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食中毒  作者: 自遊人
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搾取

オベリアが入った街は武勇で優れた王国の東端で地形が南北に長い。

そのため東西から様々な行商人達が通る事から財政的にも豊かな王国だ。

行商人が通れば当然金と物が動く。そしてそれに目をつけて私腹を肥やす輩も当然存在する。そうすれば必然的に貧しい地区も出てくる。

本当に賢い王が居るならばそれらの対策は施されるはず。



オベリアは街に入って早々に、少しながら違和感を覚えた。街を歩く人々こそ多いが、ほとんどが下を向いて何かブツブツと呟いており、店の人は声を張り上げた後に必ず暗い顔をする。

試しに毛皮を売って得た金で物を買ってやるとその店の店主はとても嬉しそうな顔をする。

オベリアは今日の分の食べ物を買い終えると、せっせと宿を見つけて休む事にした。


「変な街だなぁ。」


オベリアは呟いて、さっき買ったパンを齧る。外はカリッと、中はパサっと、味は申し分ないが水が欲しくなる。

水の代わりにリンゴを齧った。その蜜はすべてパンに吸われてしまったが、噛めば噛むほど味が出るので良しとした。

しばらくその味を楽しんでいると、急に外が騒がしくなりだした。窓から様子を見る限り、酔っ払い同士の喧嘩みたいだ。

その様子を見ていると、門の方から明かりが急いで近づいてきて数人ほど通りに姿を現した。格好から察するに門番にいた兵士達と同じ連中だろう。

すると次の瞬間、野次馬達は蜘蛛の子を散らしたように逃げはじめ、兵士達はその場で喧嘩を続ける連中を腰につけた棍棒で殴りはじめた。

いくら何でもやり過ぎな気がするが、兵士達はその手を止める事なく殴り続けた。

ようやく気が済んだのか兵士達の手が止まった。


「わわっ!」


オベリアは周りをキョロキョロと警戒する兵士と目が合いそうになり、慌てて身をかがめた。

少し間をあけてそろ〜りと通りを覗くと、そこに先ほどの兵士達の姿はなく、ただ血みどろの男数人の裸体が転がっているだけだった。


「この街はやっぱりおかしい。早く出ないと……」


さっきの光景をみた後で、今から移動しようとは思わなかった。明日の朝早くに隣街に移動しよう。そう決めたオベリアは蝋燭の火を消してベッドに潜り込んだ。



**************



「なぁ〜、もう寝ていいか〜?俺もう眠くてしょうがないんだけど。ふぁ〜、街に入ってきた奴の顔覚えるなんてやってられっかよ。」

「黙って手を動かせ。貴様が旧友でなければ今すぐにでも見捨ててるところなんだぞ、感謝の一つでもしたらどうだ?」

「はいはい、天才な女性参謀閣下も殊勝なこって。にしても今の王様になってから、ここも随分と酷い国になったもんだよなぁ。前の方が数倍マシだぜ、ハハハ!」

「おい口を慎め!どういう理由だろうと国王への侮辱は例えお前ほどの武官だろうと重罪だぞ!」

「以後気をつけますぅ〜……ん?なぁ、このちびっ子ってどっかで見た気がすんだけど…何処だっけな〜。」

「さっきから手を動かせと言っているだろう!いい加減にしろ!全く、どうやったらお前みたいな堕落しきった男が佐官に着けるのか……ん?銀髪に翠眼、だと……まさか!」

「あ!おい!お前だけサボりかよぉ!待てってば〜!」


女は執務室から飛び出し、国の歴史が全て纏められた書庫に向かった。



ここスラタメン王国の現国王ヴェン・スラタメンは、前王朝を治めていたカラフィアート家に仕えた元臣下であり、その活躍振りからライムント王の右腕に置かれる程忠実な臣下であったが、裏ではその権力と財産を常に狙っていた。そしてある時国王を突如暗殺し、自分の配下の者以外を全て殺した。

この時身を隠していた、王妃であるマーリア・カラフィアートは神の天啓を授かり、スラタメンに殺される事なく見事にその行方を眩ませた。その後の行方は誰も知らない。

王妃の美しい銀髪と引き込まれるような翠眼に、スラタメンも臣下であった時から惚れ込んでいたが権力と財産を勝ち取り、それには一切の興味がなくなった。


ライムント王とマーリア妃の間には子どもがいなかったのも、反逆が成功に終わった理由の一つでもある。

今のスラタメン王国では、前のカラフィアート王朝時代の商人・農民を助ける政策は全て撤廃され、王族・貴族の暴力・搾取を良しとする圧政が敷かれている。

勿論それに反発しようものなら、即刻打首・火炙り・磔刑……などと惨い死に方を大衆に晒す事になる。

初めこそ抗議する団体がそこら中にいたが『粛清』という名の大虐殺が起きてからは誰一人として反発する者が居なくなった。


しかしある時から民衆の間で『正義』を名乗る集団がいると噂が広まった。その集団、名を『ヘメロカリス』と呼び、民衆からは王妃の子ども達とも呼ばれていた。主導者は7人の魔法使いで日頃表に出せなかった感情を民衆達は此処ぞとばかりに主導者達の下でぶちまけた。その士気の高さから、スラタメン王の耳にもすぐに伝わった。

王はすぐさま警備隊を設立したものの中々その尻尾をつかめないままでいた。王は士気を維持させるためにも主導者をそれぞれ憤怒・傲慢・嫉妬・怠惰・色欲・暴食・強欲と『七つの大罪人』として指名手配し、莫大な懸賞金もかけたが、ヘメロカリスの勢いは衰えるどころか回数を重ねる毎に増してゆき、民衆からは『英雄』と呼ばれたりしていた。


しかしオベリアが来る数週間前に、ヘメロカリスの一人『暴食のスティングレイ』が捕らえられ、宮殿の前に晒し首にされた。

それからヘメロカリスの活動はパタリと止み、民衆達は再び暴力と搾取が支配する絶望色の底なし沼に放り込まれたのだった。

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