表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/40

四話 ……コスプレ?

昨日、ファミレスで金を受け取ってから。

私は一旦家に帰った。

大会の開催場が遠くだから、服をとったり外泊の準備をするためだ。


そこで家族と会った。

桂木とした話をしたけど、向こうが申し訳なさそうに何も言わなかったので

私はそれ以上何も話さなかった。



……で、それからどうしたんだっけ?

ごぼう天うどんの中で宇宙人と戦う夢を見たせいか寝ぼけてるみたいで、なんというかその記憶が上手く出てこない。

周りの状況を確認してそれを探ることにした。


かすかに吐き気をもよおす、臭いがしてる。

シートベルトを私はしてる。

私はいつの間にか車の後部座席に乗っていたみたいだ。

運転手は桂木。

窓ではコンビニや本屋と言った街の景色が流れている。

今は朝なようで、結構人が見えた。


……思い出した。

たしか、昨日の夜家に帰ってからすぐに桂木の車に乗って出発したんだ、大会の開催地へ。

私もセーフキリングに今日から参戦するから。


それで“セーフキリングのことを詳しく説明します”なんて言われて。

一昨日借金取りが来た日にロクに寝れてない私はそれから、説明を受けながら寝落ちしたんだ。

確かセーフキリングは総当たり戦だとか大まかにしか覚えてないんだけどどうしよう。

もう一回桂木に聞く?いやうーん、既に説明したことを?

……そしたら気まずい!

でもこのままセーフキリングに行って問題が起きてからじゃマズイかな、うんマズいよな。


あの、ちょっといいですか

私がたずねようとするのを、偶然妨げる形で、桂木が言った。

「あと二分程度でつきますね」

「え、もう?」

「出立してから、この東京に来るまで7時間はたっていますからね」

ここは都内なのか。

なるほど、フロントガラスの向こう側にでっかいでっかいドームが見える。

オリンピックが開催できそうなくらいにはデカい。

あそこがセーフキリングの開催場かぁ……へぇ―――。

「東京ドームってデカいなぁ」

「違いますけど」

「え」

「セーフキリング用に新たに建てられた、ネオ東京ドームです」

……”ネオ”なんてネーミングセンスに突っ込んでも、面白そうではないので黙っておいた。



……というか、あと二分でつくのか

じゃ、セーフキリングのこと聞いても、たぶん中途半端なとこで話は終わりだ。

じゃあ聞かなくていいか?

実際に試合を見れば大まかにはだいたいわかる。

大富豪のルールを見よう見まねで覚えられた私ならたぶんわかる。

よし、そうしよう。


と。

私は決めてしまった。

決意してしまった。

短絡的で、この選択は後悔するもののような気がしたが、桂木にたずねる勇気が湧かなかった。


そして、ドーム近くの駐車場に車を泊め、それから、ドームに入ってひたすら桂木についていった。

普通の入り口とはちょっと違う、あんまり目立たない裏口から関係者のみの通路を選手控室に向かった。



桂木に連れられて入った控室は清潔感のある白を基調としたそんなに広くない部屋だった。

よくあるタイプのモノなのだろう。

時計と、腰かけの椅子とテーブルしかないシンプルなつくりだ。

休めるのはいいけど、雰囲気は会社だったりといった真面目な場を想像させるから長居する気にはならない。


「じゃあ、ここでしばらく待っていてください」

桂木はそう言って、部屋から出て行こうとする。

「いつまで」

「君の試合がいつ始まるか確認してきます」


そして桂木は、控室から出て行った。

で、とりあえず椅子に座る。

なんとなく時計を見た、朝の8時30分のようだ。確かセーフキリングは9時から始まるんだっけ?たしかそのくらいだったはず。


それから私は五分程ただ座っていた。

……とにかく暇だ。

セーフキリングの会場でも見にいきたいが、このドームのマップはわからないから迷子になってもおかしくない。

それに桂木を待つべきだろうからなぁ。

早く帰ってこないかな。


バタ!

突如、入り口が開いた。

荒々しい開け方ですぐに桂木では無いとわかった。

「だッ!誰!?」

素早く立ち上がり、椅子を手に取る。

今から入ってくる奴は危ない奴かもしれない。いざという時はこれでぶん殴ろう。


「誰か、と聞かれれば答えなければならないだろう!」

バク転、側宙、ひねりを加えた側転、ロンダート、ハンドスプリング。

そして着地地点に机があったせいで、机をダイナミックにかちあげながら転げる。

といったアクロバティックな動きの組み合わせで入室してきたのは

声の質や、身長からして私に近い年齢の少女だ。

……セーフキリングに出場する相手なのか?


「君にとって記念すべき因縁の相手だ!君にとってはただの最初の相手だがな!」

怪我をしていないようで、彼女は立ち上がりビシッ!と私に向けぴんと指を伸ばす。

やっぱ、出場する相手だ。


でも、因縁?私となんの関係がこの人にあるのだろうか?

……まぁ、それよりも気になることがある。


「なんで、そんなコスプレ大会みたいな恰好を?」

彼女は、でっかい青マントを羽織っている。スノーボードなんかの時につけるゴーグルもしている。

とにかく、どこぞのヒーローを参考にしたようなファッション。

ふざけているのか?

ふと思う。

この人はある種”危ない相手”なのでは?

私の椅子を握る手に自然と力がこもった。


「なにッ!?……これはコスプレではない!私は”サイクロンガール”なのだ!」

彼女は堂々と胸を張る。

「どう見てもコスプレじゃんか!」

「ぐッ……そういわれるのも仕方がない、まだ装備を30%程度しか装着していないからコレが凄いモノであるとわからないか……」

そう言われたところで私の記憶が噴き出た。

―――個性的なキャラ作って目立つことで契約会社の広告をしてる子もいるんですよ、まぁ変なイメージがつきかねないんで徳宮テクノロジーはそんなことしませんが――

頭の中で桂木の声が響く。

昨日私がうとうとしている時に確かそんなこと言ってた気がする。

つまりこの人は”キャラを作っている”んだろう。プロレスの選手が悪ぶったりするみたいに。


そう考えたら格好に関してはおかしくない、か?

でも”因縁”のことがまだわからないから、椅子は掴んだままにする。

いつ戦闘になっても、どうにか優位を取れるように。


「サイクロンガールは風の戦士!見せてあげよう風神工場の、テクノロジー!」

ぶぉ――――ん。懐から羽無し小型扇風機をサイクロンガールは取り出して、テンションの高さについていけない私に向ける。

涼しッ。

「……税抜きで150円、安値だな!それに羽がないから小さな子供が指を突っ込んで怪我する心配もナシ!」

お買い得ッ!でも、私にとっては高い。


「まさか広告のためにそんな恥ずかしい格好で来たの?」

「一つ言っておく」

私が聞くと、サイクロンガールとやらはやたら真面目な表情になった。

なんだろう?

「恥ずかしくなんて無い」

そこまで強く主張されると反論する気も出てこない。

「……そっか、じゃあさっき言ってた”因縁”って?」


サイクロンガールは、腕を組んで壁にもたれかかった。

そしてたっぷりフゥ―ーっと息を吐いてから話し出す。……それもキャラ付けなのか?

「以前徳宮テクノロジーと契約していたセーフキリングの選手、君の前任者である不動 霞ーふどう かすみー

は私にとっては友であり倒すべき相手だったのだ!」

なるほど。

いや、わからん。

だからなんだ。

「本当に凄い奴だった、全戦全勝!徳宮テクノロジーの用意したショボい武器ですべてのセーフキリングを制していた!私は彼女の強さに憧れた!彼女に直接会って何度も話した!良い奴だった!戦うのが楽しみだった!」

へ―、私の前に徳宮テクノロジーと契約してた人って凄かったんだなぁ。

そんな感想しか出てこない。

その人のこと大して知らんし。興味ほぼ無いし。



「だが!私と戦う前に事故にあって意識不明!再起不能な可能性すらある!

そして君が彼女の代役としてきた!ならば君には彼女の代わりとなる義務がある!もっとも君には彼女の代わりなんて無理だろうがな!もっとも、誰でも無理だが‼」

「なんだそれ」


中々滅茶苦茶なことを言う。

ソレを言われて私はどうしろって言うんだ?

この人は私にどうしてほしいんだ。

不動さんとやらの代わりになれ!なんて言ってるクセにでもお前には無理だ!なんてことも言うし。

自分でも何言ってるのかわかってないんだろうか?なんか自信満々な表情してるけど。


サイクロンガールは堂々とした態度を崩さない。

なんだこいつ、どう彼女と向き合えばいい。


なんかイラっと来た。



私がどうすればいいか困窮していると、ドアが優しく開く。

桂木の声がした。

助かった、この人なんとかしてくださいよ―――そう思ったのもつかの間。

「にっけちゃん!いつ試合が始まるかわかりました!9時から君の試合です!」

……え?

9時はセーフキリングの試合が始まる時間だったはずだ。

つまり今日の最初は、私の試合?

え?試合見る時間無い?ちょっと待ってなんも知らずにぶっつけ本番?

大事な初陣で?ちょっと待て嫌なんだけど。大事な初陣で大失敗しかねないじゃん。

なんでいきなり私の試合なんだ。


嘘だと言ってよ桂木。言わんとぶんなぐるぞ。

―――――――――言わなかった――――― ああああ ああああー、 くそ ちくしょ

「そんなに強く拳を握りしめて、初戦から気合十分ですね」

桂木に何やらそんな声をかけられて、私は正気に返った。

ぶんなぐる、なんて選択肢流石に取らずに済んだワケだ。良かった。


そして、あれよあれよと時は過ぎて。


私は桂木から渡された装備をつけ、セーフキリングの選手としてサイクロンガールと20mの距離で向かい合って試合開始を待っていた。

……とにかく今のうちに状況を確認しておこう。

緊張の中、出来る限り冷静につとめる私はえらいのだろう。


まず人工芝が広がるここ凄い広い。

野球やサッカーが出来そうなくらい。

もしかして、セーフキリングがない時は別のスポーツの場所に使ってるのかも。

遠くに見える観客席もまるでそういう場のソレだ。ちなみに満席。

観客達にいる人達――男から女、子供からご老体、日本人から海外の人と多種多様な方々が何やら騒いでるけど、サイクロンガール頑張れーとかばっか。

私に対する応援は全然ない。

ちょっとくらい新進気鋭の選手に期待の声くらい無いのかよ。

……ま、いいけど。


これ以上歓声に耳を傾けるのも嫌だったから、フィールドチェック終わり。

サイクロンガールが私に話しかけてきた。なんだろう。何が言いたいんだ。

「泣くな、不動霞なら泣かない、むしろ逆境に打ち震え笑う」

知るか!


あと、泣いてない。

あぁもう!試合前だってのにメンタルがガタガタになりそうだ。

もう周りなんて無視してやる。


意識から観客席をシャットアウトすると、少し気が楽になった。


さて、互いの装備は……?

試合用の装備を着けて来たサイクロンガールは、先程と比べて五段階くらい進化してる。

灰色のヘルメットは何やら耳のあたりにスマートなアンテナっぽいものがついているし、服も全身にゴテゴテのプロテクター。

マントの生地もあきらかに上等だ。

武器も何やらゴテゴテしたのを二つ持ってる。たぶん銃。

頭のてっぺんから足までがさっきの”コスプレ”と違って、予算百億の名作映画から出てきたようなガチっぷり。

スタイリッシュでうらやましい。


それに対して私は貧相だ。

前腕と膝から下の部分ちょっとサビたとこのある、丸っこくて体積のデカい銀色のパワードスーツをつけて貰っている、あと無色透明のバイザーをつけるだけ。

スタイリッシュさの欠片も無い、むしろ泥臭さに満ちた感じのモノだ。

セーフキリングの中でホントにショボいんだろう。


しかもこれ、装着の仕方もなんかかっこ悪いのである。

どこぞの女児向け魔法少女アニメだとか、青年向け美少女アニメだとかみたいに装備が空中に浮かんで全裸になった人にバシーンバシーンとくっついてくみたいなモノでは無いのは許せる。

でも、dvdで見た子供向け変身もので、機械系のヒーローが立っている人間にガシャガシャとパーツ事に分けられたメカを仲間の手によってガシャガシャと装着してもらうみたいなメカメカしい感じすらない。


頑張って”どっこいしょ”とブーツを履いたり長い手袋をつけるように手足を装備品へ突っ込むだけ。

”着るのが楽”であるならその芋臭さも良い、なのだが内部で妙に引っかかる箇所があって、サイズの合ってない洋服を着る時みたいな感覚なのだ。

ハッキリいってダサいし地味だ。


まぁ、実用性があればそれでもいいんだけど、さび付いたりしてる箇所がところどころにあるのを見るにソレも怪しい。


技術力の宣伝する場所でコレって徳宮テクノロジーってお金ないんだろうか?

胴体のあたりは殆ど装備が無いからTシャツとかズボン丸見えだし。

武器もちっぽけな拳銃ナイフが一つずつ脚部に収納されてるのみ、スタイリッシュなサイクロンガールと比べてあからさまに見劣りする。

私なんかをスカウトしに来る程人材不足なのは会社がショボいせいってのもあったんだろうか?


それになんかバイザーの左下に緑色の数字出てるんだけど邪魔。

なにこれ。5500って書いてる。凄く邪魔。

あぁもう、切ないくらい相手と比べて雑魚だ。

不動霞とかいう人、なんでこんなしょっぱいモノで全勝で来たんだろう?


私が色々考えていると

歓声の中で凄くうるさいナレーターの声が響く。


『本日もセーフキリングが始まります!先陣を切って試合を見せてくれるのは!風神工場のサイクロンガールと徳宮テクノロジーの糸川にっけさんです!』

自分が今から試合をするのだと聞いて、ゴクリと唾を呑む。

私に出来るんだろうか?

今私が身に着けている、知識と装備は大したものじゃない。

でも、やらなきゃ。


『糸川にっけさんは本日から徳宮テクノロジーの選手として初戦!全勝の不動霞さんとはまた違った戦いを見せてくれるのでしょう!』

ファイトマネーが何円出るだとか、勝った時と負けた時の違いだとか。

そんな細かいことは寝てて聞いてなかった

でもそれは仕方がない、今の問題は勝つか負けるかだけ、そうだろう。


『それでは3・2・1ッ!試合―――開始ィィイイイイイイイイ!』

何もわからない状態で長期戦になれば知識と経験差で負ける。

だから、速攻先手必勝だ。

私はサイクロンガールに向け引き金を引いた!

サイクロンガールもまた私に向けて引き金を引いていた。

私の初陣は、西部劇が如く互いに銃を撃ち合って始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ