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24.5話 幕間 金髪少女と牡丹

24話と25話の間にあった出来事です。

「にっけちゃんに問題、お米が大好きな虫は?」

「マイマイカブリ」

「じゃあ、防御を捨てた虫は?」

「カブトムシ、兜無視」

「う、じゃあ考えるこんにゃくは?」

「え?い、意図こんにゃく、糸こんにゃく?」


金髪少女は夢の中にいるのだと思った。

よくわからないなぞなぞが、どこかからか聞こえてくるし変に温かいからだ。

それに天井が知らないものだ。

意味不明。ゆえに、状況の理解が遅れていた。


「……その人、起きてる」

金髪少女に言及した声がした。

彼女は目だけ動かしてそちらを見る。

どこかの宿の一室にて、自分の以外には二人いると理解できた。

その二人はポニーテールで背の低い奴と、穏やかそうなヤツ。

ぼやけた視界ではよく顔が見えないので、大雑把な特徴で認識した。


とにかくなにもかもがぼんやり、夢の中のようで。

なぜここにいるのか、彼女達は何者なのか、おぼろげにしか解らない。

思い出そうとしても、ダメなのだ。

忘れた夢を取り戻そうとするかのように、上手く行かない。


「おはよう、元気?自分の名前言える?ちなみに私は牡丹」

穏やかそうなヤツ、もとい牡丹が笑顔を金髪少女に向ける。

ようやく自分が目の前の二人と昨日会ったことに気が付いた。

「アタシは」

そして、昨日血まみれな自分を見た事に関して聞いてこないことを不思議に思いながら答えようとして。

咳込む。

げほげほと。まだ調子が悪かった。

「あぁ、ムリしないで」

その時上体を起こした結果、布団に入っているのだと気づく。

温かさのヒミツがわかると、妙に気が抜けて再びあおむけにぱたんと倒れた。


ポニーテールの方……にっけと呼ばれていた少女を観察する。

金髪少女に対して、笑顔ではない。

むしろ警戒しているというのがあからさまだ。

が。当然である。

返り血まみれで倒れている少女がなにかしら問題があると疑わない方が奇特だ。


彼女もそれは理解しているから、べつに疑われるのは気にならない。

ここが正常な現実世界であるとハッキリわかって安心した。


「ごめんね、病院が嫌っていうからうちに運んだの」

牡丹はごめんと言いつつ、特に申し訳ない様子は無かった。

「ああ、とりあえず、あんがと、すぐ出てくわ」

「え?ご飯くらい食べて行ったらいいのに」

「靴は玄関、玄関はここでて右の階段降りる」

牡丹は金髪少女を心配して引き止めた。

が、にっけは帰り方を教えた。


危険そうな人物をとっとと追い払いたいというのは明らかだが、彼女の隣にいる牡丹のためだと金髪少女は察せた。

彼女は見た目こそ頭が悪そうであるが、そういうのにかなり目ざとい奴であった。

真逆の発言だが、どちらも他者への優しさから生まれた言葉だと理解してここにいるの事をふさわしくなく感じた。

この人達に、特に牡丹に、あまり気をつかわせすぎてもいけないのだろうと。

「じゃ、帰るわ、忙しいしアタシ」

忙しいなんて嘘をつき、起き上がろうとして、ふらりと倒れる。


天井を再び、見つめる。

顔に見えるシミに気づいた。

ふざけているのでは決してない。力が入らなかった。

今の彼女は脳みそが起ききって無いのに、意識だけはハッキリしている状態にあった。

中途半端な金縛りである。


「……疲れてるの?」

牡丹が聞いた。

「アタシと関わんない方がいい」

牡丹へ返答する気力と体力はないので、それだけ言った。

重要だと思うそれだけを。


しかしもう少し休まなければ、動けない。

先程帰ると言ったのでこうするのは気まずいがどうしようもなく布団に戻る。


だが目を瞑ればせつなを殺した瞬間が、ふと鮮明に蘇る。

金髪少女を激しい吐き気と動悸が襲う、すぐそばにいる牡丹達が、訝しむ程度に。

あんなハズでは無かった。

殺しても仕方ないかもとは思っていたが、あんな凄惨に殺す気なんて無かった。

しかし、頭を掻きむしる事も叫ぶことも今の彼女には出来ない。

できる事と言えば、ただ、震えることしか。


「大丈夫、怖がらなくて」

そっと、牡丹が囁いた。

何に対する大丈夫なのか、そういう考えの無い思いやりだけの大丈夫。

だが、たおやかで、優しさだけで構成されたその一言はあまりに純粋で

真っすぐに、金髪少女の心に優しく突き刺さる。


そっと、金髪少女の頭に牡丹の手が置かれた。

とにかく静かで温かい手つきで、寝ている子猫を起こさず撫でるよう。


金髪少女は震えることを止め、落ち着いて目を閉じる。

まどろむ世界が、温もりをもって彼女の体を包む。

あやふやな意識の中、彼女はそれに身をゆだねる。

自分の使命も目的も、凄惨を生み出した恐怖も、そうやって眠る間だけは忘れて。



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