007 こちらグルパケル潜入に成功した
シーゲル小父さんの畑で芋を掘っていると、ふらっとモンスターが現れた。群蜥蜴だ。俺は即座に剣を抜き、斬り殺す。関所での早朝訓練の成果も出て、当初に比べれば俺の動きはだいぶマシだ。
「畑にモンスターが出るのか。森から来たんだろうか?」
シーゲル小父さんは多少緊張していたが、落ち着きを取り戻していく。
「ああ、たまにあるね。関所の外とはいえ、モンスター避けの防護柵で囲われているし、ヤズーたち軍兵がちゃんとモンスター狩りをしているから、早々あることじゃないけどね。だからまあ、俺たちはこうして安心して畑の世話が出来るんだよ」
「こうして遭遇したら普段はどうするんだ?」
「グルパケル一匹くらいなら、まあ、なんとかなるかもしれんが、そんな無茶するくらいなら関所に駆け込むよ。番人もそのためにいるしね。いやあ、ベルガーくんがいたからそんな手間もかけずに済んだよ」
日中もヤズーたち軍兵は警備を欠かさない。モンスターの危険なく安心して作業できるということは、土地への定着にも繋がる。フラットレント王国からシュケン王国に流れてくるというのも、普段からこうやってモンスターに襲われる状況にあっては仕方のないことだろう。
シーゲル小父さんは腰に差したナイフを抜くと、グラパケルの首を切り、逆さにして血抜きを初めた。
「捌けるのか?」
「ああ、できるよ。グルパケルの肉は臭みが強くて料理にはコツがいる。鱗と皮は素材として売れるね」
「教えてもらってもいいか?」
「ああ、いいとも。早めに小屋に戻ってやってみるか」
今日の分の収穫を終えたシーゲル小父さんと俺は、オスポテトの詰まった木箱を荷台に積んで、アゼノケスに引かせて帰る。小屋に着いてシーゲル小父さんにグルパケルの捌き方を教わった。肉と素材を貰う代わりに、シーゲル小父さんは古いナイフをくれた。
◇◆◇◆◇
俺は連日シーゲル小父さんの依頼を受けて収穫を手伝った。その傍らで侵入してきたグルパケルを倒して捌いたり、採取依頼でよく見る薬草について教えてもらったりした。シーゲル小父さんからの依頼は正直金にならなかったが、その分冒険者として必要そうな知識を教えてもらったのでよしとする。
「しかし、こうも度々モンスターが入り込むのは珍しいなあ。防護柵がどこか壊れているのかもしれんな」
「防護柵の管轄は軍兵か?」
「ああ、関所の番人に報告してみるかな」
収穫の最終日、その帰りに立ち寄った関所で年長の番人ベルケウスにモンスター出現を報告する。
「モンスターか。ふむ、他から報告はなかったが、連日ともなれば妙な話だ。わかった、点検させよう」
「うちは今日で収穫は終わりだけど、他はまだやってるところもあるからね。よろしくお願いしますわ」
「ああ、了解した」
そうして俺とシーゲル小父さんとアゼノケスは小屋に辿り着く。短い間だったが、シーゲル小父さんにはいろんなことを教わった。
「いやあ、よく働いてくれて助かったよ。君みたいなしっかりした子が冒険者ってのも不思議だけど、まあ、また何かあったら声をかけてよ。しがない百姓だけど力になるからね」
「ありがとう。こっちも捌き方とか薬草とか色々為になった。錦屋のプリンちゃんによろしくな」
「ああ、ベルガーくんもいっぺん楽しんでみるといいよ」
最後の依頼完了のサインをもらい、アゼノケスの首を撫でて、俺はシーゲル小父さんの小屋を出た。
◇◆◇◆◇
冒険者ギルドにはサラがいた。いつもの席でいつものようにダラダラしている。報酬手続きを済ませた俺は声をかける。
「おう、サラ。お前、まだニートなのか?」
「違いますー。これは来たるべきを伏して待っているだけですー」
「依頼のひとつもこなしたらどうなんだ?」
「ううう」
サラは残念ながらニートになっていた。特に難しい話ではない。これまで依頼やらの交渉や手続きは仲間たちに任せっきりで、サラは剣技のみに集中していたのだ。戦闘員。サラのパーティにおける役割は純然な戦闘員だったのだ。
それなりのランクでそれなりの仕事をこなしてきたサラは、今更下位の仕事なんて……と選り好みをし、言い訳をし、結局こうしてギルドでぐだぐだやるだけの悲しい生き物になってしまった。ああ、早く養ってあげないと。
「そう毎日テーブルに突っ伏していても暇だろ?」
「そんなことありませんよ? 朝晩剣は振ってますし、後輩たちに教えたりしてますし」
「そうなのか。なんだ、仕事が見つかって良かったな」
「いやぁ、無償なんですけどね……」
収入はなく、しかし金は日々消費される。これまで元仲間たちに管理されていたおかげで金はいくらか貯まっていたようだが、それも着実に減っている。けれどまだあるから、まだ大丈夫だからと、サラはぐだぐだしているのだった。
「それより芋掘りはどうしたんですか? 今日は終わるの早くないですか?」
「ああ、今日で終わりだったんだよ。明日からはどうするかな。防護柵の修理の依頼とか出たらやろうかな」
「防護柵?」
「畑にモンスターがちょくちょく出てな。柵が壊れてないか、番人に点検を頼んだんだよ」
「へえ」
防護柵が軍兵の管轄なら、修繕も軍兵主導で行われるだろう。冒険者ギルドに依頼がくるか分からないが、モンスターに直接エンカウントした身としては少し気になる。宿舎に帰ったら番人の皆に聞いてみよう。
「なかったらそうだな、薬草採取でもやってみるかな」
「マメですねえ。私、薬草とかさっぱりわかりませんし」
「それも仲間任せだったんだな」
「ううう」
サラは元仲間たちとの別れに多少折り合いを付けたようだが、こうして話題に出されると悩ましい顔になる。イジる方はおもしろいが、イジられる方はそうでもないだろうから、ほどほどにしておこう。
「それじゃあ、一緒に薬草採取にいくか。サラがいれば護衛は十分だろうし」
「ふえっ、あああ、まあ、いいですけど」
「デートだな」
「ふえっ!?」
「はっはっは」
仮にも邪竜討伐サークルの姫だったろうに、サラの反応は初で愛らしい。元仲間たちはいったいどのようにサラを扱っていたのやら。
◇◆◇◆◇
宿舎に戻った俺は水場で汗を流している年の近い番人の兄ちゃんレクトに防護柵の話を聞いてみた。
「ああ、壊れてはいなかったんだが、木が伸びていてな。それが柵の上の方までいってて、そこを伝ってきたんだろうよ」
「上?」
「ああ、グルパケルは木も登るからな」
「なるほどな。そうなると修理の依頼はないか」
防護柵が壊れていないとなると、仕事は伐採になるのだろうか。
「いや、伐採のための足場を組むし、柵の外側での仕事になるから護衛も必要だ。冒険者ギルドにも仕事は回るぜ」
「そうか、それじゃ受けてみるよ」
レクトは布で身体を拭きながら笑う。その身体には無数の傷がある。日常的にモンスターと戦う彼らには絶えない傷だ。
「お前も物好きだな。いくら冒険者ギルドだからって、もっと面白い仕事はあるんじゃないか?」
「甲虫を探せとか牛獣竜を倒せとかあるが、芋掘りしていてモンスターに襲われたのは俺だからな。見届けたいんだ」
「はっは! 随分とナイーブな奴だな。俺はボビーケスと切った張ったする方が楽しいけどなあ」
レクトは物騒なことを言う。ヤズーは凶暴性の極致だが、番人の連中もそれなりにイッていることは宿舎に住み始めてすぐに分かった。あの上司にしてこの部下というわけだ。
「ま、そのうち俺も切った張ったするからさ」
「おう、その時は声かけろよ」
◇◆◇◆◇
「というわけで、今日は防護柵の周りの伐採依頼を受ける」
「はあ?」
翌日冒険者ギルドで俺を待っていたサラに告げる。珍しく席に座らず、しゃきっとした様子のサラだが、俺の予定を告げると機嫌を悪くする。
「薬草採取はどうなったんですか?」
「防護柵の依頼がなかったらといっただろ」
「む、確かにそうですが」
「依頼には足場組みの力仕事と護衛のふたつがある。サラは護衛の方をすればいい」
サラは不満そうだが、それなりに装備を整えて準備してきたのが無駄になるのを嫌ったのか、大人しく依頼を受注した。