王太子殿下とアルト様
頭を上げようとしないフィーネを見つつ、王太子は小さく吹きだす。
「……変わった格好をするのだな。……聞いていた話と違うな。清楚で淑女のグルーデン伯爵令嬢……。人の噂とはあてにならないものだな。まあ、それはいいとして…。アルト!」
背後にいた側近(と言っても宰相候補と名高い侯爵令息のアルト様だ)を呼び、フィーネに付添って帰るように命じた。
保健室から出るとアルト様が手を差し出す。
「グルーデン伯爵令嬢。けがの状態を知らせに伯爵家の馬車は先に帰しましたので、我が家の馬車で一緒に参ることにいたしましょう」
「……」
アルト様と言えば王太子殿下と同じくらい人気がある人。こんな人気者と一緒に帰ったら敵を増やすばかりじゃないの。
差し出された手を遠慮して微笑んだ。
「いえいえ、お気になさらず。これしきのけが、たいしたことではありませんわ。校門の前に生徒が乗れる学園乗り合い馬車がありますので乗って帰ります。伯爵家近くに停まるのでご心配なく」
「王太子殿下から頼まれたのです。平民と同じ学園馬車に乗せたとなれば何と言われるか。あなたは伯爵令嬢ですよ。乗合馬車は比較的豊かな平民向けの物、あるいは低位貴族が使用するものです」
話をしていると分かるが王太子殿下もアルト様も無言の圧力がすごい。何かそこが知れないような……。王太子殿下は婚約破棄しやがった馬鹿な王子殿下と本当に血がつながっているのだろうか。
こういうそこが知れない人たちとはとっとと距離を置きたい。
「では送っていこう」
無言の圧が…。
「は……はい」
送っていただいた侯爵家の馬車は、当たり前のことだが今まで見たことも乗ったこともない素晴らしい乗り心地豪華さで……なのに、跳ね上がる気持ちと反比例するほど…話も盛り上がるどころか驚くくらいに……一言も話さなかった。
話したらぼろが出るしね。
「続きの話は後日に話そう、と殿下が言われていた」
そういってアルト様は爽やかに笑っていた。馬車はすんなり帰っていったけれど、あの笑顔には裏があると思う。
わたしのカンがそう言っている。
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