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42 初めて迎えた朝

「これはどういうことだ……」


 すぐ近くで、困惑しているような声がする。


 なんだろ……?


 ぼんやりした頭の片隅でそう思いながら、うーんとのびをすると、なんだか節々が痛い。

 体が変に強張っている感じ。


「ううっ……」


 呻き声を零してゆっくり目を開けると、向かいのソファーには、ぼう然とした顔の陛下が座っていた。

 ばっちり目が合って数秒。

 私は現状を理解して、ハッと息を呑んだ。


 しまった!

 陛下が起きるのを待っている間に、私まで寝ちゃってたよ!


 しかも窓の外がうっすら明るくなっている。


 慌てて起き上がった拍子に、パサッと音をたてて毛布が落ちた。

 おそらく眠っている間に侍女長さんがかけてくれたのだろう。

 起こしてくれればいいのに……!


「お、おはようございます!」


 着崩れていたガウンをサッと整えて、陛下に朝の挨拶をする。

 陛下はびくりと肩を動かしてから、数回瞬きをした。


「……あ、ああ。おはよう」


 寝ぼけているというよりは、状況が信じられないという顔付きだ。


「気づいたらソファーの上で寝ていたんだが、前後のことをまったく覚えてない……」


 陛下は雑な手つきで髪をかきあげながら呟いた。


 うん、それはそうだよ。

 文字通り気絶するように眠ってしまったもんね。


「えっと、アロマミストのくだりは覚えてますか?」

「ああ、ラベンダーの香りをかいだところまでは記憶にある」

「陛下はそのあと、突然、眠ってしまったんですよ」

「突然眠った?」

「あ! 別に眠り薬なんて仕込んでないですよ!?」


 困惑気味に聞き返され、慌てて付け足す。


「わかっている。その手の毒には耐性をつけている。それにしても、いったいどうしてそんなことになったのだろう」

「私もびっくりして、呼びかけたり揺さぶったりしてみたんです。でも本当にぐっすり眠っていて……。結局、そのまま寝てもらうことにしました」


 ぐっすり眠っていたと言った途端、陛下の頬が赤くなり、膝についた両手に顔を埋めてしまった。


「あの、安心して下さい。そんなに長い間寝顔を眺めていたわけじゃないので」

「……フォローになってないぞ」


 手の隙間から上目遣いで睨んでくる陛下はちょっとかわいい。

 私は苦笑して、「ごめんなさい」と謝っておいた。


 まったく見ていないわけじゃないうえ、寝ているのをいいことにマジマジ観察しちゃったからね。


「それにしても信じられない……。今までそんなこと一度もなかったぞ」


 陛下は困り顔で、髪をくしゃっと握りしめた。

 少し寝乱れた服や、癖のついた髪の毛のせいだろうか。

 いつものきちんとしている陛下とは、受ける印象が全然違う。

 ルーズさの中にどことなく色気が宿っていて、一瞬ドキッとさせられた。


 いけないけない。

 十七歳相手にドキッてなんだ。


「陛下、よく寝れました?」

「……夢も見なかった。おかげで頭がすっきりしている」

「なんで不満そうなんですか」

「不満というより不覚だと思っている」

「不覚?」

「……色々問題だろう。これでは私が離宮に泊まったと思われてしまうぞ」

「え? 泊まったじゃないですか」

「そういう意味ではなくてな……」


 陛下が言いにくそうに口ごもる。


 どういう意味?

 しばらく考えたあと、ああ! と納得した。


「そっか。夫婦で部屋にお泊まりですもんね。それは間違いなく、何かあったと誤解されますね」

「……っ。女性がそのようなことを軽々しく口にするものではないだろう!?」


 珍しく陛下が焦っている。

 こういう十七歳らしい反応は大歓迎だ。

 変にドキッとさせられるよりずっといい。


 まあ、でも陛下がめちゃくちゃ気まずそうなので、ここはお姉さんが話題を変えてあげることにする。


「陛下って暗示にかかりやすかったりします?」

「いや、そんなことはない。毒物同様、耐性を作るための訓練をしっかり受けている」


 訓練か。

 確かに一国の王が、ころっと暗示にかかってたらやばいもんね。


「じゃあラベンダーの匂いにすっごく弱いとか?」

「それだったらラベンダー畑で眠くなっているはずだ。あのときはなんでもなかった」

「あ、そうか。そうですよね」


 だとするとラベンダーそのものが原因ってわけじゃないのか。

 それならどうしてあんなことが起こったのだろう。

 腕を組んで考え込んでいると、陛下が私の顔をじっと見つめてきた。


「もしや、そなたが作ったものだからではないか?」

「えっ」

「実は香水瓶を渡された時から感じていた。そなたの作ったものは、少々特別なのだ」


 え?

 どういうこと?

お読みいただきありがとうございます!

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