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第11話  風火は、ぶちのめすつもりです

今までの二戦でわかったのは射撃が下手くそなヤツは相当不利だという事だ。

それはつまり相手との距離が遠いと、一方的に攻撃を受けるという事、わざわざ近づかなければダメージが与えられないというのはキツイ。


だから桂木に、昨日来た徳宮テクノロジーのビルに連れて来て貰い射撃能力テストを何度もやる訓練を始めた。

それから、やり続けて多分何時間かたった。


ここには私が動き続けたせいで熱気がこもってる、汗は体中から噴き出ているが体温が下がらない。

倒れ込んでそのまま寝たいという、危険な疲労感が、私の体を支配していた。

こんな熱いトコで寝たら絶対休憩にならない。

というか多分死ぬ。


明日も試合があるのだからこれ以上の消耗はいけない。

なんと、その試合は風火とのモノなのだ。

訓練しすぎで本番で実力を発揮できなくなったら意味ない。



もう家に帰って、寝るべきだ。

私は部屋のドアを開け廊下に出た、さて桂木に宿へ連れて行って貰うか。

そう思った瞬間だった、桂木が私をどこで待っているか忘れている事に気づいたのは。


めんどいけど、探すか。

そう思って一歩踏み出し、また一歩、考え事をしながら歩みを進めていく。


……ハッキリ言って、まだまだ私はダメだ。

狙いをつけ切る前に引き金を引いているせいで当たらないことに気づけたおかげで命中率50%に辿り着きはした。

でも、本番では相手も射線を切ったり避けようとしたりとするから必然的に命中率は低下する。

だから、今の私の銃撃力は不安定だ。


いっそ、銃なんて止めちまおうか?と頭をよぎる。

例えば遠距離攻撃は麻美戦のようにナイフ投げるとか。

攻撃の正確さというだけならそっちの方がマシではある。

ソレを突き詰めれば、もっと強くなれる。

でもやっぱり、どれだけ努力しようが銃弾より遅いし射程も無いしなぁ……それに相手に拾って使われる危険もあるし……


ごっ。

頭に鈍い痛みが走る。

考え事をしていたらドアにぶつかった。


ドアが私の目の前にある、なんのドアだったか、たしかこの先は資料室だった気がする。

開けようとしたら鍵がかかっていた。誰かが入っているのだろう。

「桂木さん、います?」

とりあえず叫んでみる、少し待ったが出てこない。

桂木はいないっぽい。


くそ。

汗でひりついたシャツを気持ち悪がりながら、私は踵を返しまたしても歩き出した。

すると、後ろでガチャリ。と鍵の開く音がした。


振り向くと、中年男性が出てきた。

すぐに誰かわかった、ここの社長だ。

あんたがここに入っていたのか。


「君は何をしているんだい?」

あぁもう、早く見つけたいのに話してると時間の無駄だ。

「桂木さんとはぐれてしまったので、探しているんです」

「そうか」

よし、早く次の場所に行こう。

「よし、一緒に探してあげよう」

「一人でも大丈夫だと思います」

「遠慮しなくていいぞ!ここに来たのも涼しいから休憩に最適なだけだしな!」

べつに遠慮してるんじゃなく、助けをあまり借りたくないだけだ。

そう言いたかったが、声に出してしまうと多分あまりにもはっきりした拒絶が伝わるので止めた。

仲良くなりたいとかは無いけど、劣悪な関係を気づきたいわけでもない。


仕方ない。

私は、二人で歩き出した。


その間社長は時折話しかけてきた。

大概は、他愛のない話である。

死んだ祖父のハマってた盆栽をやってみたがよくわからなかっただの。

年を食うと油ものが食べにくくなるから若いうちに楽しんどけだの。

タバコや酒はハマると抜け出せないだの。

喋るのが好きなのだろうか。

それとも、私と黙って一緒にいるのは気まずいのか。

後は、大事な話をするきっかけが

まぁ、どっちでもいいが。


そして、しばらくそうやってうろうろしていると

社長はコレまでとうって変わった重苦しい雰囲気で言いだした。

「君が悪いワケでは無いが、不動君がいなくなってからうちの株価はがくんと下がった」

「……そうですか」

徳宮テクノロジーって株式会社だったのか。へー。

「当然、会社の営業が捗らなければ社員も困る、私も困る、君には頑張ってもらいたい」

言われなくても頑張るつもりだから、問題ない。

でも、わかりましたとだけ答える。

「うちは大きくはない会社だから些細なことが命取りだ」

普通な顏をして、社長は言う。

きっと自社が微妙な規模であると人に伝えることは慣れているのだろう。


「例えば大空生命グループなんかが全力を出せば跡形も無い」

たしか、林山風火の契約してる会社の名前だった。

「もしかして、大空生命が相手だったら私に試合で負けろとでもいうのですか?」

八百長試合で自分より強い相手にへりくだるのは、ありうる。

……どうしよう。負けろだなんて、言われたら。

今のところ風火にだけは勝ちたい。どういう理由があっても。


「いいや、そうではない」

杞憂だったか。

「君には勝ってほしいのだ、できる事なら盛り上げたうえで」

よかった。

徳宮テクノロジーは自分より強い相手に勝って、位置をあげる作戦らしい。

「……でも盛り上げるって、どうやって?」

「不動君のように、一つ一つの動作が芸術的だったであるならば自然とそうなる」

不動霞。またその名だ。 

ここまで私の前にあらわれると、流石にどんな人間か多少気になって来た。

「だが、そんなモノは無理だ、不動君以外はほとんどの人間が出来ないだろう」

……何も知らない人間のことを語られ続けるっていうのも、苦痛だ。


「あの、不動霞ってどんな人間だったんですか?」

聞くと、社長は一瞬だけ怪訝な顔をして、それから苦笑した。

「そういえば君は不動君を知らないのか」

「まぁ、直接会ったことが無いので」

「不動君は、真っ直ぐで純粋だったと思う」

「へぇ」

とりあえず相打ちはうつけれど。

やっぱ、よくわからない。

「彼女のように君も、試合に全力で挑んでくれたまえ、我々も出来うる限りは援助するつもりだぞ」

言われなくてもそうするつもりだけどな。

「まぁ、当面の目標も出来ましたしね」


「ん?」

社長が“ソレはなんだ?”と聞いたのは、明らかだ。

「あいつ……風火は、ぶちのめすつもりです、彼女を倒したい理由があるんです」

「それは頼もしいなっ」

社長は下品かつ大きな声で笑った。

つい、耳を塞いでしまう。

だがしかし、この不快感が今は心地良い。

私が風火に勝ちに行く。

その決意を新たにさせる。


そんな風にして歩いてると

10メートル先の、右に曲がる突き当たりから、社長の大きな声を気にしたのかひょっこりと姿を出す者があった。

「桂木さん!」

「おぉ、桂木くんいったいどこに行っていたのかね?」


なぜ私等が一緒にいるのか不可思議そうに桂木が見ている、だが説明するほどのことでも無いだろうから黙っておいた。

少し考えれば、彼を効率よく探すためにだとわかるだろうから。


「……トイレにこもっていただけですが」

桂木はそう言った。

トイレか。

トイレなら仕方ない、多分。


「バッチリ訓練出来ました!ありがとうございます」

桂木に向け、親指を立てる。

「……そんな風に笑うの、初めて見ました」

「あ」

そう言われて、なぜだか血の気が引く感じがした。

口をつぐむ。

「僕、何か変なこと言いました?」

不快に思ったのが伝わったらしく、桂木がたずねてきた。

首を振って、声は出さず答える。

彼は訝しむが仕方ない。

私はそういう性質なんだから。



ともかく、ようやく私は宿へ戻れることになった。

何故だか明日が楽しみだった。

多少なりとも訓練の成果が試合に出てくれたらいいな、と思った。


もちろんそうそう上手くはいかない。

私はよく問題に直面する。

きっと皆そうだ、何もかも順風満帆な奴なんて稀。

わかってた、ハズなのに。


私は油断していた。

ヘラヘラと腑抜けていた。

どこにでも、落とし穴はある。

どこにいたって、人は不幸になれる。

それを忘れていた。


だから、私はこの後最悪な目にあったのだ。

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