表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/114

レポート 9:『寝起きドッキリ(平常運転)』

 眩しい斜光がカーテンの隙間から差し込んでいる。


 半開きの目がそれを捉えたのち、窓から照らす暖かな日差しが、遠のいていた意識を呼び起こす。


 ただもう少し、後ほんの少しでいいから、この温もりに浸っていたいのだと、寝返りを打った時、誰かの影がこの目に映る。


「おはよ」


 徐々に定まっていく意識とその声から、それが瑠璃のものだと理解する。



「―――」



 瑠璃の爽やかな笑顔が目の前にある。


 凄く、安心する。


 だからなのか、自然と彼女に手を伸ばし、強引にも優しく抱き寄せていた。


「ちょ……っ」


 確かな温もりを実感しながら、心地よくて頬が綻ぶ。


「瑠璃……」


「なに……?」


「あったかい……」


 柔らかくて、ほのかに甘い香りがする。

 その心地良さに再び瞼は降ろされる。


「……もう、まだ寝ぼけてるの?」


 誰かが傍にいてくれている安心感からなのか。

 それとも、ただ眠いだけなのか。


 太陽の温もりと瑠璃から伝わる熱と、身を包む毛布が心地よくて抜け出せない。


 『ここはもしかしたら天国なのではないか』と、呑気にもそう思う。


「早くしないと、学校遅れちゃうよ?」


 そう忠告をしていながら、瑠璃も抱きしめ返してくれる。


 5分ほどの時が過ぎ、ゆっくりと瞼を開ける。

 徐々に意識が覚醒し、瑠璃を抱き寄せていた手から、するりと力が抜けていく。


 未だ、目がしょぼしょぼする中、瑠璃はそっと笑むと、額に柔らかな感触が伝う。


「……ん?」


 今一瞬、何が起こったのか。

 考える間もなく、瞬きを繰り返していると、瑠璃は立ち上がる。


「それじゃ、先行ってるね」


 いつも通りの笑顔で、瑠璃が部屋を出ていく。

 物静かになった空間で一人、思考は現状を遡る。


 瑠璃は教師だから、生徒よりも先に早く学校へ向かう。

 生徒である自分と、教師である瑠璃が同棲していることを周りは知らない。


 もし、誰かに見つかるようなことがあれば、世間体的に問題になる。

 別に血の繋がりのない家族であって、やましいことは何もない。


 ただ瑠璃の手によって、この関係がバレることは決してない。

 瑠璃は、どんな手を使っても、この二人暮らしを脅かすものを排除するから。


 本当に何者なのか、何故そこまで溺愛してくれるのか。


 それはわからないけれど、自分も同じ気持ちであるから、大した問題ではないのだと思う。


 ここの暮らしは、本当に心地良いから。



「―――」



 ふと、額に触れて先ほどの出来事を思い出す。

 寝ぼけながらも、近づいてくる瑠璃の顔を確かに瞳は捉えていた。


 朧げな記憶が鮮明になっていくと、瑠璃の行為に理解が追いつき、目が冴える。

 さり気なくも不意にされた口付けに顔が上気する。

 瑠璃の唇が生々しく脳裏に蘇り、意識せずにはいられなくなる。


 そうやって、瑠璃の行為に悶えた朝だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ