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1話目です

「皆さん、シューマンの歌曲『献呈』を知っていますか?今日の授業はこの献呈を聴いて感想を書いてもらいたいと思います。」


あたし、稲垣詩織!高校2年生!いま、猛烈に、死にたい!

なんでかって言われると理由は簡単よ、「これ以上生きたくない」ってだけ。何の目標も将来もないままここまで親の言うとおりに生きてきたけど、これじゃだめだって分かり始めてきたとき死のうって思ったの。

親が言うには私は今通ってる(そこそこ有名な)音楽高校を卒業して東京の有名音楽大学に入ってピアニストか教師になってもらいたいみたい。そんなの絶対嫌すぎる。イヤー!

めんどくさい。こんなどうでもいい高校の授業なんてもー逃げ出したい。(でもそんなの社会的にむり)

「詩織、大丈夫?なんかぼーっとしてるけど」

「ごめんごめん、考え事。で、いまなんの作業中?」

よく友達にぼーっとしてるって言われる。別にぼーっとしたくてぼーっとしている訳じゃないんだけど...。


結局その日はテキトーに授業して家に帰った。

家に帰ると食器の割れた破片が床に散らばってて、お母さんが何かを叫んでいた。

心臓が痛い。

こういうとき、全身が重くなって無駄に緊張して、動けなくなる。

逃げなきゃ殺される、逃げなきゃ殺される、逃げなきゃ今度こそ殺される!

玄関に立ちつくしたまま、あたしは静かに泣いた。


『ひよこちゃん、こんばんは』

「こんばんは」

『今日はなにをして遊ぼうか』

夜は決まってある人と電話をする。

ある人っていうのは、だいぶ前にヒマつぶしにやってたチャットで知り合った相手。親切で話も合うし、いい人だったからラインを交換して、もう半年くらいこうして電話をしている。

倉橋さんっていう人で、年齢はわからないけど、優しい声をした女の人だ。

本名を言うのはちょっと今の時代まずいかなーって思って、一応「ひよこ」っていう名前で呼んでもらっている。

「今日はしりとりしよう!」

『え~またやるの?ひよこちゃん、しりとり好きだねえ』

「しりとり楽しいよ」

『それならいいんだけど』

毎回とりとめのない話や遊びをして、おやすみを言って電話を切る。

毎日つまらないことだらけの私には、これがとっても楽しみだ。

でもこの人ともお別れしなくちゃならない。

私は死ぬからである!


よし死ぬぞ、と思うとどうやって死のうか色々考えたりするようになった。

練炭?よくわかんないけど炭が必要なのだろうか、スーパーに売ってないから無理だな。首つりとか飛び降りは無理だ、あたしは高所恐怖症。薬はどうだろう、睡眠薬イッキ飲みが一番いいかもしれないな。

と思って調べてみると薬で死ねるのは確立的にめちゃめちゃ低いとのこと。

うう、私を死なせてくれ!


また夜が来た。

カップラーメンを自室に持って、夕飯を食べる。テレビは自分の部屋にはないから無音で麺をすする。音がないってのはいつまでたっても慣れないもんだ。さみしい。

そこでふと、前に授業でやったシューマンの話を思い出した。

「けんてい...けんてい...あった、これだ」

今の時代は便利だから、検索すれば携帯アプリから動画を見ることができる。ぽちっと再生。

聴いた瞬間、流れてくる音楽にとても引き込まれた。あたし外国語はまったくわかんないけど、とっても幸せそうな歌詞だって瞬時に理解した。ピアノ伴奏の盛り上がり、和音の切なさ、なにより最後にアヴェ・マリアを引用していることに衝撃を受けた。

先生言ってた。この曲はシューマンが奥さんに捧げた曲だって。

誰かを想って作られたものってこんなに素敵なんだ。

その日は電話相手の倉橋さんにのその曲の事を話してぐっすり眠った。


その日からあの曲が頭から離れなくなった。歌詞も暗記して、楽譜も取り寄せた。

君は僕の魂、いまとても幸福です。そんな内容の歌詞だった。

それなのに、あたしを想ってくれる人はいないんだって思うと、酸素を吸う力が重くなって、しずらくなって、どんどん猫背になっていく感覚があった。

あたし、なんにもない。

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