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02 過労死したはずだったのでは?

 最初に視界に映ったのは、悲しそうに私のことを見つめている美青年の姿だった。

 救急隊員かな?


 視線がぶつかった途端、青年が目を見開いた。

 まるで宝石のように美しい藍色の瞳をしていることに気づく。

 あ、そうか外国の人。

 浮世離れした美しさの理由がわかって、すっきりする。


「……っ。意識が戻ったのか……?」


 イケボの正体は彼だったようだ。


 声だけじゃなくて、顔の造りもめちゃくちゃ整っている。

 ちょっとびっくりするほどの美形である。


 短く切り揃えられた艶やかな黒髪と、形のいい青い目。

 肌も白くて、人間離れした美しさだ。


 多分、年は十七ぐらい。

 精悍さの中に、少しあどけなさが残っている。

 大人になる手前の、まだ少年っぽさを感じさせる顔立ちだ。


 涼しげな目元にどことなく色気がある。


 目が合ったら、ほとんどの女の子がドキッとするような美貌だ。

 私だって一瞬、本気で見惚れてしまった。


 ……って、それどころじゃないよね!? 

 混乱すると頭のどこかは妙に冷静になるっていうのは本当の話らしい。

 そういえば、私は倒れた時もわりと落ち着いていた。


 そもそも十代の男の子にときめいてどうするのだ。

 冷静さを取り戻そうと、視線を動かす。


 よく見たら彼、なぜか黒い軍服を身にまとっている。

 うーん。これは救急隊員じゃなさそうだな。

 もしかしてコスプレイヤーに助けられたのかな。

 深夜、鍵をかけた部屋の中に、どうやってコスプレイヤーが入れたのかは謎だけれど。


 それにしても、この人なんか驚いて固まってない?


 至近距離で私を見下ろしたまま、彼はさっきからじっとしている。

 もう一度、顔を見る。

 無表情なんだけど、少しだけ眉が下がっていた。

 何を思っているのかまではわからない。

 戸惑ってるの? それとも困惑してるのかな? 


「エミリア……。私がわかるか?」


 エミリア?

 誰のこと?

 そもそも、君も誰だ。


 声を発しようとしたら、喉の奥がイガイガして、まともに喋れなかった。

 わかった。まず起き上がろう。


 手をついて体を起こそうとしたとき、自分が寝ているのが長細い箱のようなものの中だということに気づいた。

 しかも周りが花だらけで、手の置き場がない。

 しょうがないので腹筋を使って起き上がろうとしたら、体が思うように動かなくて、箱の中にぽすっと倒れ込んでしまった。


 あれ。おかしいな。

 さすがにそのぐらいの腹筋はついてたはずだけど。


 戸惑っていると、私の意図を察したのか、イケメンくんがわざわざ手を貸して起こしてくれた。


 わ、わわ。

 すごい。

 こういうのさらっとできちゃうのが、さすが外国の人……!


 私が楽に座っていられるように、彼はそのまま背中を支え続けてくれた。

 うわ。距離が近い。

 意識しちゃったせいで、気恥ずかしくなる。

 馬車馬のようにがむしゃらに働いてばかりだったから、色恋方面には、正直あまり免疫がないのだ。


 照れ隠しで周囲に目をやると、祭壇や説教台の存在に気づいた。

 それから黒服を着たたくさんの人たち。

 みんなぽかんとして私の方を見ている。


 えーと。なんだろうこれ。

 それに、自分の部屋にイケメンが現れたんじゃない。

 なぜか私が別の場所にいるのだ。


 混乱しながらさらに視線を動かすと、彫刻が施された柱頭や、壁に埋め込まれた精巧なステンドグラスが目に入ってきた。

 丸みを帯びた天井には、いかにもって感じの宗教画が描かれている。


 ここ、教会だ。


 ……ちょっと待って。

 どうして教会なんかにいるんだろう。


 情報が入ってくるほど、状況を理解できなくなっていく。

 そんなことってある?


 だんだん怖くなってきた。

 私ひょっとして、思った以上にとんでもない事態に陥っているんじゃないだろうか。


 離れて見ていた人たちが近づいてくる。

 司教のような恰好をした老人たち、その後ろには黒ずくめの人々の姿があった。

 女性は皆、黒いレースのついた帽子を頭にかぶっている。

 多分、喪服だよね。

 また頭が痛くなりそう。


 なんで喪服を着た外国人に取り囲まれてるの……?


「ま、まさか……。こんなことが起こりえるのか!?」

「間違いなくお亡くなりになられたのに……」


 司教たちが顔を見合わせている。


 お亡くなりになられたって何!?


 言われた途端、嫌な予感がしておそるおそる自分の寝ていた場所を見下ろした。

 棺桶だった。


「……!」

お読みいただきありがとうございます!

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