レポート65:『ひと段落』
中間テストも終わり、週が明けた月曜日。
いつも通り、生徒会室に集まった四人は唖然としていた。
一人は複雑そうな表情をしており、一人は笑顔で、一人は平然とし、当の本人は違和感だらけにも席へ着いている。
「……で、どうしてこうなった?」
会長席とは別に設けられた四席。
対面するように配置づけられた机は廊下側に2名、窓側に2名と会長席という構図。
会長席に長重、そちら寄りに松尾と対面するように自分が座り、自分の隣に氷室がいる。
氷室の向かい、もしくは松尾の隣。
その席は今まで空だった。
にも関わらず、セミロングの金髪をオールバックにした見知らぬ男子生徒が居座っている。
とても理解の行き難い光景だった。
「えっと、今日から生徒会に加わった『富豪聖』くん。私たちと同じ2年生でクラスは4組。庶務募集の張り紙を見て、来てくれたの」
「はあ……」
長重の説明に合点は行くもイマイチ納得は行かない。
ただ隣にいる氷室が、顔を伏せて笑いこけている姿により、十中八九、氷室の仕業であると察した。
何より、富豪が怖い顔でこちらを睨んでいることの方が気になって仕方がない。
別に面識があるわけでもなく、恨みを買った覚えはない。
いや、もしかしたら知らないところで恨みを買っていたのかもしれない。
購買で富豪のお気に入りのパンを目の前で最後の一個を買ってしまったとか。
富豪が好意を抱いていた女子が、実は自分に好意を寄せていたとか。
――いや、ないな……。
食べ物の恨みは怖いというが、いつも昼飯は瑠璃特製の自称愛妻弁当で、そもそも購買を利用したことがない。
自分に好意を抱いているという女子も、この学校には存在していない。
生徒会メンバー以外で関わり合いのある女子と言ったら、ただのオタク連中しかいないが、話しかけられたら答えるというだけの間柄で、友達ですらない。
他に何かのイベントで助けたことのある女子だとか、そういった機会も存在していないため好意を抱く女子が実在しようものなら、詐欺か悪徳商法の何かである。
人と関わることが少ない自分にとって、好意を抱くような女子がいるのはあり得ない話。
よって、やはり恨みを買った覚えはないと断言できる。
出会って早々、いきなり鋭い目つきで睨みつけられ、蛇に睨まれた蛙のような図になっているのも、氷室のせいなのであろう。
初対面の相手に対し何を持ってしてのものなのか、富豪の行動に疑問が絶えないところではあるが、今は素直に聞けるような雰囲気でもない。
そのため、あとで隙を見計らって、氷室にでも聞いてみようと思う。
「ん……?」
そこへふと、丸めた紙が足元へと転がってくる。
誰のものなのか、周りの顔色を窺ってみると、松尾と目が合う。
どうやら松尾からのもののようで、紙を開いてみれば、端的な一文が記載されていた。
『浮気騒動の犯人』
――なるほどなぁ……って意味わかんねぇし!? 俺を睨む要素はどこ!?
深まる謎に嘆息し、唖然としながら隣にいる氷室に目を向ける。
相変わらず黙秘権を行使する氷室に顔を顰めると、静かに折り畳んだメモ用紙をスッと手渡してくる。
『お前もか』と内心呟きながら広げてみれば『すまんww』という一言が記載されていた。
――笑笑じゃねぇよ!?
「ゔ、ゔん」
「……?」
ふと、長重の咳払いが聞こえ、我に返る。
四人の視線は会長席に佇む長重に集中しており、長重の手にある目安箱とそのたった一言で、皆の頬が微かに綻ぶ。
「それじゃあ、新たな仲間も加わったことだし、やりますか!」
心機一転。
生徒会室の席が一か月をかけて埋まり、ようやく本腰を入れて活動を開始できると口にせずとも伝わってくる。
これからさらに波乱を巻き起こす予感しかしないが、この空気感が嫌いじゃなかった。
たとえ、いつか終わりが来る関係であっても、今はただ楽しんでいたいと思う。
長重の記憶を取り戻す期限は高校を卒業するまで。
長重の傍にいられるのは、その間だけ。
終われば自分はいなくなる。
そういう約束だから。
「……んじゃ、やるか」
複雑な心境ながらも『今だけは』と誰に対するでもなく、嘘をつく。
和やかな空気の中で一人、フードという名の仮面を被っている。
偽りだらけの存在――『真道鏡夜』。
ここのどこにも自分がいない。
『真道鏡夜』などという人物は、この世に存在しない。
ただ理想の中にいる彼を象っただけの偽物。
彼が生きた高校生活は全て、幻想へと変わってしまう。
彼の目的はただ一つ。
『長重美香』の記憶を取り戻すこと。
それ以外は何ものでもなく、欺瞞に満ちている。
『長重美香』が戻った時、『真道鏡夜』はいなくなる。
これは、ただそれだけの物語。
そんな序章に過ぎないのである。




