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食中毒  作者: 自遊人
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銀髪翠眼

この世界にはやってはいけない事がいくつも存在する。その中でも特に禁忌される事が『7つの大罪』と言われている。

それは『何もしないこと』『浮気・不倫をすること』『他人の所有物を盗むこと』『他人を妬むこと』『他人を無駄に蔑むこと』『暴力によって支配すること』———そして『人を食べること』

これらを破った者は即刻死罪とされるか、国の奴隷として酷使させられる。しかし国の裁判官が認めなければ、禁忌を破ったことにはならない。罪の捏造や擦りつけなんてのは日常的に行われている。『自分にとって損か得か』大事なのはそれだけである。国王の思う通りの政治を行い、気に入らない奴は(買収した)裁判官によって奴隷にする。

そうなってくれば、当然反対勢力が現れる。勿論国側はこれを悪役に仕立て上げ、さも自分達がそれを倒さんとするヒーローを気取る。それを鵜呑みにする飼い慣らされた国民は一緒に悪を討とうとする。

この世界に綺麗な国なんて存在しない。



**************



「ふぅ……あ、手を合わせないと。」


罠にかかった兎の頭に、切れ味の悪いナイフを突き立てて少女は兎肉に手を合わせる。ニコニコしながら川原に向かった少女は、獲物の下処理を手慣れた手つきで淡々と進める。皮を剥ぎ、腹を割いて、不必要な部分は捨てる。下処理を終えた兎肉は皮で作ったポーチに入れて、少女は今の住処に帰った。

少女は今崖の近くにある洞窟に住んでいる。何者かの手によって潰された村の近くで、食べ物に困ることはなかった……この少女が来るまでの話だが。

少女は気の向くままに狩りを続ける。お腹が減ったら食べる。なければ手当たり次第に狩る。

『獲物ならそこらにいる。』少女には感覚で分かってしまう。しかし彼女がそれに近づくとき、獲物はいつも倒れている。まるで供物のようだった。でも死んではいないので、少女が笑顔で殺す。少女に罪悪感など存在しない。『だって苦しそうに倒れていたから、私が楽にしてあげるの。』その程度にしか思っていなかったが、感謝の意を示す事だけはいつからか忘れずに行っていた。

そんな習慣が身に付いたのは……たしか3つ目の村だっただろうか。そこの村人達は皆とても温厚で、争いとはほぼ無縁と言ってもいいくらいだった。ついでに食べ物も美味しかった。私がその村に来たときも、嫌な顔をした人はおらず、歓迎してくれた。しかしその村も突如として壊滅した。少女だけはなぜか無傷だった。家の中に居た筈なのに顔が濡れて目を覚ました、既に家は廃墟と化し、自分は血まみれのベッドから起きた。自分のベッドに倒れかかっている肉塊もあった。人の気配はしなかった。

村人達が消えてしまったのは気になったが、お腹が空いていた少女は目の前の肉を朝ごはんとした。程よく脂がのっていて、丁度良い歯ごたえだったのを覚えている。

そんな調子で少女が行く村は皆等しく潰れ、今に至る。

少女は住処に戻ると衣服を脱ぎ捨てて近くの小さな滝に向かった。汗や土で汚れた体を清めると岩に腰掛けて銀髪を丁寧に洗う。すると鮮やかな体毛と翠眼の小鳥が少女の前に留まった。


「……私と同じ、だけど私はそんなにきれいじゃないわ。」


少女の翠眼に小鳥が映り込む。

少女が細く短い指を伸ばすと、小鳥はそれに留まる事なく何処かへ飛んでいってしまった。

少女はしばらく小鳥が飛んでいった後の虚空を見つめていた。


「私もお空を飛べたらなぁ……。」


ぐ〜……


『そんなことを考えてる暇なんかない』と言いたげにお腹が鳴る。

少女は乾かしていた別の服を着て、さっきの兎の生肉に齧り付く。肉は少し甘かった。


「ここもそろそろお別れかな。」


少女は荷物をまとめると、名残惜しそうに自分の住処を見渡した。


「でも仕方ないよね、ここにはもう食べ物がないから。」


少女の次の目的地はここからそう遠くない大きな街だった。

熊や鹿の皮は街で比較的高く売れる。少女はいつもその金で食べ物と必要最低限の装備を整えている。そして金が尽きるとまた森を旅しながら資金源を得る。そのローテーションがいつの間にか当たり前になっていた。


「この街ではどんな美味しい物が食べられるんだろう。」


道を埋め尽くす程の人がうじゃうじゃ動く事から栄えていることがよく分かる。少女は内心ワクワクしながら崖を下っていく。しかし崖を降りて行くにつれて少女の顔は曇っていった。

門の前にはピカピカの長槍を持った門番が2人居た。チラチラ目配せしながら間を通ろうとすると目の前に槍を突き出された。


「貴様何者だ!名を名乗れ!」

「何の用でここに来た!その荷物は何だ!」


予想通りの展開に少女はため息をついた。いつかの村もこんな門番が丁度2人居た。その時少女はまだ名前を持っていなかったが為に村に入れなかったが、色んな人々に会ううちに自分の名前を考えてみた。今ではそれを自分の名前にしている。


「私の名前はクルフ・オベリア。遥か東の名もない農村から旅をしている者です。そしてこの荷物はその道中狩ってきた食べ物の成れの果てで、決して怪しい物じゃありません。」


少女は荷物を広げ、両手を上げてペラペラと説明した。『この説明をしたのはこれで何度目だろうか。』心中で大きなため息をつく。

門番が訝しげに荷物と少女を交互に見つめる。『中々信じていただけないご様子……それなら』そう思って服を脱ぎ始めると、流石に門番がそれを制止し、通行許可証を押し付けて少女を街に通した。

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