがと」


小声で礼を言うが

目も合わせないで(うなず)く少年が話し出す


此方(こっち)の大学に受かった」

「近い内、上京する」


「はー、へー、ふーん」、とは流石(さすが)に言わないが

高校卒業を待たずに上京した自分には少年の進路 (など)、興味ない


新居探しか

手続きの準備か、何かの(つい)でに此処(ここ)に寄ったのか


()う思い(いた)る少女の深靴(ブーツ)

玄関 三和土(たたき)(そろ)えて置く、少年が続ける


「お前と暮らす」


予想外過ぎて少女は言葉も出ない


「お袋も」

「お前の母ちゃんも賛成してる」


()れは()うだ

()の母親二人は何時(いつ)頃からか

()しかしたら人生の始めからなのか?、(など)と疑いたくなる程

自分と少年を結ばせようと(たくら)んでいる頭の可笑(おか)しい人達だ


何処(どこ)ぞの妄想だ?!」と、問い(ただ)したくなる


「無理」


一言、残して立ち上がる

廊下を歩き出した少女の後を付いて行く少年が()


「何で?」


「何で?」じゃない


「鈍感」にも

「無神経」にも限界がある


「無理なモノは無理」


()れでも「何で?」を繰り返す

らしくもなく食い下がる少年に振り返る少女が吐き捨てる


貴方(あんた)、忘れた?」

貴方(あんた)、私に「告白」したじゃん」


途端、少年が()()よがしに鼻を鳴らす


「お前、振ったじゃん」


振ったから何だ?

振ったから一緒に暮らしても「無問題」だと言いたいのか?


そんな馬鹿な話しがあるか!

そんな馬鹿な話しは母親二人の「妄想話」で充分だ


()うして()の日の事を思い返す

少女が何となしに(たず)ねる


(そもそも)()れ「告白」だった?」


思い掛けず(たず)ねられて

「今更?」とは思うも曖昧(あいまい)(うなず)く少年が笑った


()れは滅多(めった)に御目に掛かれない

「笑う猫」に良く似た、微笑みだった

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