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ああ、神様ってのがどれだけ残酷かってことを身に染みて感じた。この熊の体にはものすごく優れた嗅覚が備わっている。いろんな臭いが混在する戦いのあとなんかは最悪だ。血の臭いは勿論。鉄や汗、糞尿からでる臭気を放っていた。
はなの曲がる思いをしながらゴブリンの屍を踏まないようにうまく間に足をいれていく。
勝手ながら可哀想などと思ってしまった。この惨状を作り出したのは記憶がなかったとはいえ自分たちだというのに。
だからせめて早く終わらせてあげよう。残党と思われるゴブリンが数ひき物陰に隠れている。なぜそんなことがわかるかというとこの酷い悪臭のなかでも緊張するゴブリンの臭いがかぎ分けられる鼻があるのだ。
その敏感さのせいでこの悪臭が耐えられないほど苦痛なのだが……
ばっと飛び出してきたゴブリンは棒に刃物をくくりつけた槍を思いきり突いてきた。殺るしかない。そう脳裏に焼き付いている。殺らないと殺られるのはこっちだ。確実に息の根を止める。
前世で学んだことだ。
右に体を少し傾け最小限で突きをよけ、ゴブリンのがら空きになった首もとに食らいつき顎の力で瞬時に首をへし折る。
ボキッとにぶい音と共に絶命した。
口の中に広がる新鮮な血の味は嫌に美味しく感じた。
口を開きいきたえたゴブリンを落とす。
「早く終わらそう」
「はい。兄上」
「了解」
残りの臭いを頼りに狩りつくす。
弱肉強食の世界ではこれが日常なのだという。僕は殺しは好きじゃないが殺されるのはもっと嫌だ。
その場に立っているゴブリンが居なくなった時、一体だけ異様な風貌のゴブリンが前に現れた。その雰囲気はこれまでのものとはかけ離れて違うものだ。まるで怪談話に出てくる鬼そのもの。
腕を組み、こちらを見下すように構える。
「お前らは俺たちの仲間を殺しすぎた。よって、その命であがなえ」
「はっ!笑わせてくれる。たとえ優れたオーガであろうと我々三体とどう戦うのだ」
マークツーは低い声で相手を威嚇する。あちらも鬼の形相だが此方も負けていない。だが、一転してオーガは笑みを濃く浮かべた。
「何をいっている?俺だけだと誰がいった。」
オーガは真っ赤な腕をあげ、後方に隠れていた杖を握った女のホブゴブリンが呪文を詠唱し、一瞬にして幾何学模様の魔方陣が自分たちの立っている地面に出現する。マークツーは魔法など我らには効かないというが、オーガは一笑にふせる。
「貴様に魔法など使わんわ!」
その魔方陣が紫色の光をはなった瞬間、真っ黒な渦が周りに倒れているゴブリンの死体をかこみだした。黒い渦に飲み込まれた死体はまるでアンデッドのように立ち上がったのだ。どれだけの数を殺しただろうか。
その全てが甦った。
「これは、上位魔法!それも高位の魔法……リビングデッド」