レポート 9:『寝起きドッキリ(平常運転)』
眩しい斜光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
半開きの目がそれを捉えたのち、窓から照らす暖かな日差しが、遠のいていた意識を呼び起こす。
ただもう少し、後ほんの少しでいいから、この温もりに浸っていたいのだと、寝返りを打った時、誰かの影がこの目に映る。
「おはよ」
徐々に定まっていく意識とその声から、それが瑠璃のものだと理解する。
「―――」
瑠璃の爽やかな笑顔が目の前にある。
凄く、安心する。
だからなのか、自然と彼女に手を伸ばし、強引にも優しく抱き寄せていた。
「ちょ……っ」
確かな温もりを実感しながら、心地よくて頬が綻ぶ。
「瑠璃……」
「なに……?」
「あったかい……」
柔らかくて、ほのかに甘い香りがする。
その心地良さに再び瞼は降ろされる。
「……もう、まだ寝ぼけてるの?」
誰かが傍にいてくれている安心感からなのか。
それとも、ただ眠いだけなのか。
太陽の温もりと瑠璃から伝わる熱と、身を包む毛布が心地よくて抜け出せない。
『ここはもしかしたら天国なのではないか』と、呑気にもそう思う。
「早くしないと、学校遅れちゃうよ?」
そう忠告をしていながら、瑠璃も抱きしめ返してくれる。
5分ほどの時が過ぎ、ゆっくりと瞼を開ける。
徐々に意識が覚醒し、瑠璃を抱き寄せていた手から、するりと力が抜けていく。
未だ、目がしょぼしょぼする中、瑠璃はそっと笑むと、額に柔らかな感触が伝う。
「……ん?」
今一瞬、何が起こったのか。
考える間もなく、瞬きを繰り返していると、瑠璃は立ち上がる。
「それじゃ、先行ってるね」
いつも通りの笑顔で、瑠璃が部屋を出ていく。
物静かになった空間で一人、思考は現状を遡る。
瑠璃は教師だから、生徒よりも先に早く学校へ向かう。
生徒である自分と、教師である瑠璃が同棲していることを周りは知らない。
もし、誰かに見つかるようなことがあれば、世間体的に問題になる。
別に血の繋がりのない家族であって、やましいことは何もない。
ただ瑠璃の手によって、この関係がバレることは決してない。
瑠璃は、どんな手を使っても、この二人暮らしを脅かすものを排除するから。
本当に何者なのか、何故そこまで溺愛してくれるのか。
それはわからないけれど、自分も同じ気持ちであるから、大した問題ではないのだと思う。
ここの暮らしは、本当に心地良いから。
「―――」
ふと、額に触れて先ほどの出来事を思い出す。
寝ぼけながらも、近づいてくる瑠璃の顔を確かに瞳は捉えていた。
朧げな記憶が鮮明になっていくと、瑠璃の行為に理解が追いつき、目が冴える。
さり気なくも不意にされた口付けに顔が上気する。
瑠璃の唇が生々しく脳裏に蘇り、意識せずにはいられなくなる。
そうやって、瑠璃の行為に悶えた朝だった。




