フィーネの決断
「ほめていただき、ありがとうございます……じゃあ、なくて…」
嫌なのだ。何が嫌なのかと言えば。
王族だからだろうか。
それとも王族が持つ血なのだろうか。
女性関係が華やかだ。
華やかと言えば聞こえがいいが、一人の人を大切にしない。
その時だけは大切にするけれど。
蝶から蝶へと移り気だ。
王族の中で毛色が違うのはミリア様の公爵家。つまりミリア様のお父様とお祖父様お二人だ。彼らだけは一人の女性を大切にしている。
だが今の王はその当時完璧令嬢と言われた公爵令嬢、今の王妃殿下がいらっしゃるにもかかわらず学生時代の恋人である男爵令嬢をどさくさまぎれに側室にしてしまっている。その子供である第2王子殿下もミリア様という素晴らしい人がいながら阿婆擦れ男爵令嬢に夢中になっていた。
王太子殿下だって、きっとそう。
「たとえ婚約し成婚したとしても、王太子殿下は今までと同じように婚約者とは別の女性を側においていらっしゃると思います。多分間違いないでしょう。今までだってそうだったじゃないですか。私は浮気者や気の多い男性と一緒に人生を過ごしたくはないのです。……不敬な言葉ばかりで申し訳ございません」
王太子殿下はフィーネの言葉に苦笑すると、フィーネの手を取り手の甲にそっと口づけた。
「今までの私の言動から浮気者だと思っているのだろうが、ただ探していただけだ、私の側にいるべき人を。フィーネ一人にすると誓おう。……両親から言われ、わざわざ時間を割いてまで気が進まぬまま令嬢の相手をしていたのが災いしたな」
王太子殿下は少し困惑したように目を伏せる。
「信用できないのだろうが、これからの私を見てもらえば分かってもらえる」
「弟殿下と同じ状態になった時……自分ではなくミリア様と第2王子殿下を見ていた時ですら殴ってしまったのに。……もし、あれが自分の事だったら浮気した殿下に対して気持ちを抑えることができなくて本気で殿下が瀕死の状態になるまでボコボコにするかもしれません」
フィーネの真剣な声にハハハと殿下は笑った。
「ボコボコにされるようなことはしないから私の所においで、フィーネ」
「不敬を承知で申し上げますが信用ならないのですよ」
「今まで女性が近くにいても気持ちが騒ぐこともなく相手をすることすら面倒であった。今フィーネと話すのは楽しいし、初めてフィーネを見たときに側にいてほしいと強く思ったんだ。
それと言い訳になるがマルマ伯爵令嬢とは距離が近いと思われていそうだが、あれだけは違うからな」
マルマ伯爵令嬢……白百合の君ね。近いというか、話す時の顔と顔が近かったし、恋人とは違うというのはどういうことだろう。
「あれはアルト、側近のアルトの幼馴染でつい先日婚約者となった。二人とも思いあっているのははっきり分かるのに両方とも動きがなかったので、ちょっと当て馬などしてみた。マルマ伯爵令嬢のことになるとアルトはつかいものにならないからな」
はにかんだように笑う王太子殿下を見ると、フィーネは溜息を吐いた。
「……兄から聞きました。重臣会議で庇ってくださったそうですね。第2王子殿下の婚約破棄の時、私は殴ってはいないと言ってくださったと…ありがとうございます」
「……コモンには言わないように言ったのだが。フィーネの心身の強さが心強くてね。……今まで私の側にいる人は私に甘えるばかりの人しかいなかった。王太子、王となった時、私は孤独だと思う。その時、私を支えてくれる人が必要だとずっと思っていたのだ。……私がこの国の一番上に立った時に一緒に並び立つ人であったほしい。フィーネを庇ったのではない、フィーネを私から遠ざけたくはなかったのだ…私の横に立ってくれないか」
フィーネはバイウエル殿下の瞳を覗き込んだ。
「本当に浮気しませんか?」
バイウエル様は跪き、フィーネの手を取りそっと口づけた。
「フィーネ一人にすると誓おう。ほかの女性によそ見したりはしない。だから私の所へ来てくれないか」
シルバーの髪に紫の目のバイウエル王太子の言葉にフィーネは導かれるように頷いた。
「よろしくお願いします」
きっと、これから先は想像するより大変な日々が始まるだろう。だけどバイウエル王太子殿下を見ていると一緒に相談し、話をする未来もあっていいとフィーネは思った。
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