覚醒
医務室で頭痛を和らげるハーブのお茶をいただき、しおらしく見えるようにうつむきながら考え始めた。
冷静に冷静に。
冷静になって考えよう。
私の中では相いれないほどかけ離れた考えが対立している。
一つは根幹をなしているであろう私。
幼いころから空手を習っていた。隣の家が空手の道場をしている関係で「こんなにかわいいから何があるかわからないだろう。空手に関しては私が全てを出すから」と祖父は友人である隣の空手教室に4歳の時連れて行った。
小学生の頃には地区予選優勝、全国大会にも出てベスト4に入るようになった。強い選手が数人いて優勝と準優勝はできないものの3位か4位にはなっていた。その頃は相手と対戦する組手が得意だった。
週に3回ある練習だけじゃなく中学生や高校生に混じり合計週6回通っていたっけ。真面目だったから学校の成績もよかった。
中学生になり成績こそ公立中学校ではトップでも、空手では全国大会でベスト16くらいになった。組手では勝てなくなりつつあった。その代わりに型でベスト4をとれるようになった。
「毎日練習してたのに。何なのよ、この手と足」
思い出しながらフィーネが自分の手のひらを見ると以前の引き締まった硬い拳と筋肉のついた頃とはかけ離れた白い細い手と足。
「ひょろひょろ」
軟弱すぎない。ちょっと蹴っただけの足はじんじん痛むし。
ちょっと正拳突きしただけなのに手にはひび割れたようなあとまでつき、真っ赤に腫れて骨折したかのような痛みだ。
「今日から鍛錬よ。鍛錬に勝るものなし。走るか」
足はあの男を蹴っただけなのに歩いただけでうっすら痙攣している。
「ありえないでしょ。この足」
足を撫でさすると、冷静な私に押し出された心の中の令嬢が囁き始める。
鍛錬とかだめよ。令嬢らしくないわ、と。
今いるこの世はドレスを着て上品にしなければいけない所らしい。
令嬢であるはずの部分が、今メインを占めているガサツな私に対して不安な気持ちを抱いている。
「王子を殴るなんて。ありえないのではなくて! どうしたらいいの」
いやいや誰も見ていない……多分……護衛が見てた?
見てない見てない。
あの人たち、鍛えているから見てるかも?
前を向いて生きていこう。
王子と言えど、第2王子。
しかも第1王子である王太子殿下と違って評判があまりよくない女にだらしない……いや令嬢に非常にやさしく距離も近く……努力も嫌いだから勉学も今一つ、というか剣だって持てるのってレベル……あれなら多分何とか誤魔化せるはず。
王太子殿下は容姿端麗、頭脳明晰、騎士団で鍛錬もされており人当たりもよくリーダーシップもとれる誰からも一目置かれる信頼厚き王太子。しかも隣国王女であった正妃から生まれた嫡男。この人なら誰もフィーネの味方はしてくれなっただろう。
だが今回は我が国の男爵令嬢であった側妃が生んだ第2王子だ。
大丈夫大丈夫。
お父様に相談しておいたほうがいいかな? 怒られまくるかな?
お兄様に相談しよう。お兄様なら優しいし。
うん! そうしよう。
で、なんで殴ったんだっけ?
う~ん? と考える。