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26話 私のため、だと思う

「糸川選手いますか?」

にっけの住む宿にせつながついて、入り口で女将と会って開口一番そう聞いた。

「……あの、何のご用件で?」

女将は訝しみながらたずねる。

せつなは中々怪しい雰囲気であった。


ヘラヘラにこにこ笑っていることや、美少女である事が余計そう見えさせる。

外面が完璧に良い事、それがむしろ詐欺師を思わせる。


「聞きたいことがあるんっスよ」

軽薄でですますをつけているのに丁寧に感じない敬語もまた、怪しさを助長する。

「……なぜ糸川選手がここにいるとお思いで?」

当然、女将は警戒しながら聞いた。

「う――ん、その、まぁ勘です」

半分ほど嘘である。

ここがわかった理由は二つある。


今日は時間が丁度よくあったのでセーフキリングAブロック会場からにっけがマネージャーの車で出て行くのを見張る時間があった。

その時、どの方向に行ったわかればそれでいい。

会場に毎日やって来るのに便利な距離はどれくらいか考えて、地図で照らし合わせれば止まってそうな宿のポイントを絞れる。


それからは、しらみつぶしで頑張るつもりだったが、訪ねて一軒目でビンゴである。

勘が冴えている。


「で、いるんですか?」

「……あの、漁火せつな選手ですね?いったいなぜそのようなことを」

自分がこの宿に泊めた風火と、にっけの暴力事件の事もあって唐突な来訪者に対して女将は少々警戒的になっていた。

だが、せつなには知るよしもない。


「ちょっと聞きたいことがあって、話聞いたらすぐ帰るんですが」


ガラガラ、とせつなの後ろで戸が開いた。

振り返れば、大人しそうで、子供っぽい少女――牡丹がいる。

彼女の右手にはビニール袋、中身は激辛ホットドッグや、激甘あんぱん、ほうれん草パン、牛肉入りパン等々。

一人で食べるにはちと多いだろう。


しかし、せつなにとってそれはどうでもいい事。

興味も特にない。

なのでいきなり本題に入った。

「にっけさんいますか?」

「何かにっけちゃんに用?」

せつなは頷き肯定する。


「じゃ、ちょっと呼んでみ――」る、と言い切る前に、階段からにっけが降りてきた。

来訪者に、音などで気づいたのである。

「おかえり牡丹」

牡丹に彼女は語りかけつつ、せつなにも多少意識を向けている。

警戒してるな。せつなは表情からそう感じた。

とはいえ別に良かった、嫌われようが好かれようが、デメリットにならなければ別にいいのだ。


「どーも漁火せつなです」

無害を伝えようと、ニコニコと話しかけるがむしろ怪しい。

せつなは自分が緊張してるせいでもあるなと気づき、彼女にとって珍しい感覚に戸惑う。

普段は物怖じとかそういうモノが無いのだが、なぜだかここにいるのが良くなく感じる。


にっけの中になにかヤバさを感じたのか二人の間に、ぴりりとした緊張感が生まれる。

だが牡丹はそれを感じていないようで

「ただいまにっけちゃん、ご飯買ってきたよ」と右手に持ったソレをかかげた。


ガサガサとビニール袋が鳴る。


「あの、糸川選手でですよね、一閃っていう人と会った事あります?」

「え、まぁ一応」

ソレはせつなにとって意外だった。

一閃がもう、取材を済ませているなんて思いもしなかった。

「その人と会いたいんだけど、連絡先知ってます?」

「連絡……取れることには取れるけど」

「ッシャア教えてください」

せつなはガッツポーズを取った。

一応嬉しい。一応と枕詞につく程度だが。


「……電話番号を勝手に教えるのは、個人情報保護の観点から問題があるからだめ」

明らかに、せつなを警戒していた。

「じゃあ、教えずにっけちゃんが連絡とったらいいじゃん」

牡丹が提案する。

「……」 


にっけは0.5秒程、閉口してそれから開口した。

「なんで、そんな事をする?」

「私のため、だと思う」

ちょっぴり曖昧に、せつなは即答した。

その態度がイマイチにっけには余計怪しく見える。

「なんで一閃さんに会う事が、あなたのためになる?」

「なんというか、家族は私にとって大事で、それを守るのが私のためになるっていうか、んで、一閃さんがそれに繋がるっていうか」


何となく、せつなはぼやかして答えた。

もっとはっきり答えることが出来るが、なぜか、にっけの事が好きになれそうにないから止めた。

自分の大事なところを否定しそうな気がして。


にっけの方も声にこそ出さないが、せつなの言動を不愉快に見つめていた。

家族という存在は、彼女にとって好むものでは無い。むしろその真逆。

せつなにとって知ったことではないから、その事をにっけがわざわざ口に出したりはしない。




「まぁまぁ、そんなのいいじゃん、にっけちゃん」

牡丹が周りの空気をあまり気にしていないように、にっけを促す。

「まぁ、牡丹が言うなら……」

にっけはそう呟く。

「ちょっと待ってて、聞くだけ聞くから」

それからスマホを取り出した、見せびらかすかのように。


ソレは

つい先日徳宮テクノロジーの桂木が、唯一徳宮テクノロジーの選手として戦ってくれるにっけと連絡が取れなくなる事を危惧し、その結果にっけの手にもたらされた。通信料も徳宮テクノロジーの方々が払っている。

せつなにとってはどうでもいいことだが。


「……」

プルルルル、と

「せつなって名前の選手があなたに会いたいと言っているんです、え?……はい、わかりました」

「大丈夫だってさ」


にっけは不可思議そうであった。

せつなの事を彼女が警戒しているからであろう。

とはいえそんな事もやはり、せつなにとってもどうでもいいことだ。

「マジ?」

にっけは頷く。


その瞬間、牡丹が視線を妙な方向に動かした。

それに気づいてにっけの視線が階段の方に動く。

せつなは、何だろうと思ってソレを追う。


その先には”彼女”がいた。

「「あ」」

彼女とせつなの声が重なる。


せつなは理解した。

なぜここが嫌なのか。

にっけのせいだけではない。

彼女もいたからだ。


金髪少女。

せつな。

偶然の連鎖が、再び彼女とせつなを出会わせた。

先日殺しあったばかりの二人を。

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