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35話  「戦う」

せつな達は謎の女性に連れられ、敵から逃げた。

そして4人乗りのバイクで移動し続けた。

敵から離れて、少しでも落ち着いて休憩できる場所を探した。


その結果、3階の放送室に辿り着いた。

バイクを廊下に置いておいても4人だと手狭な部屋だが、入り口は一つなので警戒する方向が一つでよく。

かなり落ち着くのだ。


「で、あなた誰?」

せつながボディースーツの女性にたずねる。

「“キタマクラ”所属ぅ、コードネームはlove、愛さんと呼べよな‼たまたま近所でガードレールの上バイク走らせる練習してたから来てやれたぜ!」

愛は、腕をクロスさせたポーズを決めて叫んだが、何も知らないせつな達にとってスカスカな情報だ。

それとバイクをガードレールの上で走らせる練習は大事故につながりかねないので決してやってはいけない。

「翻訳すると、この人は日本でテロリストや暴徒と戦う特殊部隊の人、私の高校時代の同級生、で、悪そうだけど案外良い人」

一閃が優しさを見せる。

「ケケケ、そうそう、私はめっちゃいい人、戦えない人を守るため生きてるのさ、けっけっけ」

「にっけちゃんは好きそう、あったら色々話してあげて欲しい」

牡丹が何気無く呟いた。

「とりあえず、味方って事なら何でもいいですよ」

せつなも牡丹もそれ以上追究しなかった。


だが、牡丹が言うようにここに、にっけがいたならばもっと様々な事を聞いたハズだ。

SATみたいなものなのか、なぜ“サカムケ”が部隊名なのか、とか、色々。

しかし、にっけはここにはいない。

だから、愛という名のうさんくさい美人は対テロ組織の特殊部隊所属で味方。

せつな達には、ソレでよかったし、わざわざそんな事追究して時間を無駄に使うのもいけない。

質問は重大な事だけするべき、理解していた。


そして、サクサクと作戦会議が始まった。

せつな達はこの状況を打破するためにまず現況の確認を行う。それぞれの見た状況を交換した。

そして共有される情報。

せつなが怪物三人に命を狙われ、仲間の一人がつかまり、代わりのように援軍の愛が来た。

ショッピングモールの入り口は封鎖されているのでとりあえずこの部屋に逃げ込んだ。


そして、これからの話が始まった。

「仲間がもっと大勢いると思うけど誰か呼べる?」

せつなが聞いた。

古武術教室や学校といったもののおかげで彼女自身の知り合いは多い、が、今役に立ちそうなヤツはいない。


牡丹も一閃も首を振る。横に。

「みんな忙しいから来るのは遅れるぜ!隣の県の隣の県の隣の家にある「武器とか持ってきてないのあなた」色々持って来た!バイクにぶち込んでな!何もかもぶっ壊してやれるぜ!私の力見せてやる見せてやる見せたらぁ、よしお前等見てろ」

愛がふざけそうだったので一閃が事前に止めるよう彼女自身の見識を語る。

「これは地球再生党関連の出来事だから、むやみやたらと人に頼るのはやめておいた方がいいわよ、どこに地球再生党の息がかかった人がいるかわからない、下手をすると余計に状況を悪化させるわ」


そのまま流れで、一閃が場を主導する。

「もっとも人を呼んでも到着は時間がかかるし、基本的には今ここにいる私達だけで切り抜ける事を考えるべき、だけども、そもそも皆は今後どうしたい?」

一閃に聞かれ一人ずつ言った。それぞれ何をしたいかはある程度定まっていた。


牡丹は、どうにか相手を説得してにっけを返してもらう。

一閃は、一旦モールの外に逃げてから体勢を整え、にっけを助けるのはソレから考える。

愛は、モール内のごたごたは自分一人で全部片づけるから、他はどうにか逃げて家に帰って寝てほしい。

というものだった。


三人の方向性はちょっとずつ違うが敵の手に落ちたにっけを助けるつもりなのは、同じだった。

だから、ある程度擦り合わせを行えばそれぞれの目的のため協力は不可能ではない。

ただ残り一人を除き。

「全力で逃げて、にっけは見捨てる」と言ったのは、せつなであった。


他の三人にそうする理由を求められ、せつなは答えた。

「助けても見合うだけのメリット無い」

「メリットの問題じゃないよ?」

牡丹が反論する。冷たい表情であった。

「だって助けに行っても殺されかねないし」

「トウカちゃんとも紙魚ちゃんとも殺しあうのやだよ、話合おうよ、きっと話せばわかるよ」

「んなの、綺麗事でしかない」

「綺麗と知ってるなら手伝ってよ!」

牡丹は声を荒げ張り上げた。

「でも、助けに行った私は積極的に殺される可能性が高いのに?」

せつなは淡々と反論を続ける。

「う、それは……ごめん、でも、だけど」


子供二人の口論が、ヒートアップしそうだった。

だが、それを大人である愛が間に入って割り込み止める。

「そもそも民間人かつ子供が血みどろの世界に行くのは我がトラストシンネンスピリットに反するぜっ!私だけで救出作戦は行くのさ!お前等雑魚は一閃に頼って帰れ‼」

「大丈夫?普通にあなたが返り討ちにあったらにっけちゃん助けられないわよ?」

一閃が聞いた。

「信頼出来ねーかい!?信用出来ねーかい!?こちとらプロだぜぇ‼‼‼ヒャハハハハ!」

どこからかナイフを取り出して、愛はくるくるペンの様に回した。

「高校生の時から知ってるから、信頼できない、あなた何度も私と遊ぶ約束すっぽかしたわよね?」

「高校の時貸した漫画を12年間返さないお前もふざけてるけどな」

「延滞料かかるまえにレンタルビデオ見るためにしょっちゅう休んで返すチャンス潰しまくった人がよく」

一閃は何歳か年が戻ったかのように、子供みたいな意地を張って口論をしていた。

愛といる時の彼女は自然体で彼女達二人にある、友情を感じさせるものがあった。


だけれど、せつなにとってそれはマズい。

こんな時に二人の世界に入り込まれてしまっては、無駄な時間が増えてしまう。


せつなは流石に一閃と愛の会話を止めよう、と動き出そうとした時。

突如、ピアノの音が部屋に響いた。月光だ。

なぜ?どこからする?など問いもせず四人は一瞬で、警戒態勢を取る。

どこから攻撃されてもスグ動けるよう。


だが、牡丹が正体に気づく。

彼女のポケットの携帯電話だった。

「ごめん、あ、……にっけちゃんの携帯電話からだ」

カメラ通話がかかってきていて、牡丹はそれを起動する。そうする以外の選択肢は無い。

もしかしたら、敵に捕まって逃げたにっけが連絡でもよこしているかもしれないのだ、ならばそれに出るしかない。

せつな達は息を呑み、画面をのぞいた。


だが。

「どーも」

トウカの顔がアップで写っていた。

「にっけちゃんを返して!トウカちゃん!なんでひどいことするの!?」

牡丹は彼女を見た瞬間まくしたてる。その高い反応速度にせつなは少し驚く。

「そうするのが正しいからってわけね、わかんないだろうけど、わかったらアンタも多分納得するよ」

「他の人に嫌な思いさせても!?」

「……あ――漁火せつなを差し出すまでは殆どの譲歩が出来ないの、マジ」

トウカは牡丹を無視するように話す。


「そんなことしたらせつなちゃん殺されるもん!出来ないよ……」

トウカは答えるように画面からフェードアウトする。

その代わり、トウカの顔で隠れていたにっけの姿が映った。

床に倒れている彼女はボロボロだった。

絶望に満ちている。

「にっけちゃん!」

「ヒャハ、すっげぇ‼死なないよう丁寧ないたぶりだぁ!すっご!うわ――こんなんなるんだ背骨折られて動けない人、なぁ牡丹ちゃ、どう思うコレ?」

楽しそうな愛を一閃が軽く殴った。

なにか悪い事してる私?と聞かれて、一閃はわからないなら何も言うなと叱った。


トウカは、語りを続ける。

「私はともかく仲間が残酷で、三十分ごとに指の骨折ってったりするつもりなワケ、で、せつな差し出したらそれは止めてあげるから、アンタらの善性に期待してるわ」

「どうして!?ひどいよ!」

ぷっつりと、トウカの手によって通話は勝手に切断された。


「やっぱ、逃げた方がいいな、死ぬのやだし、相手頭いってるし」

せつなはぼやく。牡丹がそれに反応する。

「……あんな風になってるにっけちゃんも可愛い、けど、にっけちゃんは苦しんでるから助けないワケにはいかない」

「それはそっちの理屈でしょ、だいたいどうするの説得って、あそこまで出来る人間相手に話合いが通用するとでも?」

なんてせつなは言いつつも、牡丹の説得は意外といい手段ではないかとふと気づいた。

べつに和解できると思ってるのではない。

しかし、相手のうち一人か二人でも精神的に動揺を誘えるなら戦うにも逃げるにも楽になるのではということだ。

それに思い至り、牡丹にもう少し柔らかく接するかと牡丹がせつなが考えを改めた時。


「それはごめん」

牡丹はせつなの行動に納得しきれていない様子だったが、謝った。

唇を強く噛みながら。

ここで、にっけを助けるために動いてくれ、とせつなに言うのは彼女の道徳心が許さない様子だった。


だが。

「悪いけれども、多分普通に逃げるのは難しいわよ?」

せつなにとっては最悪な事実がつきつけられる。

それをした一閃の耳には、機械的なものがあたっていた。

集音機だ。

愛がバイクに入れて持って来たものを、いつの間にか勝手に取って来たらしい。

耳が元より良い彼女がそれを使う事は、絶大な効果があった。


「いつの間にか状況が変わってたみたいね、このモール完璧に占拠されたわよ?」

一閃以外の三人が一閃に注目する。

それを確認し、一閃が具体的に説明する。

カイブツ娘の三人は変わらず遠くの空き部屋にいるが、ソレ以外が変わった。

このモールの一つの入り口につき3人程度だった見張りが増えたのだ。

今は30以上。ヘタをすれば40人敵がいる。ついでに皆銃器を所持。

特殊で微弱なモノとは言え、毒ガスがまかれている今はあまり積極的には入ってこないようだったがそうなれば危険だ。

「30で最低、じゃあちょっと厳しいぜ、ケケケ、数の力+銃器はガチでやべぇ、一閃でも私でも難易度ベリーハードだ、死亡率94ひく5たす2%!」

愛は楽しそうに呟く。


せつなはフリーズしていた。

カイブツ娘三人と出会わず、なおかつ封鎖している敵もやりすごしどうにか逃げるルートの算段をつけている途中だったのに、作戦を変えなければならない。

「そのうえでこのモールの中に三人の怪物がいる、撒いた毒ガスはいずれ晴れるハズ、こんな封鎖を何日も続けておくのは難しい、封鎖が出来なくなる前に、近いうちに攻めてくるでしょうね」

一閃はせつなの凍り付いたかのような様子に気づいていたが、それでもそこまで話した。


「じゃあどうするの?」

牡丹が聞いた。

「こういう時間が勝負を決めるような時に揉めていても活路は無い、だからやりたいことが違う人どうしで分断作業をしましょう」

「それでいけるとでも思ってんか?ケケケ、ゲヒャヒャ」

「わからないわ、今何をしてもどうせ死ぬ可能性は高い、ならいっそ各々納得できるやり方をするほうががいいと思わない?」

「ク、一理くらいはある、納得はしてやるぜ、ケケケ」

「さて、皆は変わってしまった現況を鑑みてやりたい事は変わった?」

「もちろん変わんねー、ガキの救出とドンパチだ!ギャハハ‼」

「助かるわ、今度漫画は返す」

「まだ私はトウカちゃん達を説得したい、けど……どうしたら?」

「手伝うわ、その後私が逃げ道を探すのを手伝ってくれると助かるわ」

牡丹はうなずく。


「で、あなたは?」

一閃にせつなは、問われて。

答えは決まっていた。


「戦う、あの三人と」

即答であった。



戦わず逃げると言っていた彼女の言動が、信じられず牡丹はせつなの顔に、嘘の証拠が無いか探す。無い。

「戦った方がいいなら普通に戦う」

せつなはもう一度宣言した。


今の入り口の封鎖は敵の数が多すぎてどうしようもない。

しかし逃げ道を他に探すには三人も強敵がいるここでは難しい。

もしもそんなことしていて消耗したりして生まれるふとした隙をつかれたら間違いなく殺される。

だから、いっそ攻める意義はある。危険を排除出来る。

せつなには一応勝つ算段も、あったから。

それは賭けに近いが、せつなの高い能力をもってしては分の良い賭けだった。


せつなの宣言により、二組に分かれた別行動を取ることになった。

説得を試し、その後逃げ道が無いか探す一閃と牡丹。

消耗したところを攻められるよりは元気な時に先に攻めて相手を潰した方がいいと考え、戦いに積極的に赴くせつなと、にっけを助けたい愛の二組。


それぞれが、部屋で各々の準備を始めた。


「せつなちゃん」

軽く体をほぐしてから、今すぐ戦いに行こうとするせつなに牡丹が声をかける。

「ん?」

「……トウカちゃんと殺しあうのは嫌だし止めたいけど、それもにっけちゃん助ける手段だよね、だからありがとう」

よくわからなかった、礼の意味が。

「にっけとかいう人の命は正直そこまで気にしてない、単にこうした方がいい理由が何個もあるだけ」


それは照れ隠しでも無く正直な発言だった。

その理由は例えば、逃げ道を探している間に襲われてはひとたまりもない事やトウカ達といずれ戦うかもしれないのでここで潰すメリットはある事などいずれもせつなにとって重大な事だった。


しかし牡丹は。

「それでもやっぱり、行ってくれるから、だからやっぱりありがとうだよ」

と、感謝していた。


それがせつなには、わからなかった。


せつなは愛と共に部屋の外へ出る。

そして二人でバイクにまたがった。

せつなはある疑問を頭に浮かべた。

だが頭の片隅に置いて、少しだけ愛と話す。

「あの、いっぱい弾が撃てて簡単に人が殺せる武器とか持ってませんか?ナイフでも警棒でもいいですけど」

今、せつなの手元には、まともな武器が無かった。

だから何か欲しかった、人の骨でも返り血まみれのナイフでも、糞まみれの銃でも役立つなら何でもよかった。

「ケケケ、正直ガキが戦いにいくのまだ反対だ私は、お前邪魔すんなよ?」

「邪魔しないので使えそうなのください」

「後でやる、ぜっ!」

ブオー‼と一瞬でエンジンが激しく点火した。

バイクは二人を乗らせて店の中を当然のよう走っていく。


荒々しさと安定感が両立した疾走の中せつなは、疑問の答えを考えた。

なぜ自分が見捨てられないのか。

敵が殺したいのはあくまでもせつな一人である。

となれば“漁火せつなを見捨てて差し出す”作戦を思いつく人はいるはずだ、例えば一閃ならば思いついていたであろう。

もしもせつなが見捨てる側の立場だったら見捨てる事を検討して、おそらく最終的に実行する。

今はどうでもいい事だと思ったが、その疑問は片隅に追いやることしか出来なかった。



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