夫を信じていたのは正解でしたが、リアルホラーは勘弁してください
※名前変えたり時系列弄ったり脚色したりしてますが、実話が元のハーフフィクションとなっております!
※ネタ元の人達には許可は取っています
「そういやこないださぁ、ゆうちゃんのスマホに知らない番号のSMSで『いつになったら奥様と別れてくれるんですか?』ってメッセージ入ってたんだよね〜」
「…はぁ?」
「まてまてまて、さゆりさん、それはそんな軽いノリで笑って話すことなの?」
高校の同級生で、27となった今も定期的に集まる親友3人組でのランチの最中。
ちなみに場所はお財布に優しいのに味が本格的で美味しいと評判の、個人経営のイタリアンレストランだ
そして、3人組うちの一人である中澤さおりのあっけらかんとした暴露に残りの2人は待ったをかけた。ゆうちゃんというのは2歳年上の夫、雄二のことだ
片眉を釣り上げて「はぁ?」とこぼしたの内山美紀は身長が低めでふんわりとした茶髪のセミロングの可愛らしい女性だが、少し毒舌
おいおい、とツッコミをした片岡比奈子は長身で黒髪を短めに揃えている。どちらかといえば美人系な人物。中身は親しみやすい性格
「いや〜悪戯でしょ?ゆうちゃんの返信『は?』だけだったしさ」
浮気なんじゃないのかと心配する親友2人を他所にさゆりはポニーテールにした黒髪を揺らしながらピッツアをもぐもぐ食べていた
「でも、なにか不安だったからスマホ見たんじゃないの?何か旦那さんの様子がおかしかったとか」
「へ?2人で寝っ転がってて、目の前で見たよ?
何これ?って言ったら『多分番号間違ってんでしょ。不倫するような馬鹿のやることだし』って言ってたもん」
「ぐっ…ノロケですか」
「旦那さんロックとかかけない人なんだ」
つまり、なんとなく手持ちぶたさで旦那のスマホをいじくっても何も言われない環境だということだ。最近彼氏の浮気で喧嘩別れしたばかりの美紀には些か糖度の高い話だった
「あ、対外的にはスマホはガチガチガードだよゆうちゃんは。防衛意識高いからWi-Fi必ず出かけるときは切るし、フリーの回線には絶対つながないし、中国政府に個人情報吸い取られるかもしれないとかキモい!って言ってLINEもやってないし
物理は全然だけどね。パスコードも使わないし、指紋認証機能も付いてるけどオフだしおうちに帰ってくると基本そこら辺に置きっぱなしだよ」
「ノロケはやめてええぇ」
「その両極端はなんなのよ…まあそんなんじゃ浮気とかあり得ないわね」
「うん!」
そんなこんなで帰宅したさゆり。鼻歌を歌いながら部屋を隅々まで掃除していく。
結婚する時に夫に言われたのは『水場以外の掃除が苦手だからそれだけは宜しくお願いします。もちろん大掃除とかは手伝うからね』という控えめなお願いだった
掃除だけ、というのは本当にその通りだったようで夫の雄二は家事スキルが高く、和洋中の美味しい料理を作ってくれるしトイレと風呂はいつもピカピカ。洗濯も全て雄二に丸投げ状態。さゆりの下着はちゃんとネットに入れて洗い、陰干ししてくれる夫なのである…少し恥ずかしいが。
義母もいい人で『息子は昔から家事好きだからやらせときゃいいのよ。子供が出来たらさゆりさんの方が大変になるんだから』と、そんな実態について何も言わない…逆に実の母曰く『全国のお嫁さんに謝れ』だそうである。
だからこそ、掃除だけはこだわって時間をかけ、家中ピカピカにするのがさゆりの日常だったりする
そして雄二は毎回感謝をきちんと言葉にしてくれる。それだけですごく報われるしどんどん好きになっていく自分が居る
それに、さゆりは知っている。
雄二に浮気は不可能なのだ
もちろんそれ抜きでも信頼しきっているのだが、そこにさらに物理的に不可能という事実がでーん!と2人の愛を保証するのだ
雄二の仕事は一ヶ月総合型の残業。
これは月の総労働時間のうち会社が定めた所定をオーバーした分が残業になるという変則的なシステムで一回一回の勤務自体はよっぽどのイレギュラーがない限り必ず定時で終わる。つまり、残業で帰りが遅くなるというシチュエーション自体が無い。
そして雄二は毎月、勤務日程をさゆりに渡している。日程によってはかなりキツいこともあるため雄二としては『この日とこの日は家に帰ってきても一日中寝てるよごめんね』という説明のために渡しているに過ぎないのだが、それは同時に証明でもあるのだ
そして雄二はさゆりとの時間を本当に大切にしてくれるので、勤務以外の時の居場所はほぼさゆりが一緒に居る
それから、勤務中の浮気は職場環境的に120%不可能、それは間違いないことだ
だからこそ、あのメッセージに斜め上の展開があるなんてさゆりは思いもしなかった
というかそれは雄二も同じだった
数日後、2人でラグマットにゴロゴロしてまったりしていた時
さゆりのスマホは充電中、彼女は雄二のスマホで思い浮かべたキャラをランプの魔人が当てるアレに興じていた…そこで通知音が鳴る。嫌な予感が2人に走る
『だから、奥様といつ別れてくれるんですか!』既読
『あのさぁ、番号間違ってるんだわ。俺はあんたの不倫相手じゃないしもう一度宛先確認しろや。つうか不倫なんかやめたら?慰謝料とか発生して人生台無しになるんじゃないの?知らんけど
まあ赤の他人がどうなろうがこっちは知ったこっちゃないけどさ』既読
『もう!家に行きます!奥様も今更居ますよね?』new
『雄二さん今日お休みですもんね』new
弾かれたように立ち上がる夫は、見たことのない表情になっていた
窓を睨み付けながら相手の番号に発信する雄二は全身に殺気を纏っていた。漫画の表現でしかないと思っていたそれはそういった訓練なんかもちろん受けたことのないさゆりにも意外と感じ取れるものだった。そして抱き寄せられた腰からは何がなんでも護るという意志が伝わり、今までも大好きすぎるのにさらに惚れまくったさゆりだった。
…だが、今は流石にときめいている場合ではないとさゆりは思い直す
「…てめぇ、なんなんだ?あ?
なんで俺の番号と名前を知ってる?」
一度も聞いたことのない、雄二の攻撃性全開の声
そして
ピンポーン
雄二のさゆりを抱き締める力が強くなる
2LDKのアパート、そこまで広くはない。そーっとドアまで移動してスコープを覗けば、そこには30代ぐらいの外見は至って普通の女性が立っている…しかし、雄二からは困惑しか伝わってこない
さゆりは直感した。
目が、ヤバい
アレは関わってはいけないモノだ。深淵だ。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
さゆりを両腕で抱き締めた雄二は耳元で部屋の一番奥に行き、窓とか全部閉めて110番して待機するようにさゆりに言う。玄関の傘立てにあったブランドものの造りがかなり頑丈な傘が緊急用の武器として手渡された
心臓がバクバクしている。震える手で警察に電話するさゆりの頭には最初から雄二が実は浮気していたとかそういう概念は存在しなかった。
そもそも、最愛の夫は最初から、明確に"敵"に対する行動をしている
ガキャッ!!!
バールか何かを隠し持っていたのだろうか、サムターンが破壊される
「…やんのかゴラァ…」
リビングの椅子を持ち上げドアを睨みつける、そこに居るのは最早人ではなく、巣に現れた外敵から番を守ろうとする一匹の雄であった。
雄二は本能的に理解していた。女性とか関係無しに殴り殺す野獣にまで我が身を落とさなければ、最愛の妻を守り通すことは出来ない、そんな局面に立たされたのだと…理由は全く心当たりは無いが。
結局のところ、勝負は雄二の勝ちだった
女性が持っていたバールはリーチが厄介だったが中澤家の椅子が背もたれが高く頑丈なタイプだったのが幸いした
椅子の脚を刺すまた的に使い、敵に大きな怪我をさせることもなく制圧が出来た。もちろん後々過剰防衛とか言われたら面倒だとか、その手のリスクに思い至ったのは夫婦でどうにか敵の拘束を終えた後だが。
因みに使ったのは自動車の配線まとめなどによく使われるタイラップ。ドラマとかの見様見真似だったがきちんと機能した。
一週間後。夫婦は、妻の親友2人に報告会をしていた
「面識も本当になかったんですか?!」
「うん、完全に一方通行だよ
警察に聞いたら、どうも俺が職場にいる時間帯に近くのスーパーに徒歩で買い物に行くのが日課で、それでロックオンされたっぽい。前の道路から俺がよく見えてるから」
「ええ?!それだけでですか?!」
「こっわ…」
「ああ、俺とアレが愛し合っていて奥さんとは冷めてるってのはアレの頭の中では唯一絶対の真実だったんだよ。
ま、いくら恋愛脳でも普通はそこまで壊れないだろうと思ったら案の定…」
「覚醒剤で前科4犯なんですって。制服のお巡りさんに無線で呼ばれて後から来てくれた刑事さんにまたお前か!ってうんざりされてた」
「ダメ、絶対!てことねぇ…」
「げぇ…」
「うん、あれはヤバい。
なんか感情の起伏とかも落差が凄いみたいで、警察来たあと『マジさーせんした!ドアノブ弁償します!奥様とラブラブで羨ましいです!』みたいにあっけらかんと謝罪されて逆に鳥肌立った」
「「こっわ…」」
一通り、妻の親友達へ日常にいきなり発生したバイオレンスの報告を済ませた雄二は以前にも増して過保護になっており、さゆりを膝の上に乗せてブルスケッタをあーんしているが、美紀と比奈子はそこにツッコむことはしなかった
親友夫婦の無事を喜ぶ気持ちはもちろんあるが、生ハムとクリームチーズとブラックペーパーの筈のブルスケッタを口に入れるとジャリジャリと砂糖の味がする気がした
作者からの啓発でした!
違法薬物、ダメ、絶対!