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八話  なんで?

私はテストののち、またしても桂木の車で移動した。

「さて、着きました、ここに泊まってください」

桂木が言う。

「和風旅館ですか」

芸が無くつまんない返答を私はした。

しかし、面白い答えを誰も求めているワケでは無いのでコレでいい。


車が留まり窓からは、和風な建物が見える。

神奈川の隅っこからこの東京までセーフキリングをやりに来た私に、わざわざ泊まるところが用意されてるらしい。


ありがたい話だ。

シニアでセピアだとか言えばいいのであろう、この二階建ての木造建築はまぁまぁ綺麗だ。

ソレに結構デカい。まさしく荘厳。

……宿泊するのに、いくらかかるんだ?

「安心してください、既にセーフキリングが終わる8月末までの宿賃は会社持ちです」

何も聞いてないのに桂木は言ってきた。


なんか頭の中を読まれてるみたいで嫌な気分がした。

ま、それよりこの宿がまともな所かの方が気になるけど。


「それでは、どうぞ」

すぐ横の車ドアが開く。

「あっ、じゃあ送ってくれてありがとうございました」

私は礼を言いながら降りた、後ろから声がかかる。

「それでは、明日も迎えに来ます」

ブロロロロ、というエンジン音がして、車が発進する音がする。

ソレはスグに遠ざかっていき、聞こえなくなった。


さて、ココにとまるわけか。

宿に向いて、観察する。

玉姿庵。

そういう文字が書かれた看板を入り口の上に掲げている。

そのアルミサッシの引き戸を開き一歩進んで中に入る。


奥行きを持つフローリングの廊下が見える、わりと現代的な玄関。

そこには……30くらいだろうか?目立たない小じわがあるくらいに老けた容貌をした女性がいて、出迎えだろう、私に深く頭を下げる。

女性としては高めの身長と、微笑みと着物と、右目の下の黒子がが特徴的なこの人は間違いなく女将という奴だろう。


そんな彼女が言った。

「ようこそおいでくださいました、糸川にっけ様ですね、不動霞様の後継者の」

「え、はい」

また不動霞の名前が出て来た。 

「不動霞様の使っていたお部屋があなたのお部屋です」

「どうも」

不動霞と言う時、彼女は私をジロジロ見ていた。

比較でもしてるんだろう、多分。

不動霞という存在はどうやら数多くの人間の心に色々なモノを残しているようだから。

「二階に上がって一番奥の部屋をお使いください、お食事はお時間が来た時に持って参ります」

たったそれだけで、彼女は会話を切り上げた。


え?いいのか?ソレで?


「……あの?もっとこう、ここで住むうえで注意することを言ったりしなくていいんですか、あと徹底した本人確認とか」

「ここに滞在するうえでは、犯罪になるような事さえしなければ基本問題はありません、ただ……」

「……ただ?」

なんだこの人、凄く真面目な顏して。

「夜はあまり出歩かない方がいいです、治安が悪いので」

当たり前だろう、昼より夜の方が治安がいい場所なんて何処にもないだろうし。

とはいえ、そういう文句はメンドクサイので心の中にしまっておいた。

「それと本人確認ですが、顔は事前に知らされております」

「それに、糸川様の試合は先程テレビに映っておりましたよ?」

くすり、と女将は笑った。


へぇ、なんか不思議だ。

テレビに私が映ってたというらしいが、実感が湧かない。


まぁいいや、そんなことは。


「じゃ、泊まらせてもらいますね」

「はい、どうぞ」

とりあえず、部屋に行こう。

女将の横をすり抜け廊下を進み、突き当りの階段を上がる。

一段ふむ事にキシキシ鳴る、ちょっとボロなのかもしれない。

そして二階に上がると、またさっきと似たような廊下があった。

でもいくつかの襖が均等な間隔で奥までと続いていた。


6グループくらいはこの旅館に同時に泊めれるのか。

でもどうやら誰も今は泊ってない。


経営は大丈夫なのか?

まぁ、他に客がいないというのは警戒すべき対象が減るので安心感があっていいけど。

そういうこと考えながら、言われた通り一番奥の襖を開けた。


すると時計や、先ほど言及されたテレビや靴棚といった、臨時の住処として最低限度の生活を保障した部屋があった。

そこそこ広い。

相撲取りでも4人か5人は入れそうだ。


良い部屋だと、見た瞬間わかった。

でもそこには窓のこちら側を拭いてる少女がいた。

そうとう熱中してるのか私の存在に気づいて無い。


少女は、窓を開け、身を乗り出し外側を吹き出す。

だ、大丈夫か?

けっこう思いきった乗り出し方をしている。

今にも落ちそうだ。


案の定ずるりと彼女の体は頭から外へと滑って―――待て待て待てヤバイヤバイ!あれ落ちる!

ちょっと待て!


ともかく素早く、窓枠に乗って私も身を乗り出した。

上手く彼女の肩のあたりを掴み。

「大丈夫?ゆっくり部屋の中に戻すから、落ち着いて」

「え、うん」

彼女は平気そうな顔をしていた。

焦り、不安、恐怖、それが見えない。

私がなぜこんな事をして、言っているのか疑問に思っていそうですらあった。

なぜ?

……いや、考察してる場合か。

両腕でゆっくりと、彼女の体を戻していく。


ぬるりと彼女の体は部屋の中に戻った。

代わりに外には景色だけがある、下には庭が見えた。

ほっと一息ついて、窓枠から降りようとした。


しかし、体の力は変な抜け方をしていたのだろう。

それに先程、ここは拭き掃除をされて滑りやすくなっているという問題があった。

青空が見えた。

「え」

声が漏れる。

体が倒れていた。

感覚が不安定で無秩序な状態にある事から考えると間違いない。


これは落ちる。

しかも頭から!

嘘だろ?こんな場所で、こんな風に死ぬ?

生きる理由はあまり無いが、死にたくない理由はたくさんある。

自分が消える事への純粋な恐怖が強くある。

だけど、無理だ。

窓枠を掴もうとしてるけど、指先はただ空を無為に切り裂くだけ。

私の手は何もつかみ取れない、いつもそう。


そこまで考えて、刺すような恐怖を感じて。

だけども、地面は近づいて。

急にそれも止まった。

「あの、大丈夫?ゆっくり戻すよ」

どうやら、彼女が私の足を引っ張り窓にひっかけてくれたらしい。

……た、助かった。マジで今のはヤバかった。

焦った。


それから彼女は本当にゆっくりと、私の体を引っ張り込んだ。


「もう大丈夫だよ」

彼女は私に向け、恐ろしい目にあった子供をなだめるような口調で語る。

「先に死にかけてたのは、そっちじゃ」

「あぁ、そういえば怖かった、助けてくれてありがとう」

軽く彼女は笑う。さっき死にかけたのに、どっかイカれてるんだろうかコイツ。


なんだこいつ。

改めて観察すると何者だろうか?


宿泊客っぽさはない、つまりここの職員だろうか。

その結論に至るには疑問点が多い。

でも和風なファッションだった女将と対称的だ、きつめの青短パンに黒の半袖シャツと思いっきりラフな”洋服”


ここで働くには不適切だろう。


それに、私より身長は少し高いけど大人ってほどじゃない、そのうえ赤子のような無垢な表情。

間違いなく未成年。


総合的に判断して従業員では無い可能性が高い。


じゃあ何者だ?

「ところでだれ?」

先にたずねたのは向こうだった。


いつの間にか私に気づいていた彼女に急に話しかけられ、硬直してしまった。

それを人見知りにとらえたのか、彼女は膝を少し曲げ私と視線をあわせた。

「私はこの旅館に住んでる羽馬(はねうま) 牡丹(ぼたん)

住んでる?泊まり込みの従業員とかか?

ともかく、名前くらいは知らせておいた方が今後役に立つだろうか。

何かの呼び出しとかがあった時のために。そうしておこう。

「……糸川にっけです」

「あぁ、お客さん」

牡丹は何が楽しいのかにっこにこだ。


「あの、従業員なんですか?」

「ううん、暇なとき趣味で手伝ってるだけ」

……は?暇だからって、仕事を?

もっと楽しい事は沢山あると思うのだけど。

牡丹が先程死にかけたのを思うと、強く思う。

この仕事お前向いてない。

「さっき女将さんと会ったでしょ?あの人と親子関係なの私」

「……もっと他に言い暇つぶしがあるんじゃ?」

少なくとも、絶対死なないモノがあるだろう。

「テレビ見たりとか?」


テレビ。

ソレを言われて、思い至った。

私の姿はどう放送されてるか、それが気になる。

すごく気になる。

たぶんロクな感じに描かれてないだろうけど気になる。


ここには丁度テレビがあるし、見れる。

「テレビのリモコンどこ?」

「はい」

懐から牡丹はリモコンを取り出して赤いボタンを押した。

ぷつ。

テレビがつく、その前に私はキッチリ距離を取って座った。

そして牡丹はテレビにくっつきそうなほど近くに座った。

子供向け番組でよく~離れてみてね~というお約束をテレビはしてくるが、牡丹は堂々と破ってる。


とはいえ、それ以上に重大な問題がある……牡丹の背中で画面が見えない。


「……テレビが見えないんですけど」

「え?見えてるよ?」

「”私から”見えないんだって!‼」

「あ、そうか」

牡丹は私の邪魔になっていると気づくと立ち上がって、それからこっちに歩いて、なぜか私の隣に座りやがった。


「ッ!」

得体のしれない奴が急に傍へ来たから、一メートルほど飛びのいてしまった。

「えッ!なに!どしたの!?」

牡丹は慌てている。

あまり好ましく無い状況だ、相手に警戒を抱いてると知られるのは。

「まさかムカデみたいな虫でもいたの!?」

なんか勘違いしたらしく、飛びのいた。良かった。


そして、私の後ろにさっと隠れやがった。

うわ。離れて欲しい。

「虫いないじゃん」

牡丹はぶつくさと文句を言った。

「ちょっと、見間違いを」

へぇ――、と私の肩にしがみついたまま返事がくる。


「それより、早く離れてくれませんか」

「なんで?」

「それは……えっと、人間にはパーソナルスペースってものがあって……」

「ま、いっか」

「……」

このヤロー私の返答も聞かずずうずうしく言った。煽ってるんだろうか?

ヘラヘラ笑う阿保ヅラを見るに、何も考えてないというのが多分真相。


とりあえず、彼女の手を払い離れる。

……この人はたぶん話しかけるとつき纏ってくる嫌なタイプだ。

無視して座り、番組に集中することにした。

牡丹もさっきより少し離れて座った。


画面の右上に“新競技セーフキリングを深く語る!”ってテロップが出てた。


若い女性キャスターがゲストに来た専門家へと、取り扱う題材の質問をして解答を受け……というタイプの番組みたいだ。


しかし私の見たいモノとちょっと違う。

コレは”セーフキリングが法的にどうなのか”の話をしてるみたいだ。

私の活躍が出そうには無い。


まぁこれはコレで気になるから見るけど。


『本物の銃を使うなんて銃刀法違反なんじゃないんですか!?』

キャスターが聞いた。

そういえば言われて見ると結構気になる。

『前年度”国を抜本的に見直そう”ということで大幅な法改正をした時がありましたよね?その時銃刀法も是正し、スポーツに限っては銃管理のルールを厳守すれば使える程度緩めたのですよ、その結果セーフキリングは行えるようになりました』

法改正ってのはたぶん桂木が言ってた科学発展の援助がどうこう的な奴だ。

……でも銃刀法を緩める必要無いと思うけどなぁ。



そう思ったら女性が

『う――ん、やっぱり、なんか納得いかないんですけど』

と聞いた。

『だって法改正の時期って銃とかで暴れた人がいた頃の話でしたよね?だっていうのに銃なんて……』

男が目を見開いた。

そして先程までの落ち着いた表情とうって変わっていた。

女性を睨み、子供を殺された鬼のような形相で

『それ以上―――』

”そ”という何かに繋げられようとしていた、たった一文字の音声が引き伸ばされる。


”そ”に続く言葉がなぜだか私にはわかった。”それ以上言うな”

そういう顔してる気がする。

何故だかはわからない。


画面は男の恐ろしい形相を映したまま動かない。

止まってる。


明らかに異常なことが起きている。


何か、何かが起きるのではと思ってじっと緊張感と共にテレビを見ていた。

そして、いきなり画面がプツンと切り替わった。

青単色の背景に黄色テロップが出ている。

“申し訳ございませんがしばらくお待ちください”という。


……凄く、やべぇモン見た気がする。

明らかに何かを隠そうとしたような。

でも、何を隠そうとしたんだろう?

うわ、気になる。


「ねーねー、今のニュースって何で男の人怒ってたのかな?」

牡丹がよくわかってないようで聞いて来る。

まぁ私も正直なとこ、牡丹の質問に細かくは答えられないクラスの理解度だ。

だって皆ご存知みたいに言われた”銃で暴れてた人達の話”も知らない。

私が借金でごたついた時期の話みたいだからしょうがないけども。


そう思って、ふと気づいた。

有名な出来事ならば、私みたいに問題を抱えたり特殊環境にいなければ大概の人が知ってるハズだ。


「さっきの銃で暴れてた人って、何の事?」

彼女にたずねるのはなんだか嫌だったが、それでも牡丹に聞くと、やはり知ってる様子だ。

「地球再生党」

「……政党?」

「え、知らないの?」

牡丹は不可思議そうに聞いて来る。

どうやら”常識”というヤツらしい。

私が忙しかった時期に、世界は色々変わってるのか。

私を置いてけぼりにするように。

ウラシマを思い出しながら私は教えてよと聞いた。

「銃乱射事件とか、拉致監禁とか」

おぉ、パッと出て来るもんだな。

なぜそんなことを彼らはしたのか?と聞くと。

「……え――ッと」

牡丹は頭を抱えた。


牡丹は見るからにそういう事件への興味はなさそうだし、情報を引き出せなくても仕方ないだろう。

まぁいい、だいぶ情報は集まった。

ちょっと考えよう。


テレビで隠そうとしたものの候補は二つしかない。

男の人は地球再生党が暴れてた時期に法改正があったという事を言われてから怒った。

つまり“地球再生党自体”もしくは“そいつらがのさばってた時期にあった法改正”のどっちかがヤバイってこと。


前者を言うのがヤバイというワケでは無いと思う、だって牡丹が”特集番組がたまにある”と言った。

その存在自体がヤバイのなら、そんなもの出来る訳ない。

つまり後者だ。


地球再生党がのさばった時期の法改正がヤバイってことだろう。

勘だが“国民が法律に構ってられない時、普通は通らない無茶な法案を通す”手段を使ったんだろう。

そりゃあんまり触れちゃだめだな。


でも、だとしたら、そもそも何のために法改正をしたんだろう。

何の得にもならないならそんな大がかりなことはしない。

科学者への援助強化は理解できる。技術の発展は純粋に国力の増強に繋がるから誰かが無茶にやっても変じゃない。

けど銃刀法をスポーツに関して緩和することは流石にわからない、誰の利益に繋がってるんだ?


「にっけちゃん、さっきからずっと黙って何を考えてるの?」

牡丹が何か聞いてくるけど、考え事のせいで頭に上手く入ってこない。

ふと、気づく。


最初テレビで言ったのは”法改正の結果”セーフキリングが出来るようになった、と言っていた。

つまり法改正があったおかげでセーフキリングが作られたみたいな話。

でもそれは嘘だったら?”セーフキリングが先にあってソレのために”法改正した、とも考えられないか?


……思えば私の知ってる法改正の内容は、どっちもセーフキリングに繋がってる。

バリアだって科学者への援助で作れるようになったわけだし。


「にっけちゃん?にっけちゃん?」

うるさいなぁ。

「ねぇねぇ、何考えてるのってば?」

……いや、待てよ。

牡丹にまだ聞いてみたいことがある。

聞くか。

「……法改正で、銃刀法や科学者への資金援助以外に手をつけられたものはなに?」

「えっと、たしかスポーツ興行の予算が上がったり、あと国営の電車賃値下げされたり」


ハッキリ言って鳥肌がたった。

どっちもセーフキリングに繋がる。

予算はセーフキリングがスポーツであることを考えればいわずもがなだし、電車賃は観戦に来やすくなるワケだ。


無茶な法改正がセーフキリングに繋がってる。

ぞわぞわと寒気がした。

絶対何かの闇がセーフキリングにはある。


……まぁ

「……ふ」


あえて、自嘲気味に笑ってみた。

すげぇ陰謀論、馬鹿馬鹿しい。


こんなのに盛り上がるのは、クセだ

社会の真実に気付いてる風を装って、頭が良いと錯覚したがるクセ……というか本能。

自分の人生に価値があるのだと、錯覚したがる悲しい我が性。

そんなの無意味だ。


自己満足以上のなんでもない。


闇が本当にあったとして、その闇になにをする?

解決するため動くか? 違う、そんなの私の仕事じゃない。 

ならば、それに乗っかって利益でも得る? ソレも違う。


どんな闇があろうとも、私は何もしないだろうから考える意味なんて無いのだ。


しかも、もし闇があったとしても地球再生党がいたから無茶な法改正が出来、そのおかげで私がセーフキリングを出来ている。

その結果が借金返済のチャンスを掴むという事。

だからそれに感謝すらすべきだ。


……そんな思考に吐き気がした。

私が持ってる身勝手さやおぞましさを一気に見つめてしまったようで。



「ねぇねぇ、さっきから何考えてたの?」

牡丹が私の顔をのぞき込んできた、近いのが嫌だからとりあえず後ずさる。

「べつに」

「ねぇねぇ、なんでつっけんどんなの?」

答えるのは面倒。

でも答えないともっと面倒なことになりそうだった。

「そういう性格だから」

「ふーん、べつにそんなこと無いと思うけどなぁ」

「……」

は?

「にっけちゃんはいい人だと思うよ?自分で思ってるより」



初対面のくせになにを、そう思って絶句したらなぜか、牡丹はテレビの方を向いた。

テロップの画面がいつの間にか切り替わっていて、様々なコマーシャルが流れていた。

アクセとか、寿司屋とか、化粧品とか、色々。

牡丹はつまらなそうに見てる。

見なきゃいいだろ、とは思った矢先にテレビの電源を彼女は切った。


「……なんなんだ、あんた」

あ。

ぼそりと心のうちを無意識に小さく吐き出してしまった。

牡丹は聞こえていないようだった。

……べつにそんなこと無い、ってなんだ。

なんで勝っ手に決めつける。

あほか。

ええいくそ何「がわかるっていうんだ。私の何があんた」に。


「え?」

……なんだ?急に牡丹が変な声を出して、なにか牡丹が変なものを見る目で見てきた。

「なんか言ったのにっけちゃん?」

「え?言ってないけど」

「言ったって」

そう言われて、今気づいた。

私はさっき、思考を声にしていた気がする。

な、なんで私が気づいて無い時は気づくんだ?

なんでだ。

……ただの偶然だろう、現実なんて所詮ただの偶然で悪い方に転ぶ。


んなことより。

「い、言ってない」

「言った!」

牡丹が声高らかに主張する。

不毛な言い争いになりそうである。

あぁ、クソ。そんなの面倒でお断りだ。

「言ったよ、文句ある?」

「そっか」

牡丹は、たったそれだけで満足した。


なんだお前。

飄々とした顔を見て、心の中で怒りが吹き荒れる。


何言ったかは、聞かないのかよ。

そんなに興味あるわけでもないのに食いついてくんな。

とは思ったが、別に聞いて欲しいワケでも無いので。

その文句はぎゅっと口をつぐんで、心の中にしっかりとどめた。



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