どこまで誤魔化せた?
「お前たちも見たであろう」
王子は護衛を振り向き叫んだ。
「一瞬のことではっきりしませんが、……なんだが令嬢の足が王子の頭を前後し2回ほど蹴ったような…。しかし……令嬢です。令嬢なんですよ。一番体を動かされるのがダンスぐらいですよ。ましてやフィーネ嬢は誰よりも淑やかで…」
「王子のみぞおちを殴るなど……無理でしょう」
「殴ったように見えましたが、まさか令嬢が……」
小さな声で二人の護衛騎士はぼそぼそと呟いた。
「足が頭のほうまで上がるなど無理ですわ」
足が頭のほうまで上がったのを見たのだろうか。
友人の侯爵令嬢が眉をひそめた。
「殿下のほうへフィーネ様がふらりと倒れられたのではありませんか? それが足が上がったかのように見えたとか?」
「スカートが舞い上がっていましたもの……倒れられる?…ところでしたわ」
「ですけれども殿下が殴られたと言われるのですもの……なにか叩かれたりされた……とか?」
「まさか…いくら王子殿下とはいえ、ひどすぎますわ。殴って蹴って、など。フィーネ様は今まで走ったことも長時間歩いたことすらないのに、そのような乱暴なことをされるわけがないではありませんか」
「でも、もしもですわよ。これはフィーネ様を陥れるための王子殿下による冤罪?かもしれませんわよ。大きな声では言えませんが、もしも……殿下と婚約者であって同じような婚約破棄などされるようなことがあれば…婚約破棄するためにわたくしたちも同じように殴ったとか言われるのでしょうね。殴ったとか暴力をふるったとかであれば婚約は即座に破棄されますもの。ひどい話ですわ。してもいない暴力をふるったなど言われるとは…」
「小さな声で言わないと第2王子から不敬だ!とか言われますわよ。先ほどの話はなかったことにいたしましょう」
「そうですわ。怖いですわよ」
「ですけれども令嬢が殴るとか。男性ではありませんのよ」
「なにをおっしゃるの。殴ると殿下がいわれたからには殴られたのよ」
「あなたこそ何を言っているの。こんな冤罪がまかり通ってはこの国で生きていくことが怖くなりますわ」
こそこそとした小さな声で、だがちゃんと内容は聞き取れるほどの大きさで令嬢たちは眉をひそめながらうわさ話をするように推測に基づいた話をもっともらしく真実のように話をする。
一緒にいた令嬢たちが学園で仲が良いグループだったのも幸いしたのだろう。比較的フィーネ寄りの話になっていてありがたい。
彼女たちの話が真実と思われるように、涙を流したと思われるよう目をこすり、眼のふちを赤くし泣いているふりをする。
「何もしておりませんのに。ただ……ただ王子殿下が腕をつかまれようとしたので、逃げようとしただけですわ。その時に倒れようとしてふらりとして殿下のお腹にあたったかもしれません」
殴ったと言われるなんて……うううっとその場に顔を手で覆いしゃがみこむ。
「ひどいですわ」
どこでぼろが出るかわからない。
この場に長くいたらやばいかもね、と冷静な私が頭の中でつぶやいた。
早くこの場から立ち去らないと。
「ひどいですわ…ああぁ…頭が割れるように痛みますわ」
ああ、とはかない声を上げて倒れるふりをすると護衛兵士や友人のご令嬢たちが医務室まで行くのを手伝ってくれた。