03 気づいたら金髪の美少女になっていました
それまで不気味なくらい静まり返っていたのに、周囲がにわかにざわつきはじめた。
司教たちが取り乱した様子で、聞いたことのない呪文のようなものを唱え出す。
その呪文がまた物騒で、よくわからない文言の中に、『悪魔よ、立ち去れ』だの『邪悪なる者よ、滅びよ』だのという言葉が混ぜられているのだ。
だめだ、だめだ。
とりあえず、落ち着こう私。
それで状況を整理するんだ。
――私はいつもどおり、疲れ切って家に帰った。
ところが突然、心臓が痛くなり、倒れて、そのまま気絶した。
次に気づいたら、喪服っぽい服を着た外国人たちに囲まれていた。
いやいやいや。
気絶する前と後で、状況変わりすぎだよ!
「エミリア? ――どうやら混乱しているようだな。無理もない。おまえは死の淵より、戻ってきたのだから」
青年が私を覗き込んだまま言う。
よかった、このイケメンが日本語喋れて。
なぜ私がここにいるのか何か知ってそう。聞いてみよう。
今度はちゃんと喋れるかな。
緊張しつつ口を開く。
「あ、あのっ……」
喋ったら聞いたことのない声。
え。え!?
喉を押さえて、「あー」と言ってみる。
これ、私の声じゃない……!
動揺して俯くと、ふわふわしたローズゴールドの髪が視界に入った。
なにこれ。
思わずぎゅっと掴んで、引っ張る。
「……っ、痛ったー!?」
なんで純日本人である私の頭から金色の髪がはえているのか。
金髪になんて染めた覚えはない。
よく見たら肌の色も全然違う。
掲げた手は透きとおるように白くて、華奢だ。
それに少女のように小さい。
しかも、キーボードをたたくのに邪魔で短く切っていた爪が、長く伸ばして整えられている。
この手も私のものじゃなかった。
サーッと血の気が引いていく。
もしかして、私、私じゃなくなってたりする……?
なにこれ、夢?
にしては感覚がリアルすぎる。
それにさっき髪を引っ張った時、涙がでるほど痛かったよ!
そのときふと、私がいま会社で扱っているゲームの存在を思い出した。
不慮の事故で死んだ主人公が、異世界に転生して無双する話だ。
ゲームの冒頭で、主人公も今の私みたいな状況に陥っていた。
ただし喪服の人に囲まれてはいなかったけど。
これってもしかして……『異世界転生』なんじゃ……?
チラッとそんな考えが過った。
……なんて、まさか。
あんなのは物語の中だけの話だってわかっている。
ただ、他に私の髪や体が別人のものに入れ替わっている理由に説明が浮かばないのだ。
あ、そうだ。
顔はどうなってるんだろう!?
「か、鏡……!」
慌てて立ち上がろうとしたけれど、脚にまったく力が入らなくて、よろめいてしまった。
また今回も、青年がさりげなく助けてくれる。
「おっと。まだ動くのはやめておいたほうがいい」
私の肩を軽く掴み、宥めるように青年が顔を覗き込んできた。
「でも私、確かめないと……!」
「確かめる?」
自分の外見を確認したくて、きょろきょろする。
鏡や、その代わりになりそうな窓ガラスは見当たらない。
現状を把握するためにも、どうしても自分の姿を知りたいのに。
あ! そうだ。
こうなったら――。
「ごめんなさい! その目、ちょっと貸して!」
「え? ……っ!」
棺桶に手をつき、身を乗り出して青年の瞳を覗き込む。
こんな大胆な行動、普段の私だったら絶対に取らないけれど、背に腹は代えられない。
青年は驚いたのか、息を呑んで目を大きくした。
そんな彼の藍色の瞳に映っていたのは――。
ああ、どうしよう。
まったく見覚えのない金髪の美少女に見つめ返されて、私は頭を抱えたくなった。
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