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陛下が姿を消した途端、エミリアちゃんは何かを払い落とすかのようにブルブルっと体を揺すった。
「まったく陛下ったら、エミを独占したくてしょうがないみたいね。もちろんそんなこと私が許さないけど。エミの時間の全部を陛下に取られちゃうなんて絶対にごめんよ!」
「あはは。それはないよ」
「ほんとに?」
「うんうん。私はこうやってエミリアちゃんと過ごす時間もすごく楽しいし!」
「な、なによっ。私だってそうなんだからねっ」
エミリアちゃんは私の膝の上に乗って、機嫌よく尻尾をふさふさと振った。
ああ、もう、なんてかわいいんだろう。
「撫でてもいい?」
「エミだから特別に許可してあげるわ」
「ふふ、ありがとう」
猫にするように顎の下を指先で撫でると、エミリアちゃんは心地よさそうに目を細めた。
「はぁ……。この感じ、悪くないわね……。陛下の相手で溜まった疲れが取れていく気がするわあ」
「マッサージもできるよ。よかったら肉球にしてみる?」
エミリアちゃんは返事の代わりに、前足を差し出してきた。
ピンク色のなんとも愛らしい肉球がこちらを向いている。
「じゃあ失礼して……」
柔らかい肉球にそっと触れ、むにむにとマッサージしていく。
完全に力を抜いて私のおなかにもたれかかっているエミリアちゃんは、うっとりした声でゴロゴロと鳴きはじめた。
「ふわああ……最高だわぁ……。エミってほんとにすごいわね。なんでもできるんだから」
「ふふ。ありがとう。なんでもってことはないけど、マッサージはちょっと勉強してみたことがあるんだ」
アロマオイルを使ってマッサージするとかなり気持ちがいいし、リラックス効果も増すのだ。
「あ、そうだ。陛下にもマッサージしてあげたらどうかな? 今またすごく仕事が忙しいみたいだし」
「だめよ! それはぜーったいだめっ! 人間に肉球はないから、体に触れるってことでしょ!?」
「そうだね。腕とか足とか、あとは頭や腰かな」
「腰ですって!? そんな場所をエミに触れられて陛下の理性が持つわけないじゃない!」
「マッサージで触れるだけだからね!?」
妙な方向に想像されている気がしたので、慌てて釘を刺す。
「とにかくね、何か陛下のためになることをしたいなって思ってるんだ。私が公務を手伝えないせいで、負担をかけてるのが申し訳なくて」
「エミったら……。そんな責任感じる必要ないわよ。公務を手伝うことばかりが、陛下の助けになるって話でもないわ。陛下の睡眠障害を治せるのはエミだけだし、効率よく睡眠をとる方法とか、そういうやり方で支えるって手もあるわ」
エミリアちゃんの言葉を聞き、目から鱗が落ちる。
陛下が国王であることと多忙だという理由から、公務の負担を減らすことばかり考えていたけれど、たしかにエミリアちゃんの言うとおりだ。
「今までどおりエミが得意な方法で、陛下の疲れを癒してあげたらいいのよ」
「そっか……。そうだよね」
できないことを嘆いていたって仕方ない。
もともと裏方として手伝いたいと考えていたところだし、内助の功とまではいかなくても、私にできる方法で陛下を支えるのが一番かもと思えてきた。
「そうと決まったら、新しい癒しアイテムの作成計画を練らないと!」
「あ、でもマッサージはだめよ! この気持ちよさは私だけのものなんだからねっ」
柔らかい肉球で頬をぷにっと押された私は、エミリアちゃんに笑みを返した。
この時の私は、陛下をどう癒やすかしか考えていなくて、自分がとんでもないアイテムを開発してしまうなんて想像すらしていなかった。
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