手を振り上げた第2王子殿下
「第2王子殿下にエイミー様、わがグルーデン伯爵家にどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか。しかも前触れなしとは」
前触れなしで来るなんて礼儀知らずもいい所よ、そういう意味も込めて冷めた目を送る。
「私は王族だぞ。前触れなしでも大丈夫だ」
「わたくしが知っている範囲では王族の方で前触れなしで突然どこかの邸宅へ行かれるなどなど聞いたことがありませんわ」
「うるさい女だな!
私が用事があったのはお前ではなくプレスト公爵とミリアにだ!」
「婚約破棄をされたのでミリア様をミリアと呼ぶのはよくありませんわ。公爵令嬢もしくはミリア嬢とお呼びしたほうがいいですわよ」
「お前はいったい何様のつもりだ。関係がないにもかかわらず、何度も口を挟むなど。本当にうるさい女だな!」
フィーネに吐き捨てるように王子は叫んだ。
「そうですわ~。ミリア様~、ミリア様が勝手に婚約者を降りられたせいでわたくしにドレスを買うお金がなくなったのですわ~。元に戻ってくださいまし」
何を言っているのだろう、この男爵令嬢は。
しかも、それは王宮から支給される王子妃用の金額では?
「エイミー様。ミリア様はあなたからミリア様と呼ぶ許可を与えてはいらっしゃいませんわ。公爵令嬢とお呼びするのが正式です」
エイミーがうるさいとばかりに歯をむき出してフィーネを見た。
「フィーネ様には言っておりません」
下品だな、と思いつつフィーネはやんわりとほほ笑んだ。
「ここには公爵閣下に公爵令嬢、騎士団長である伯爵がそろっておられます。男爵令嬢であるエイミー様に意見するのは同じ学生であるわたくしの務めですわよ」
まあ、王子にも言うけれどね。
「うるさいんだよ。だまれ!」
王子はフィーネのほうに向かうと拳を振り上げた。
フィーネは向かってくる王子の右手を左手で払うと同時に、右手を鳩尾に叩き込んだ。
考える前に体が動いた。
お腹を押さえてうずくまった王子はしばらくうんうんうなっていたが、唸る声が落ち着いてくるとフィーネを睨みながら口を開いた。
「お前!不敬だぞ。王子に手を上げるとは何事だ。不敬にもほどがある。良くて幽閉、悪くて打ち首だ」
王子を冷たい視線で見ていたプレスト公爵が緩やかに首を振った。
「何を言っていらっしゃるのか。フィーネ嬢は何もしておられません。手を上げられるも何も王子がフィーネ嬢を殴ろうとされて驚いたフィーネ嬢がよろけて倒れられただけではありませんか」
「そうですわ。か弱いフィーネ様がそのようなことをされるわけないですわ」
ミリアが白い頬に小さな手を当てる。
「……フィーネは、何もして…おりません」
父も目をさ迷わせ口ごもりながら呟いた。
「私も見ていたが何もなかったようだが」
開きっぱなしの扉に姿を見せたのはバイウエル王太子殿下。
「王太子殿下。このような所に…?」
「兄上……」
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