文学少女モドキ
見つけた。
県内トップの進学校の制服を見に纏った彼女は今日も本を読んでいる。白い肌に端正な顔立ちで、黒髪がよく似合う。
僕の理想の、絵に描いたような文学少女だ。
彼女の手元に目をやる。
青い表紙で、付箋が大量に貼られた本。
僕が彼女を見かけるようになってからずっと同じものだ。
タイトルは『絶対的実践』
果たして面白いのだろうか。
今年の春、苦労して入った進学校に馴染めずにいた私に声をかけたのは、なんだかふくよかな2人だった。
なにやら『大食い部』を作りたいが部員が足りず困っているらしい。自他ともに認める『パッと見清楚系』の私に声をかけるくらいだから余程困っているのだろう。
私は二つ返事で入部を決めた。別に同情で承諾したわけでも籍だけ置いて幽霊部員になるつもりでもない。
私は心の底から食べることが好きなのだ。
入部の記念にと、私は一冊の本を受け取った。
彼女に恋してから早3ヶ月。
暇さえあれば彼女のことを考えていた僕が、久し振りに別のことで頭を一杯にしている。
というのも、文化祭の打ち上げの幹事を押し付けられたのだ。
なんとか店を予約できたものの、急に参加を申し出る奴や、値段が高いと騒ぐ輩の対応に追われ、息つく暇もない。
「嗚呼、あの子に会いたいなあ。」
結局16歳男子の思考なんてこんなものだ。
入部した時に貰ったグルメ本。
行った店のページ全てに付箋を貼り付けているせいで毛虫のようになっている。
いつしかボロボロになってしまった表紙には、2人がカバーを作ってくれた。
青地に黒で『絶対的実践』の文字。
2人曰く、「これ電車で読めば絶対モテる。文学少女に見えるもん。」とのこと。
相対性理論の対義語を取ったのにはセンスを感じるが、これでモテたら苦労しない。
さて、今は目の前の食事に集中しよう。
いつも通り部員3人で串カツを囲む。
他に団体客がいるようで店内はかなり賑やかだ。
食べ始めてしばらくすると、とある男子高校生と目があった。確か電車でよく会う人。
彼は赤面してぐるぐると謎の動きを繰り返した後、なんとこちらに向かってきた。
戸惑う私の目の前で彼は言った。
「絶対的実践、僕も読みました!良かったらお友達になりませんか!」
2人の口から串カツが飛び出した。
なろうラジオ大賞のために初めて投稿してみました。文字制限に悩まされながらも短時間で書き上げた拙い文章ですが、楽しんで頂ければ幸いです。