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お兄ちゃんは過保護  作者: ねがえり太郎
別視点 再び
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1.田口

別視点のお話を幾つか追加します。

女子マネ1年生、田口視点です。

「今日からマネージャーとして入部してくれた、高坂さんだ」

「よろしくお願いします」


グラウンドで、物見高い野球部員達がゾロゾロ集まっている後ろ、その隙間から門倉先輩が紹介している彼女を見ていた。


「あまり野球には詳しく無いそうだから、何かあったら教えてやってくれ」

「「「あっす」」」


と浮き立ったような、妙に張り切った大きな声が響く。


彼等のヤル気度が、昨日とは全然違う。

何故なら―――新しく入ったマネージャーがトンデモ無い美少女だからだ。




チッと舌打ちが聞こえてヒヤリとした。

2年生の仁見先輩は、手際も良いしマネージャーの仕事はキチンとやっていると思う。卒業してしまった野球部の先輩と付き合っていたと聞いた事がある。私が入部した春頃、仁見先輩は私との作業中はずっと彼氏の話をしていたのだけれど、暫く前から惚気を全く聞かなくなった。何となく上手く行っていないのだと感じた。その頃からだろうか。彼女はまだ2年生だけどレギュラーで活躍している日浦先輩を親し気に構うようになった。


これが恋愛ゲームか。

私はソワソワした。


だって、私は恋愛とは無縁の生活をしているから。何だか仁見先輩から大人っぽい香りと雰囲気が漂って来るとドギマギしてしまう。いや、ドギマギと言うよりヒヤヒヤしてしまう。


どちらかというと私は皆に好かれていると思う。女子にも、男子にも。

小柄で子供っぽい容姿をしていて、野球部員や友達にマスコット扱いされている。でも恋愛対象では……ないんだなぁ。私もそう言う事にまだあまり興味が無い。実は小学校まで野球チームに入っていた。だから野球は大好きだ。だけど……決定的に素養に恵まれていなかった。チームにまるで貢献できない事が嫌になる程分かったので、諦めてマネージャーをやる事にした。偶々通っている中学の野球部はマネージャーを受け入れていたからだ。後から知ったのだけれど、中学校の野球部に女子マネって珍しいらしい。

純粋に野球が好きで部活に入ったので、部活内で彼氏を作るなんて発想を持っている仁見先輩はまるで私と違う国に生きている人のように感じてしまう。


だけど仁見先輩は私の事を気に入っているみたい。

何故かというと『ライバル』に成り得ないから。


仁見先輩は早熟と言うか……自分の対抗馬になりそうな女の子に厳しい。だから去年はもう1人同じ学年の女子マネがいたそうなんだけど、何でも仁見先輩と揉めて途中でやめてしまったらしい。その人は優しい人で部員達に人気があったんだって。だけどちょっと気が弱くて仁見先輩の圧力に耐えられなかったらしい。

喜んで良いのか分からないが、仁見先輩にライバル認定されないマスコットな私は、そういう圧力を受けずに済んでいる。部活は続けたいので、その立ち位置には取りあえず満足している所。




けれども新しく入ったマネージャーは。


とーっても、とーってもキレイだった。

スッピンなのに、肌はツルツルほっぺはバラ色。長い髪も艶々で。


仁見先輩も美人だけど、かなり気を使って色々作り上げている部分がある。しかし素材の良い新鮮な極上のマグロが―――美味しいソースをかけた凝った一皿を凌駕するみたいに、天然美少女の魅力はあっさりと野球部員の視線を奪ってしまった。

あ、ちなみに3年生の女子マネの先輩達は性格も良くてキップも良くて、魅力的な人です。仁見先輩は盲目なのでは無く立ち位置を図れる人なので、美人さんでも先輩には突っかからないようにしているらしい。だから今まで平和だった。


美少女に見惚れていた私の頭は、仁見先輩の舌打ちでサァッと冷えた。

何だか暗雲が立ち込めている。私はどういう身の振り方をするべきか―――嵐の前の静けさの中で考えが纏まらず、ビクビクしていたのだった。




案の定、仁見先輩は必要最低限の事しか、高坂先輩に伝えないし話し掛けない。

飲み物を作る時もぶっきらぼうに通り一辺倒の説明をしたあと放置。移動中も私にばかり話しかけて来る。私は後ろでトボトボ、荷物を持って歩いている高坂先輩が気になってしょうがなかった。

でも下手に話しかけて、仁見先輩の反感を買うのも怖い。


ああ、でも……この重ーいギクシャクした空気。耐えられないよう……!







その後仁見さんの指示で、私と高坂先輩の2人で備品の手入れをする事になった。

どうしよう?何か話しかけてみようか?えーと……「仁見先輩、日浦先輩の事狙っているんですよね!」ってコレはマズイよな。「どうして野球部入ったんですか?」って、何だか詮索しているみたいだな……「仕事慣れました?」って今日始めたばっかで慣れる筈ないでしょう……!


何か話し掛けようと心の中でグルグルしていた時、顔を上げるとジッと私を見つめているつぶらな瞳と目が合った。


「うっ……」


雷が当たったように、動けなくなる。

近くにいるのが耐えられないような、逃げ出したくなるようなカワイ子ちゃんだ……!

私の胸はドキドキと早鐘を打った。

その桜色のプルンとした健康的な唇が開くのを、食い入るように見つめてしまう。その美しい唇から言葉が零れ落ちたのを、夢の中にいるような気持ちでボンヤリと聞いていた。


「この布……使っていいのかな?」


な、なんと可愛らしい声……!

私はズキュン!と撃ち抜かれた。

違うっこれわっ……私は恋とかそう言うのは経験した事はないけれども、女の子が好きとかそう言うのじゃなくて……!


私の中で言い訳が渦巻いた。

ドキドキする胸を抑えて―――私は喘ぐように返事をした。


「―――はい……」


ニコリと寂し気に微笑む笑顔の儚げなこと。

私はそれ以上何も口にする事ができなかった。




仁見先輩すげえ、単純にそう思った。




私は高坂先輩の一言で、簡単にその足元に屈服してしまった。対抗心を持てるなんて―――仁見先輩も相当大物だなぁ……なんて、呑気な賞賛がその時私の中に生まれたのだった。




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