レポート33:『恐竜の挨拶』
『最後に……お前たちに言っておくことがある』
それは作戦会議、終盤の会話。
『俺のバスケが、先輩たちにどこまで通用するのかは未知数だ。もし、先輩たちに俺のバスケが通用せず、どうしようもなくなった場合、お前たちを全面的に頼る形になる』
未経験者が、経験者に勝てないことは旧友が証明してくれている。
自分の拙い技術も、今と昔を比べれば、それなりにはマシになっていることだろう。
それでもやはり、それを専門としているプレイヤーには勝てないだろう。
なんと言っても、費やした時間が違う。
人を騙すだけでスポーツが上手くなれるのなら、詐欺師は皆オリンピック選手にでもなって大儲けしている。
素人が運動部に圧勝できるほど、現実は甘くはない。
何もできず、終わってしまうのが普通。
これで作戦通り上手く行ったとしたら、奇跡に等しい。
故に最悪の事態も想定しておかなければならない。
『そうなった時の合図だ』
ピースサインをつくり、人差し指と中指を2回ほど、曲げたり伸ばしたりする。
『なんだそのサイン?』
『恐竜の挨拶だ』
『あ、ティラノサウルスですね』
『ティラノは指3本だろ』
サインに関しては何だっていい。
ただ宇宙人の挨拶を真似て個人的に作ってみただけの代物なのだから。
重要なのは、その意味である。
『これを出したら、俺のもとまで全力で走って来い。俺の真横まで一直線に走るんだ』
これは、緊急事態を示すヘルプサイン。
できれば使わずに終わってほしいというのが本音の最終手段。
所謂、切り札である。
『ここで注意するべき点が一つ。氷室は富澤より遅れてやって来ること』
『なして?』
何をやろうとしているのか、氷室は首を傾げる。
そんなことをすれば富澤にパスを出すと誰もが思う。
同着であれば、ぎりぎりまで黒木先輩にはわからない。
けれど、それでは確率が五分五分であるため、パスカットをされる恐れがある。
それを確実にするための罠が必要だった。
『お前にパスを出すからだよ』
『ほえ~』
『え、それ僕無駄に走らされるやつですか!?』
どうもピンと来ていない氷室と驚きを表す富澤に呆れる。
氷室に対してのパスなのに当の本人が、自分が決めるのであれば問題ないと呑気でいる。
そのパスが通らなければ意味がないというのに。
お前ならパスを出すと、絶対的な信頼を置いてくれているのか。
兎にも角にも、ちゃんと言葉にして説明しておきたいと思う。
『咄嗟に両者が同時に全力疾走した場合、大抵は先に近くへやって来たやつにパスを出すのが普通。そこで先にやって来た富澤へ俺はパスを出す体勢に入る。すると相手はどうする?』
『パスコースを塞いでくる……?』
『そしたら止められちゃうなぁ?』
『そうですね……』
『だからここで、遅れてやってきた氷室にパスを出す』
『なるほど、後出しか!』
『それなら、パスをカットされる危険性も回避できますもんね!』
『そういうことだ』
咄嗟の出来事を自ら生み出し、相手のプレーを誘導させる。
それを理解してくれたことに一安心する。
『そんじゃま……勝つぞ』
『おう!』
『はい!』
そうして作戦会議は終了し、試合へと突入していた。




