31話「ここは 海の中」
ひっさーびっさーに投稿すんので前回までのあらすじ。↓
せつなは父親が悪い事してると思ってる、そんなのとめたい。
でもハッキリした証拠がないからとめる材料がない、行き当たりばったりに調査してたら一閃さんって記者と会う事に。
にっけちゃんって人もついて来たよ。
とりあえず、関係ある気がするものについて聞いてみよう!例えばトンボの羽が生えた女の子の事とか!
ABCDEモール一階の休憩所広場には、たくさんの机と椅子がある。
だが、平日ゆえそれに比べ人はまばらだ。
せつな、にっけという二人の少女。
そして彼女達と机を挟み座っている、茨城一閃。
そのぐらいしかいない。
一応、他にも何人かいるが大概はもはや帰ろうとすたすた出口に向かって歩いている。
このモールは駅から遠い、だから早く帰らないと終電を逃すというような理由のモノが大半だ。
他にも様々な理由がある、たとえば金がつきて遊べないとか、まぁわざわざ書くほどの事でもない。
彼女達は
「なんであんなクソ映画出来るかな」
「興味ない」
「止める人がいなかったのか、止めるべき人がそういう位置にいられなかったか……なんだろう」
「クソはクソ、うんこはうんこ、しっこはしっこ、それ以上でもそれ以下でもない」
とボロクソに言いながら、其処に辿り着いたのである。
「私がこれまでにした仕事の事が聞きたい?」
一閃が言った。
「うん、それで話の信頼性について判断するから」
にっけと共に一階の休憩所にやって来てすぐ、一閃にせつなが頼んだことは、彼女の過去を教えて貰う事だった。
「それじゃあ去年の九月九日の記事を見なさい、だいたいのネットニュースで取り上げられているわ」
せつながスマホを取り出し、しばらく操作した。
出て来た記事の内容はこうだ。
――茨城一閃、スクープのため犯罪に手を染めた記者、逮捕され裁判が待たれる―
「……取材の手段に正当性があるか問われるべきだ、なにせ地球再生党の党員を暴行し、服等を奪ってなりすまし潜入捜査を行っていた」
せつなの隣にいる、にっけが画面をのぞき込み記事の続きを読み上げる。
「色々と地球再生党の記事とか資料映像漁ってたら背丈の似てる人がいたからつい」
せつなはにっけが勝手に質問してくれるので、楽だなぁと思って椅子に身を預けた。
「その人、生きてるんですか?」
「まぁ色々終わった後で、警察に突き出しちゃったから知らないわ、生きてるんじゃない?」
「なんでわざわざ、そんなヤバイ事したんですか?」
にっけが興味津々にたずねる。
「怪しまれずに再生党に潜入できるじゃない」
そのまま、一閃は一瞬で周囲の反応を確認して話に割り込むものがいないと判断してつづけた。
「普通に行ったら、地球再生党の実態を調査出来ないと思ったの」
「うん、もういいよ」
せつなが一閃の話を止めた。
細かいところは興味ない。
「とりあえずある程度信頼できるって事はこれまででわかった」
そう言いながらも、せつなはじっと一閃の表情の隅々まで見ていた。
しばし沈黙。
互いを値踏みするように見合い、それからである。
「聞きたいことは主に2つ、1つ目、地球再生党について詳しいなら漁火重工がそこと関係あるか知ってる?それと、2つ目は蜻蛉の力を持つ少女について何か知ってる?」
せつなが切り出した。
当然話題はせつなにとって、関心がある事だ。
おそらく悪事を働いている父に関係がありそうなこと。
一閃はなぜそんなことを聞くのか?ということは疑問に思っているようだが、口には出さない。
どの話に踏み込み、踏み込まないのか考えながら話しているようであった。
それはせつなにとって、ありがたかった。
せつな自身行動の理由に合理的で理性的で、誰もが納得するようなものがないと自覚がある。
最も近いのは強い衝動に突き動かされてというものだ、決してソレだけでは無いが。
悪事を働いているだろう父を止める、そのために、関連していそうな情報はとりあえず調べる。
その程度しかハッキリと言えない。
「まず1つ目についてだけど、地球再生党と漁火重工には関係があるって確信しているのはなぜ?」
「うん」
「証拠は?」
「……物的な証拠なんて今は無い、けども9割くらいは確信してる」
父と関係がありそうな蜻蛉の少女トウカが、地球再生党と名乗ったことによって。
「……残念だけれども私にそれに関する情報は無いわ、地球再生党が色んな企業や人と関りを持ってたカルトっていうのは有名だからどこと繋がっていてもおかしく無いけど、地球再生党の悪い事件を取り上げといて構成員にメンバーがいたら、信頼性とかが下がるでしょう」
「えー」
せつなは本当に落胆した。
「あの、聞いていいですか?」
だが、せつなとは違うにっけが興味を膨らませた。
一閃はこくこくと頷く。
「何で無茶して取材をしたんです?」
「それで死んでも、“あぁ、やり方間違えたな”って後悔しそうだから」
一閃の返答は、至極落ち着いたモノであった。
「……後悔するのに?なぜ?」
「“こんな事最初っからするんじゃなかった”とはならない、ってことでもあるわ」
「……」
「そのおかげで色々知れたわよ、例えば地球再生党の中には善行を積もうとしてる人が多い事、あそこはあくまで政党であってその目的は“人をさらなる高次元に連れて行く”だしね、まぁカルト化しちゃって銃乱射事件なんて起こしたワケだけれども、徹底的な悪意にせよ善意にせよ自分を信じ切った人間ってのは良くも悪くも力があって……」
一閃の話は少し興奮気味だ。
地球再生党調査は彼女の記者人生の中でもっとも大きな手柄だからある程度は仕方が無いが。
「……あと、多少逮捕者が出ても組織が続くよう色んな予防線がはってあってるのよ、例えば重役の席をすぐ決めなきゃならない時のルールがあったり、だから今もテレビとかに出ないだけで根強く残ってて」
放っておけば、これから何時間も話し出しそうである。
せつなはそれに付き合うほどの寛容は持ってない。
「あのさ、話を脱線させないでくれない?私としてはそこら辺の事どうでもいいんだけど」
「じゃあ後で、興味があるにっけちゃんは私の書いた“地球再生党の真実に迫る”を買って読むといいわ、定価480円税抜き」
話しのオチがついたようなので、せつなはさらに質問をする。
「じゃあ2つ目、蜻蛉の羽が生えた人について詳しく知らない?」
「蜻蛉……あぁ、あの記事を読んだの?しっかりと最後に“それは錯覚か、真か今のところわからないが大概の怪異は錯覚である”って書いたわよ」
「でもアレ、ガチだよ?さっき宿屋で蜻蛉の人にあったし、殺しあったりした、名前はトウカってさ」
「はぁッ?!!?」
にっけが、話にトウカが出てきた衝撃のあまり大きな声を出した。
だが、せつなは無視して続ける。
「地球再生党の人って言ってた」
「ホント?!」
一閃が興奮して立ち上がった。
だが、急にそうするから足がもつれてよろけ、結局椅子に座った。
「多分、アップの顔写真とかがあればある程度正体が掴めると思うわ。これまで見た犯罪者とか行方不明者の、地球再生党に潜入した時いた人間の顔も全員分覚えてるから」
「じゃあペンと紙持ってない?似顔絵書くから」
せつなが聞いた。
記者というなら手帳くらいあるだろうと。
「手帳ならあるけれどコレは使わせないわ、大事なものだもの」
一閃はそう言いながら、赤色の手帳を出した。
「使わせないなら見せなくていいのに」
せつなはスマホのお絵描きアプリを起動させ、画面を指でなぞっていく。
五秒間なぞった。
「はい、出来た」
「ごめんなさい、コレじゃわからないわ」
せつなの絵は下手、というよりも雑だ。
髪型や目を簡略化しようとしすぎているが、適当にひいて失敗した線も多い。
見にくくて、いまいち何を描いているのかわからない。
「ちょっと貸して」
にっけにせつなはスマホを手渡した。
「トウカに関しては、私も気になるから」
にっけは描き出しの数秒こそ手間取ったものの、ソレからは小器用にサクサクと描いていく。
十分とたたずすぐにトウカの似顔絵は完成した。
デフォルメは多いが、特徴をよく捉えた再現度の高い絵である。
「おぉ―――」
せつなと、一閃と、気になったから覗きに来た牡丹が感嘆の声を漏らす
「なんで牡丹がここに!?」
にっけが驚愕した。
「え、あ、うん、いや、気配消しててさっきまで」
牡丹はしどろもどろ。
「というか、なんでここに?」
「えっ、あっ、いやだって……寂しかったんだもん!あと、トウカちゃんの事話してるから気になって」
「でも、ついて来るなって女将さんは」
「ち、違うもん、先に来て待ってたからついてきたんじゃ」
「そんなことより!」
せつなが会話を止めた。
どうでもいい会話に時間を取られたくない。
「一閃さん、この人何者か知らない?」
似顔絵を指さしながら、一閃に聞いた。
「スナッフフィルムの被害者」
その瞬間、一閃はそう発言した。
声色はとても暗い、悲惨な話をするときのそれだった。
「反社会的勢力に対抗するために犯罪に関連するデータは何でも集める組織の仕事手伝ったことあるの、そこでこの娘見た事ある」
にっけ以外は、頭の上に「?」を浮かべた。スナッフフィルムってなにと。
「その組織の、私より詳しい人に連絡を取るからちょっと待って」
一閃はわかっていない人達に説明などせずスマホでメールアプリを開いく。
せつなが、ソレをのぞき込む。牡丹もそれに続き、少し遅れて「画面見てもいいですか?」と聞きながらにっけも。
一閃のメールは“ちょっとこの娘についての情報が欲しい”と書かれていて。
誰も気づかぬうちに撮っていた、にっけの描いた絵の写真が添付されていた。
すぐに ”藪から棒になんだオマエ”と一閃の言う詳しい人から一瞬で返信が来た。
せつなはその人のメールアドレスを確認したがアルファベットの不規則な羅列で、そこから人の正体を探ることは出来ない。
「じゃ、にっけちゃん、スナッフフィルムについて説明しといて、私は少し交渉するから」
一閃の要求は唐突であった。
そうして椅子に座り直し、スマホに真剣な表情を向けた。
本気で交渉しなければならないようだ。
となれば頼みごとをされたにっけは、それを果たさねばならない。
少し慌てながらも落ち着いた声色で喋り出す。
「えっと、私もあんまり詳しくは無いんだけども」
牡丹はその話に身構えた。明らかにロクな話ではないからだ。
ちなみにせつなは耳をかなりの角度で傾けた、たぶん聞いた方が話はスムーズだろうから。
「スナッフフィルムってのは娯楽用に作られた人が殺されるビデオ」
「え、殺人?でも……トウカちゃんって死んでないよね?」
「自分で逃げ出したり、第三者に救出されたりとか、生き残った理由ならいくらでも考えられる」
「……」
生き残った理由。
そう聞くと、せつなは自分の事を思い出した。
トウカに体をバラバラにされたのに、当たり前のように生きている自分の事を。
生きているのが気になるという話で自分を思い出すが、わざわざ言う程の事でも無いので黙っていた。
なぜ生きているのかわかれば今以上に無茶な戦法がとれるのではとも思うけれど。
「交渉成功!」
と一閃が三人の間に割り込む。
「映像資料、送られてきたけど見るでしょう?」
「見る!」
せつなが前のめりに声を張り上げる。
その凄惨な出来事は、おそらくトウカの人生や精神に大きなウェイトを占めているはずだ。
トウカと戦う時のヒントがあるかもしれない。例えば、古傷だとかトラウマだとか。
そこを突けば隙を生める。
にっけも、好奇心の塊であるから、見るとおそるおそる言った。
牡丹は、トウカが見られたくないかもと気にしたが結局は見ると言った。
つまり、せつな達は全員で映像を見ることになった。
一閃のスマホの画面に
昔の、今よりも幼いトウカがアップでうつされる。
今よりも穏やかそうで、優しそうな表情かつ声色である。
怯えた表情をしていた。
画面をほとんどトウカが占めているから場所は屋内ということしかわからない。
しかし周囲には数人男がいると映像に入り込んだ声や、時折写る手によって判別出来た。
肩にナイフを突き立てられて、トウカが悲鳴をあげる。
トウカが逃げようとすれば、あちこち掴まれて引っ張られ、押し倒された。
それから、
たくさんの男達の笑い声をかき消す程の、耳をつんざくような悲鳴が響いた。
だが、それをまた笑い声がかき消していく。
「あの、音消しましょう」
にっけが素早くスマホの音量をゼロにした。
周りに人がほとんどいないとはいえ。
音を聞いているだけでも吐き気を催すようなビデオなのだ、堂々と流すわけにいかない。
だが、無音でも、男たちの行為は露悪的で凄惨で。醜悪さはむしろ度を増していった。
足の裏を熱したプレートで焼いた。
爪をはいで、爪に守られていた場所に、はいだ爪を突き刺した。
丁寧に、丁寧に、長く苦しめることが出来るように、死なないように、トウカの体は傷つけられた。
目が虚ろになり、反応が薄くなっていることで意識がおぼろげになっていると判断すれば注射器で薬を打ち込んだ、するとトウカの意識は再び現実に引き戻される。
目を見開いてあげる悲鳴も、流す涙も鼻水も。
喉が裂けて、まともな声を発せなくなっている少女の姿も、この映像を作っている男達にとっては単なる娯楽の様で笑い声が映像には混じった。
気絶しそうになれば、薬で意識を引き戻される。
そんな凄惨な映像。
最後はぷっつりと唐突に画面が暗くなって終わった。
重たい空気があたりを占める。
牡丹は、「なんでトウカちゃんがあんな目にあわなきゃならないの」とぽろぽろと泣いていたし、そんな牡丹をよしよしと慰めるにっけの表情も暗い。
こういうのになれているハズの一閃ですら、不愉快そうである。
見る前と全く同じほどに精神が健康な者は、せつなだけであった。
「トウカの体は治ってるのは、どういう理屈だろう?あの怪我からあんなに健康に復活できると思えない」
もしかして、トウカの体はそこら辺に弱点があるかもしれない。
真剣にせつなは悩む。
「これまでの話を関連付けるならば、この映像のあと地球再生党に助けられてそのままメンバー入りしたんでしょうね」
一閃がトーンの低い声で言った。
「じゃあその治療を受けて、その時に蜻蛉の羽が?」
「まぁあそこなら人体改造くらいはやりかねないわ、あそこには技術力もあるのよ」
「ふ―――ん」
適当に流す。ここで話しにキリをつけられないよう。
まだ一閃にはもう一つ聞きたいことがあった。
「ところで、こんな体験したら男性恐怖症になってもおかしくなさそうなのに、男に対してあんま嫌悪感とかなさそうだったんだよね」
せつなはトウカと初対面の夜を頭に浮かべた。
男に押し倒されていたが、悲鳴をあげるでもなく、ただ彼女が笑っていた。
それが違和感。
「やっていることと、本心が違う事なんてザラにあるでしょう?」
一閃はさも当然と言わんがばかリだ。
「私はいつも心のままに動いてるけど」
「あなたがそうでも、あまりに辛い経験をした人が、感情を麻痺させて自己防衛しようとするのはたまにある事よ」
「じゃあ、トウカも感情とかが麻痺しておかしくなってるって?」
「私は精神の専門家じゃないから断定はしないけれど、本心と行動が逆っていうのはあることよ」
「ま――結構真実味のありそうな話」
せつなは頭の中で、トウカにかける言葉を考えた。
彼女を惑わせ、隙を生み出すために何といえばよいだろうかと。
いくつかアイデアは生まれたが、いまいち決定的なものがない。
「ねぇ、なんか気づいた事無い?私トウカと戦わないといけないんだけど」
とりあえず、一番近い牡丹に聞いてみた。一番泣いていたが、しったことではない。
「なんでせつなちゃんはトウカちゃんと仲良くできないの?仲良くしようよ」
牡丹が少し怒り気味である。
「そりゃ、あいつが殺しに来るし」
「なんで?なんで殺しに来るの?」
「あっちに聞いて」
「あのさ」
にっけが、牡丹とせつなの間に割り込んだ。
険悪なムードになるのを防ぐよう。
「あの人、大丈夫かな?」
にっけが、遠くを指さす。そこには倒れている人間がいた。影が薄く、青白い肌で見るからに病弱そうな男だ。
ぴくぴくと、痙攣をおこしているのか蠢いている。
「助けなきゃ!」
牡丹が男に駆け寄った、当然にっけもついていく。
だが一閃は動かない。せつなもそうだ。
「……行かないんで?」
「にっけちゃんでもどうにもならないなら行くわ、あなたは?」
せつなが質問すると質問で返された。
「べつに、興味ないんで」
「あらそう」
「この人、気絶してるけどなんか変です!瞳孔が開ききってるのに、呼吸が穏やかで脈も安定してて全く問題がない!」
「……行った方がいいかしらね」
しかし、一閃が行こうとした瞬間
照明がちかちかと点滅した。
にっけらの中でざわめきがおきる。
だが、静かにせつなは目を閉じた。
それから数秒。
「停電しかけてる?」
にっけの声がして。
不安を煽るように、ちかちかと点滅を繰り返しだす照明。
空間に闇が満ちる。
せつなは目を閉じたまま、静かに耳を澄ます。
恐ろしいほどに静かだった。
それは今この場所が、ということではない。
そこではざわめきが起こっている。
停電か?いったいなんだ?と大した意味のない言葉がうろうろしている。
だが、せつなの心の中は異様なまで無音になっているのだ。
セーフキリングで戦う時以上に、機械のように冷たく。深海のようにどす黒く。
せつなはなっていた。
それ程の危機がすぐそばにあると解っていた、せつなは木刀を手に、立ち上がった。
目は開かぬままだ。
「今のうちに聞いておくけど、牡丹さんと一閃さんって戦えるの?」
せつなが聞くと。
「鍛えてはいるけれど、逃げたりやり過ごす方が好きかしら」と、一閃。
「私、霞ちゃんから何度か合気道教えて貰ったことあるよ」これは牡丹。
「じゃあ」
せつなはにっけを呼ぼうとして、どうするのがベストか一瞬迷った。
”さん”付けでも”様”付けでも別に“どうでも”いい。
だが、今の状況ではそこにもこだわるべきだ。ちゃん付けか、呼び捨てか。それともあだ名などか。
どれが一番協力的になってくれるだろうという一点のみに置いて。
「しんがりはにっけで、私は先導する」
結局呼び捨てにした。
「逃げ場が残ってるのは二階か三階、この階はやけに呼吸音が多く聞こえてくるしモール包囲されてるかも……これは助けも呼んだ方がいいかしら?」
一閃の提案にせつなが頷く。
ここにいる二人以外は、彼女達が何をしているのかわかなかったが何か危機が迫っていることは理解した。
「じゃ、すぐそこにあるエスカレーターで一旦二階まで逃げよう、合図したら走って」
せつながエスカレータを指さした。
「でも、この男の人が……」
牡丹の声をかきけすように、ぶぉ―――――――――――ん。
低く、腹に響く音がした。
それから、世界が一転、暗闇に包まれる。
完全にすべての照明がオフになったのだ。
「今!」
せつなが目を開き叫び、闇にならした目で走り出した。一閃も、牡丹の手を引いて無理矢理走るにっけも、足音頼りにそれを追う。
せつな達は走る。
遠くから銃声があちらこちらで鳴り響く。
何かの羽音がモール内で反響して、四方八方から聞こえる。
怒号が、怒声が、悲鳴が響く。
空間は、唐突にまるで悪夢の中に来たかのように一瞬で混沌と化した。
意味不明な状況だった、しかし考察してる暇なんて無い。
ただ“なにかのピンチになってる”それだけ理解して
せつな達は逃げた。
走った。
だが、一閃が「後ろ!攻撃の音がする!」といった瞬間せつなは振り返り木刀を振るう。
手からそれが弾き飛ばされた。
下手をすれば手ごともぎとられかねない衝撃で。
せつなは後ろに小さく飛び、衝撃を和らげて立ち止まる。
それにより、にっけと一閃も立ち止まって。
振り返って、闇にようやく慣れた目でそこにいたモノを見つける。
ぶぉ―――ん、と緑色の光があたりを包む。
非常用の電源がついたようだった。
そして見えたのは
三人の少女である。具体的に名を出すと、仁義 紙魚 そして せつなに攻撃を仕掛けたトウカ。
そこにいる彼女達には、飢えたヒグマや鮫のように威圧感と存在感があった。
相対しただけで、危険と解る。
下手をすれば彼女達に殺されると理解出来ない奴はとんでもない馬鹿だ、そしてここにそこまでの馬鹿はいない。
「オレ達は、地球再生党改造生物部隊、通称カイブツ隊、漁火せつなを殺しに来た、同行者も邪魔なら殺す」
仁義が一歩前に出て、自己紹介をする。
人相の悪さと比べて、落ち着いた口調であった。
それがどこか可笑しい。
しかしせつな達に笑う余裕なんて無い。
「だが漁火せつなが、もし私達と共に来るのなら他の人間を殺すことはない、だからそいつを差し出せ」
その口から出たのは悪魔的な誘いだった。
要するに、せつなを見捨てれば助けてやるという事だ。
場に緊張が走る。
自分らが命の危機に瀕している、という事をせつな達全員が理解していた。
せつなは素早く一同に視線を走らせて、観察する。
差し出されかねないというか、同行者たちが自分を差し出さない理由が思いつかない。
とりあえず、じっと流れを観ることにした。
「やだ!せつなちゃんの事、殺すんでしょ!?紙魚ちゃんもトウカちゃんもなんで?!」牡丹が即答した。
にっけが牡丹をちらりと見てから「……本当に殺さない?正直信用しがたいんだけど」
仁義の「信じなくてもいい、その時はぶっ殺す」という答えはシンプルである。
「私なんかは地球再生党の酷評とかしちゃってるもの、ソレを信じてもあなた以外の誰かに殺されるかも」
一閃の発言だ。
「ならここで殺す、脅しじゃないぜ、ちょっとだけ邪魔が減るよう毒ガスだって撒くくらいにゃ本気だ」
「毒ガスって、じゃあ男の人が倒れたのはそういう事?でも毒ガスなんて撒いたら、お前らも危険じゃんか!」
にっけが牡丹をかばうよう前に出て叫んだ。
その牡丹は、いまだに倒れている男を気にかけているようなので
「狙われてる私達が近づいたらむしろあの人危ない」と小声かつ早口で伝えた。
「安心しな、弱いガスだ、年の低い女と、軍人なみに鍛えてるヤツには効果落ちる、モロに効いてもゲロ吐く程度で死ぬレベルの毒じゃない、お前達は直接ぶっ殺してやるよ」
仁義は笑みながらのたまう。
にっけは、ちらりと一閃を見た。一筋の鼻血が出ている。
「……あそこまで鍛えてるなら、あの程度ですむってことか」
そう呟いて視線を前に戻す。
その表情は怒りや、嫌悪感、恐怖といった負の感情がないまぜだった。
「なんでそんな変なガスの開発をした?」
にっけがたずねると、すう――—っと仁義は息を吸ってから一気に話だした。
「もともとこのガスは、ある特定の人間を探すためのものだった、特定の人間に効かないモノを作ることによって、しかし鍛えている人間には効果が薄いって問題点が見つかった、だからあくまで作戦の補助にしつつ改良のためデータ取りをしてるってことだ、説明したぞ感謝しろ、ホントは説明しなくていいんだぜ」
「え、あ、うん教えてくれてありがとう」
牡丹が頭をさげようとした
「なんで、そこまで教える?」
にっけが、聞きながら牡丹の礼を手で止めた。
「いやぁ、オレ達も良心ってあってな、つまりこれは冥途のみや」
せつなは仁義の話を最後まで聞かず、木刀を低く構え走り出した。
「死ぬかァッ!ふざけんな!」
大きな歩幅で一歩ずつ前に、すばやく前に。
怒りをぶちまけながら前に。
カイブツ隊の面々は身構えた。
それを見た瞬間、せつなは木刀を三人娘にぶん投げ、尋常では無い速度で振り返り。
叫ぶ。
「二階へ‼‼」
その言葉に、一閃もにっけも牡丹も、再び走り出した。
カイブツ隊の、虚をついて。




