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22話 綺麗すぎる

せつなの視界には、紺色が広がっていた。

テントの中にいると一瞬でせつなは判断した。


でも、なぜここにいるのか。

ついさっき、上半身と下半身が激しく引きちぎれたハズなのになぜ生きているのか。

そういう事が一切わからない。

金髪少女との戦いは夢か何かだったのか?

そう考えて、ソレからせつなは自分の服の裾へ手を伸ばした。


そのまま、脱ぎそうな勢いで捲し上げる。

その時であった、腹が少し捻じれたのは。

「ッ……痛ッ!!!」

せつなは痛みのあまり全てを一瞬忘れ、端正な顔を歪ませて叫んだ。

腹を切り開かれてそこから手を突っ込まれて大腸を握りつぶされたような痛みがせつなを襲った。

叫びそうになったが、余計痛みそうなので歯をギリギリと粉々になりそうなほど踏ん張って耐える。


「あぐぅ、……フ……クッソッ!」

せつなはゆっくり動くんだった、と後悔しながら自分の腹を見る。

包帯がぐるぐると、巻き付けられていた。

それはちょうど、ここからせつなが千切れたという場所だった。


今度は激痛に襲われぬよう、ゆっくり丁寧に包帯をほどく。

そしてその下の皮膚にはさらに巻き付くものがあった。

へその少し上から、背中を通してまたへその少し上まで。そういう軌道でソレは一周している。 


その巻き付く者はグロテスクだった。

まず、コンクリにたたきつけ炎天下で10日放置したバナナのように変色している。

壊死。そういう状態に近い。


「うむ、大けがだ、なかなかに」

せつなは大概の人間は目をそらしたくなるグロテスクな肌の変異をぼんやり見つめながら、なぜ怪我がここまで直ってるのか考える。

でも、すぐに止めた。

今考えても情報が少なすぎてどうせわからない、興味もあまり無いし。

しかし、なぜ生きているのかわかれば今後役に立つ可能性はある。

“機会があったら調べてみよう”そう思うことにした。


「むぅ……、昨日はおじさん見捨てた方がよかったな」

とりあえず、ゆっくりゆっくり、痛まぬよう這い出る。

テントの入り口を開けて、外に出る。

そして、圧巻した。


思いがけず少し走って、見回す。

そこは太陽光が降り注ぐ公園だった。

といっても、昨日のちんけで寂しい場所では無い。

この公園は非常に広い。いくつもの区画があり、美術館や博物館がある程の広さ。


その中の木々に囲まれた一区画をホームレスが建てたのであろうテントが占有している。

せつなもその真っただ中にいた。

「うぉ」

せつなは感心した。よく退去させられずここまで集まれたものだと。

でもすぐ興味を失って、とりあえず砂をげしげし踏みあえてうるさくしながら歩き出す。

こんなに家があるのにホームレスが全然いないことも、せつなにとってはどうでもいいことであった。


そうやって、しばらく歩く。

彼女自身の目的を果たすため、道筋を考えながら。

だが、30歩程で頭にちくりと痛みを感じた。

「は?」

頭になにかが乗った、ソレを掴む、引っ張ってみてみる。

ぎゃあぎゃあ鳴いた。カラスである。

「……カラス?」


「あっ」

いつの間にか、取り囲まれていた。

木々に、憎しみでも持っていそうな。カラスが所せましと留まっている。

まるで、せつなを餌と認識しているかのように。

「はは――ん、私が良いモン持ってると思ってるな?外で高級弁当食べてるのでも見たのか?いいよ、かかって来な、返り討ちにしてやる」

せつなはカラス達に向けニヤリと笑い、木刀を取ろうと背中に手を伸ばした。


武器さえあれば、せつなは尋常で無く強い。

ハッキリ言って、天才だ。

まぁ昨日は負けたが。

でもやっぱり、強いっちゃあ強い、ヘタをすればヒグマとも渡り合える。

まぁやっぱり、その場合は高確率で負けるが。


だが。

「あれ?」

手は空を切る。虚しくひゅっひゅと音をたてる。

木刀は無かった。

「……」

ざっと数えて40匹程度のカラスに向け、せつなはにんまり笑った。

それは諦めに近い表情だった。

「すんませんっした」


――――

カラスは賢い。仲間と連携ができる。

そしてせつなは、腹の怪我を無理して動くことは出来るが、どうしても全力は出ない。


だから。

せつなは取り囲まれてボコボコにされていた。

頭をガンガン嘴で突かれたり、背中を蹴られたりしていた。

「タンマ!タンマ!ストップストップ!やめてとめてやめて痛い痛い!」

反射的に腕を振り回し抵抗するが中々カラス達は離れようとしない。

「邪魔!怒るよ?!MK5、マジで切れる五秒前なんだけど!?」

逃げようにも数が多すぎて無理。

「誰か―!助けて―‼いや――‼」

だからせつなは、助けを呼んでいた。

出来るだけ情けなく、人が助けたくなるような声で。



そこに、幸運があった。

「大丈夫か?」

何やら男の声がした。

カラスとの戦いに集中していて何者かの判別もつかないが、今は彼に縋る以外せつなの道はない。


「あ、あの助けて!」

攻撃を避けながら頼む。

「いや無理、二日酔いで激しく動いたら死ぬ」

「じゃあなんか!なんか!長くて硬くて太いのが欲しい!」

「……じゃあほらよ」

男は、何かをせつなに向けて投げた。

これぞ好機と彼女が手を伸ばし、握りしめた瞬間


せつなの全てが変わった。

先程までのように、ただ焦っていた彼女とは違う。

自分の全てを唯一つの目的のために使う、ソレはまるで殺戮マシンのようである。


「……フッ!」

一息で、手に取ったソレを体の周りに円を描くように大きく力強く振った。

その攻撃は、複数のカラスを巻き込み吹きとばす。

さらに振った勢いで姿勢の低い後ろ回し蹴りもしていて、全ての攻撃を避けながら二匹程蹴り飛ばしていた。

おまけに、上から飛びかかってきていたカラスを見やりもせず、空に向け武器を突き上げ気絶させた。

そして背中に振り下ろし、背後にいった一匹を倒しつつ膝蹴りを前に出し一匹。

その反動で脚を後ろに振り上げ、もう二匹。

武器を手にしてから、一秒も満たさぬ程一瞬の出来事だった。


一気に仲間をやられたことで、カラスが引いた

少し距離を取り、近づきかねている。


せつなはカラスを睨んだ。ソレだけで殺せそうなほど鋭い眼光だった。さらに地面に武器をたたきつけ威嚇する。


カラスはぎゃあぎゃあ叫びながら一目散に逃げ出した。


「ふぅ、終わった」

せつなは、ふぅっと息を吐く。

くるくる手に持ったものを回している彼女に先程までの殺戮マシンかのような様相は無い。

ただの美少女であり普通の表情をしていた、今さっき、カラスに大怪我をさせられかけた事など無かったようにケロッとしている。

「起きたんだな」

せつなに武器を渡した男が話しかける。

それはせつなの知る人物だった。

「徳さん?」

彼は常に生ごみの臭いがするホームレスだ。

特技は自販機の下から金をとる事。


昔。所詮数年前だが、子供にとっては昔のことである。

せつなは色々な慈善事業をしておけば、進学や就職といった面で将来的に役に立つかもしれないと思って色々やって来た。

ゴミ拾いや草刈のボランティアだとか、そういう社会的に見栄えの良い行為を。

その中で、浮浪者支援の炊き出しボランティアにも幾度か参加した。

当然ホームレスと話す事だってある。

そこで、彼と会った。

賢そうだし仲良くなっておけばそのうち役に立つかもしれないと思い、積極的に交流し、街で出会えば会釈する程度の関係になっていた。


知り合い以上、友達未満というあたりか。


「とりあえず、ソレ返せよ」

せつなが手元を確認すると、酒瓶が握りしめられていた。

言われた通り投げ返すと、徳は酒にかぶりつくよう飲もうとした、だが。

「二日酔いなんじゃ?」

せつなが静止した。

「頭痛を消すためには、飲むのが一番なんだっつーの」

せつなは小声で「なワケ無いじゃん」とぼやいた。


徳は酒瓶を開けて、口に向け逆さにして……酒瓶が割れた。

せつなが地面にたたきつけたせいであった。


――――――――――――

とりあえず、立ち話も疲れるので二人はせつなが這い出て来たテントのトコロまで戻って来ている。

ちなみにこのテントは徳の家だ。

その前に雨を防ぐため使うシートを引いて座って話していた。


そこそこ険悪なムードだったが、せつなはそれをどうにか変えるつもりはない、べつにお互いニコニコ笑顔で話すべき関係でもないから。


「話をまとめると、徳さんのテントの前に私は倒れてて、夜の冷えとかで死んだり襲われたりしたら大変だから、だからとりあえずテントの中で寝かせた、でも包帯の処置とかは徳さんがやったんじゃなく倒れてる時点であった」

徳の話をせつながまとめた。


「ありがとうだけど、そんな状態なら救急車呼んでくれてよかったのに」

「違法に住んでる俺らとしちゃあんまり公的機関を呼ばれたくない、何が強制立ち退きの原因になるかわからん」

徳の発する一言一言にはどこか棘があった。

酒の恨みだ。

ぶっ壊された酒の分は、面白い話を聞こうとしている様子。

「かといって、お前が死んでもサツは来かねんだろ、だからこうした」

「まぁ、生きてたしいいけどさ」

せつなは意気消沈しながら答えた。

怒らせた事が辛いのではない。

木刀が無くなったせいでどうにも調子が出ないのだ。

一本数万円、合計20万円越えの損失である。セーフキリングで荒稼ぎしてるとはいえ辛いものがある。



「で、ハッキリ言って興味本位だが、お前はなぜ倒れてた?」

イライラとしながら徳は聞く。

「公園で強姦魔を殺してる羽を生やした金髪ギャルに殺されたけど、なんか生き返った」

「あ?お前ふざけて――……いや、違うか」

一瞬徳はせつなはふざけてると思った。

だがしかし、すぐにせつなは正常な状態と見抜く。

ソレを見こして、せつなは正直に言ったのだ。


徳は先程まで酒の事にむかついていたのを忘れ身を乗り出した。

しかし、キョロキョロと辺りを見回す。

「お前、何するつもりだ」

あぶない話だと判断して誰もいない事を確認してから徳は質問した。


「たぶん、私はその金髪ギャルにもう一度会わないといけない」

そう答えてから脈絡なくせつなは。

「……最近、家追い出された無職とか、年季の入ったホームレスとかが行方不明になってるって知らない?」

だがしかし、徳はソレが無意味な言葉じゃないと思って真面目に答える。

「いつだって行方不明者なんて出てる、殺されたり拉致られたり、普通の奴らは目を向けてないだけで」

「ガチで調べてみたよ?昨年と比べて今年は5倍以上いなくなってるって」

「こんなの偶然じゃありえない、誰かの意思が絡んでる、私は調べて解決しなきゃいけない」

徳はせつなを訝し気に眺めた。

「そんなことに素人が首突っ込むなバカ」

「ひどいなぁ、事情も知らず馬鹿とは」

「警察に任せとけ」


「それじゃダメなんだよ」

せつなは立ち上がった。

「……私のやろうとしてる事は、とてつもなく自分勝手な理由によるものだから」

「ふーん」

「自分の力でやらざるを得ない、正しいとは言えないけど」

「まぁ、俺もお前がドラム缶に詰められて沈められたりしてもあまり悲しくねぇだろうし、そこまで言うなら止めねぇが……」


アレの態度はかなりせつなを突き放したようなものだった。

だが、あくまで”あまり”悲しくないだけであって、ホントにそんな事になれば少しは寂しさを覚えると言っている、パッと受け取る印象よりは温かい言葉であろう。


「徳さんは何か知らない?事件について」

徳は一瞬目を輝かせた。

「酒、弁償、それから」

せつなの弱みにつけこんで自分のメリットに変えられる、そう判断しているようである。

「約束するよ、二倍にして返す」

「じゃ、一つ教えてやる、事件といや鳥の仮面をつけて木刀を背負った不審者の目撃情報があるよな」

「あ、ソレは……」


せつなは、”自分だ”と言おうとしてあわてて手で口を抑えた。

仮面は正体を隠すためにつけているので、自分から明かしてはダメだ。

最近急増する行方不明者の原因究明の時、危険人物に遭遇することもあると考えた。

そういう時、個人情報がバレると危険だ。

だから時おりつけている。まぁ、ぶっ壊されて正体バレたが。


「ともかく情報は一つ教えたもっと聞きてえなら酒だ酒、ただの馬鹿であろう奴の話以外をしてやる」

徳は目の前に鳥仮面の正体がいると思わず、ものすごく馬鹿にしている。

「そ、そんなに馬鹿かなぁ?」

昨日金髪少女に仮面を割られて正体が思いっきりバレたヤツは、間抜けと言っても差し支えないので反論できなかった……もっとも、しそうにはなったが。

「だいたいなんで鳥の仮面なんだ?もっとかっこいいやつあるだろ」

「は!?鳥かっこいいよ!鳥!」

「ぁ?」

「飛べるし、速いし、嘴あるし、頭いい鳥もいるし、あと神話で出ることもあるし」

「そんなに鳥が好きか?」


「とりあえず、ありがとね徳さん‼‼」

強引にせつなは話をしめた。これ以上続けるとボロが出かねない。

「あ、お前質問に答えずに行く気かよ」

「お酒、ちゃんと弁償するから!」

これ以上やる事も聞きたいことも無いので逃げるようにして徳のもとを立ち去って、しばらくするとなぜテントのところにホームレスがいなかったのか理由がわかった。


ホームレス向けの炊き出しがなされているようで、人が集まっている。

すいとんを貰えるようだ。

せつなはお腹が空いてるのに気付き、貰いに行こうか考えたが流石にやめておいた。


アレは切羽詰まってる人のためのモノであって、決してせつなの様に普通にコンビニでパンを買える者のためのモノじゃない。

いくら量があるにしたって。

いくらホームレス達が美味しそうにがっついているにしたって。


そうやってスルーして歩いた。


そして、先日の寂しい公園の入り口についた。

せつなにとっては、即死レベルの怪我を負った場所だ。

ぶる、と少しだけ震えて立ち止まる。


昨日の金髪少女とまた出会ったらどうしようか、犯人は現場に戻るっていうし。

そういう恐怖もある、だが、どうしようも無いので足音を消して歩き出した。

周囲の気配に、気を配りながら。


そして

「……マジか」

せつなは驚愕した。

ココに何も変なモノは無い。

それが逆に変だ。

死体なんて無いし、血痕一つとして残っていない。

記憶を疑いそうになる程何もない。


あの痛みが夢だったのならば、現実とは何かわからなくなるくらい鮮明に覚えているのに。

ソレは錯覚だとあざ笑うかのように。


とりあえず男の死体があったであろう地面を手で軽く触ってみる。鼻で嗅いでみる。

あんなにグチャグチャでグロテスクな状態になったのなら飛び散った血や糞尿の残り香があってもおかしくはない。 


とにかく、今は証明が欲しかった。

自分が見た者が現実であると。

でも何も、何も無いのだ。

「……」

せつなは腹の肉を握りしめると、灼けるような痛みがした。

確かに昨日のアレは現実なのだ。



ふと、一つ気づいた。

「……綺麗すぎる」

ボール遊びすら禁止で子供もよりつかなくなって寂れた公園なのに、死体のあった場所だけ妙に綺麗なのだ。

枯葉の一枚や、砂地の乱れも何もない。

一切合切不穏な空気を感じさせぬ見た目。


まるで新しく出来たばかりの公園のように。


せつなは確信した。

何者かの手によって、昨日の大事件は隠された。


「……どうやってここまで痕跡を消せる?」

すぐに、それを考えるのを止めた。

せつなにとって、誰が、何のために、それこそが大事であった。

「死体の処理が早すぎるし、間違いなく”敵”は複数人で動ける、其処に私を殺そうとしてた昨日の金髪ギャルは間違いなくかかわってる、事件を追うべき私にとって会う必要がある」

でも、どうやって会うんだ。

名前もわからんってのに。

「……う―――ん」

せつな数秒間頭を働かせた。

そして、何も浮かばなかった。

「……考えるのってめんどくさいなぁ」

とりあえず、誰かに任せよう。


せつなは色々な事をしていたゆえに結果知り合った大勢の中に、いいアイデアを持ってる奴がいないか考えだした。

しかし、大概は多分会っても意味がないだろう。

「やっぱ、あの人か」

せつなは呟いた。

さて、せつな編も二話です。

二人目の主人公であるせつなは、にっけと多くのポイントが違う人物となっています。

他人への態度。戦闘スタイル。考え方。生まれ。他にもいろいろ。

まぁ、そういうのがまったく同じ人間なんてそうそういない気もしますが。


然し彼女もにっけも同じように血濡れた運命を辿ってもがいて絶叫して、のたうち回る少女。活躍をお楽しみください。

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