レポート18:『そこはアニメのように広がるAnother World』
翌日の昼休憩。
氷室が1―3へと赴き、富澤を呼び出す。
周りは軽く騒然とし、当人も驚きの表情を浮かべている。
この構図を一言で表すならば、思いがけないイケメンの登場に女子たちが笑顔で囁き合っているという状況で、現実でもあるのだなと呑気にも思う。
確かに氷室の容姿は読者モデルに匹敵するレベルで、クールで知的な振る舞い、切れ長の目と喧嘩慣れした動きのせいか、雰囲気が只者じゃない。
そして、話しかけてみれば意外と気さくで、無邪気に笑みを零す様にはギャップがあり、人当たりがよく、情に厚い。
世間ではそれを『ちょい悪系』などと評するのだろうが、以前の氷室であれば、ただの悪である。
だって、元ヤンだし。
今は改善して、列記としたスポーツマンとして、大人しく鳴りを潜めてはいるものの、その危険性に変わりはない。
それを知らない後輩諸君は、頭が良くて運動のできる面白くて優しい先輩などと謳っているようで、世界は今日も平和なのだと知った今日この頃である。
「あれか……」
廊下の曲がり角から様子を窺っているという状況。
影が薄いゆえに誰にも見つからず、誰にも怪しまれていないのが奇跡。
そんな中、視界に映しているのは一人の後輩。
栗色の髪で目を隠し、細い線からして、如何にも気弱で軟弱そうなヤツだと見て取れる。
氷室の言葉に対し俯く表情からして、見た目通りの人物であることに確信を抱く。
彼らが何を話しているのかは聞こえないけれど、富澤の反応から図星をつかれていることだけは明白だった。
「ん?」
会話を切り上げた氷室が、こちらへと歩み寄って来る。
存在に気づかれていたことに驚くも、今は会話の結末の方が気になっていた。
「違うってよ」
戻ってきた氷室は、笑いながらにそう言い放つ。
「違う?」
「ああ」
あっけらかんとした返事に眉を顰める。
山が外れて一安心した表情なのか。
氷室の笑顔は明るく晴れていた。
「さ、俺たちも昼飯にしようぜ~」
呑気に階段を上っていく氷室を眺め、昨日とは打って変わった態度に違和感を覚える。
富澤の反応からして、投票用紙の差出人は間違いなく富澤だと踏んでいた。
氷室が違うと言うのなら、違うのかもしれない。
ただ氷室のあからさまな態度の豹変に『妙だな』と思う。
それが解せず、振り返って1―3を一瞥すれば、浮かない表情の富澤がいた。




