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食中毒  作者: 自遊人
7/11

面影

「お父さんとお母さん、かぁ……」



スコールが作った林檎のパイを食べながら、オベリアはスコールの質問の事を考えていた。

気づけば自分はあの狭くて汚くて冷たい路地裏にいた。自分が何者なのか、今まで自分は何をしていたのか、まるで記憶になかった。

その時はただ、お腹が空いていた。

最初に食べたモノの味を今でも覚えている。不快な食感で、味も最悪、そして少し鼻につくような腐臭を漂わせる、腐った調理済みの肉だ。

その後の数日は嘔吐と下痢に苦しめられた。



「……なんかヤな事思い出しちゃった。」



パイを食べ終わり、少し冷めたホットミルクを飲んでから、オベリアは空になった食器を下の階に持っていった。

階段を降りていくと、昼間の街の雰囲気とは真反対な、活気に満ちた声がだんだんと大きくなっていく。

階段を降りて台所のスコールにお皿を渡そうとしたが、調理場で慌ただしく料理を作るスコールを見て、オベリアは何も言うことなく邪魔になりそうにない所にそっとお皿を置いて部屋に戻った。



「……もう寝よう。」



部屋に戻って何をしようかと考えたが、特に思いつくことなく、ランプの火を消してベッドに潜った。



一人の若い女が店に入る。スコールはその女に気づくと、客との雑談を切り上げて強めの酒を用意した。

若い女はいつも必ず空いているカウンター席に腰掛けた。



「お疲れ様。はい、いつものお酒。」

「ありがとうスコール。」



スコールは女に青い酒が注がれたカクテルグラスを出した。

女は軽く礼を言うとクッと一口だけ飲んだ。



「今日はお客様がいるわ。後で挨拶してきたらどうかしら?」

「ほう、その価値があるってわけ?」

「あまり刺激しないようにね?あの子結構危ないから。それじゃあまたね。」

「ふむ……」



スコールはまた仕事に戻った。

若い女はしばらく考えた後、残りの酒を飲み干して席を離れて二階へ向かった。

部屋は8部屋ある。しかし宿泊客の宿として提供されるのは一部屋だけ……いや、ここ最近二部屋になった。



「…………」



女はその部屋の前に立った。

少し間をおいてからドアをゆっくりと開けた。

キィィ…とドアが音を立てる。

明かりの蝋燭は既に消されており、ベッドには上下に動く小さな山ができていた。そしてそれを見守る女性がベッドの側に座っていた。

女は始め酔っているのかと目を擦ったが、徐々に目が慣れてくると酔いもサーッと覚めていった。



「何故、貴女が……」



女は女性の姿を見て狼狽えた。

銀の髪に翡翠色の瞳、その身から溢れるモノはかつて女が仕えていた者と同じだった。



**************



朝を迎え、目を覚ましたオベリアはドアがカーテンになっていることに気づいた。

少し気になったが「酔っ払いが暴れて壊れたのだろう」と勝手に決めつけた。

軽く身支度をして階段を降りる。閑散とした店内は来た時とは別の匂いがした。

少し鼻をつく酒の匂いと肉が少し焦げた匂い……それと小麦が香ばしく焼ける匂いがした。



「あら、おはようオベリアちゃん!」

「おはようスコールお姉ちゃん。」

「ほら座って、朝ごはんできてるから。」

「うん、分かった……ん?」



カウンターの方に見知らぬ女がいた。

女はこちらを横目でじっと見つめていた。

一席空けて、カウンターの席に座る。まもなくこんがりキツネ色に焼けたパンと目玉焼きとソーセージ、サラダが出された。

美味しそうな朝食を頂こうとしたが、どうにも隣からの視線が気になった。



「……っ」

「…………」



チラッと隣を見る。女は相変わらずこちらを監視していた。



「お姉さん、これお部屋で食べてもいい?」

「あら、どうして?」

「あの、その……」



隣をチラチラしていると、スコールは察してくれたようだ。



「ユニコ。」

「…………」

「ちょっと!」

「痛っ!おい、いきなりどうしたんだ?!」



『ユニコ』と呼ばれた女はスコールにつままれて裏口の方に連れられていった。

オベリアはすこし困惑したと同時に安堵した。



ぐぅぅぅうう……



「早く飯を寄越せ。」

腹の虫が早く食えと急かす。

オベリアはそれに従うように朝食を食べ始めた。



「……ヘンな人。」



「昨日は聞けなかったけど、一体何があったの?」

「……聞いたってどうせ信じないさ。」

「抱え込んでないで、話すだけ話してごらんなさいな。信じる信じないは後の事でしょ?」



スコールは大きくため息をついた後、困った顔をしてそう言った。



「……昨日あの娘の部屋に入ったんだ。そしたらベッドの隣に居たんだ。」

「居たって……誰が?」

「……あの人だよ。」

「あの人って……まさか前の?」

「ほら、信じてない。」

「まだ信じてないとは言ってないでしょ?ん〜、でもあの方に子どもが居たなんて聞いた事はないし……本当に見たのね?」

「…………」

「あー悪かったわよ!信じるから!それで?その後どうなったの?」



ユニコは渋々としながらも、昨晩の事を事細かに説明した。



「お姉さん達どうしたんだろう。」



オベリアは朝食を食べ終え、スコールが戻るのを待っていたが、二人は中々帰ってこなかった。

聞き耳を立てようと思ったが、そんな事をする気分でもなかったため、食器を台所に持って行って部屋に戻った。



「お金……少なくなってきたなぁ。」



手持ちのお金を確認して、オベリアは宿を出る支度を始めた。

今日店に売るものを選び、取り出しやすい所に配置する。



「さてと、これで準備完了と…」



荷物整理が終わる頃には街が賑わいはじめていた。

オベリアは荷物を背負い、部屋を出て、下の階に降りる。

街の雰囲気とは裏腹に、広間は閑散としていた。台所に置いた皿は既に洗われて、カウンターではパヴリエルが突っ伏して寝ている。

オベリアはスコールに礼を言おうとしたが、居ないのでは話にならない。

しかたなく店のドアを開けた。



「おぉ、危ない危ない。」



店の前には細く、背の高い男が、今まさにドアに手をかけようとしていた。

オベリアは少しビックリして後ずさった。



「あぁ驚かせてしまって申し訳ない。」



男はさっと身を引いてオベリアに道を開けた。

オベリアは急いで店を出て、西の門に向かった。



「あの容姿……どこかで見かけた気が……いや、今はそれよりも商売道具を早く取りに戻らなければ。」



昨日スコールと出会った広場に来た。違和感があった。兵の数は昨日より多く、その顔もどこか緊張が見受けられた。

ヘンな事に巻き込まれないようにと、オベリアはフードを深く被って道の端を歩いて通り過ぎた。

お久しぶりです。

数ヶ月ぶりの投稿です。

楽しみにして下さっていた方々には本当に申し訳ないです。

これからは月一で1〜2話投稿していくつもりです。

ではまた。(作)ノシ

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