47.幼馴染の気持ち 2
私達は再び腰を下ろした。
と言っても今度はラグの上に、丸いテーブルを挟んで向かい合って……なんだけど。
温かいミルクを勇気の前に、ココアを私の方に置いてひとまずコクリと飲み込んだ。
トロリと口の中に入り込んだコクのある甘さに、思わず目を閉じる。
う~ん、やはりこのココアを丁寧に練る過程を省かない……お母さんが手を掛けてくれたココアは格別だあ……!
と、思わず深い味わいに脳内で小旅行に旅立ってしまったが―――コトリと、勇気が一口飲んだマグカップをテーブルの上に置いた音で我に返る。
神妙な顔で胡坐を掻いた膝の上に手を置いて自ら置いたカップをじっと見つめて、それから視線を上げて私を真正面から見た。
……パチリと。視線が合った音がしたような気がした。静電気みたいに。
私はビクリと肩を震わせてから、諦めてマグカップをテーブルに置いたのだ。
『分かれよ!俺が1番大事にしている奴だ誰なのか……分かっているだろ?』
勇気が大事にしている人、それは。
「あの、ね?勇気……勇気が大事にしている人って、その」
「……」
「……お母さん?」
ゴンっ!
とテーブルに勇気が頭をぶつけた。
ミルクとココアがパシャリと跳ねて零れてしまった……!
「わわ……っ、ティッシュ、ティッシュ!」
私がティッシュの箱を慌てて引き寄せテーブルを拭いていると、その手首がガシリと握り込まれた。……またこのパターン??顔を上げると怖い顔をした勇気が。
え、零しておいて?それを親切に拭いている幼馴染に向かってする表情じゃないんですけど……。
「お前だろが」
「え……零したのは勇気……」
「違う!」
え、違わないですけど……。
「大事なのは、お前だ。凛」
「へ……」
「俺が好きなのは凛、鈴木でも蓉子さんでもない」
「え……」
えええ……っ!
「何、今さら驚いた顔してるんだよ」
「だ、だって……」
驚いたよ、驚いた。だって……
「高い遊具の上に放置されたし、滑り台で無理矢理押したりされたし……大事にされてなんか無いよ」
「いつの話をしているんだ」
最初に会った小学生の頃の話だよ。
月寒公園には子供が遊べる遊具がたくさん設置されている『森の遊び場』って場所があるんだけど、私は隣に越して来たばかりの勇気をそこへ連れて行った。そしたら、嫌だと言うのに高い遊具に無理やり連れて行かれて、置いてけぼりにされ泣いてしまった。すると暫くして戻って来た勇気は40メートルの長さがあると言うロング滑り台の上で高さに慣れろと引っ張って行き『やっぱ慣れだよな』なんて言って、震えている私の後ろから体当たりして来たのだ。勇気と一緒に物凄い勢いで落ちた滑り台が怖くて、結局私は更に泣き喚き、引っ越して来たばかりの勇気を置き去りにして走って帰ったのだ。
あ、今思うと私もヒドイな。
「それに頭グリグリするし」
「撫でてるって言え」
「扱いが雑だよ、他の女の子には優しいのに」
「お前、俺の交友関係にそんなに関心あったっけ?別に優しくなんてしていない、ちゃんと距離を取っているだけだ」
そうなの?!
「だって、私勇気の好みと違う……」
「は?何だ?俺の好みって……」
「トラクエの『ププリポ』大好きじゃん!私あんなに小柄じゃない。どっちかって言うと女子マネ1年の田口さんの方がドストライクじゃない??」
そうなんだ、田口さんって何かに似てると思ったら、RPGゲーム『トラクエ』の2頭身キャラ、可愛らしい『ププリポ』に似ているんだ……!見た目で言ったら、きっと勇気のドストライクな筈!だって勇気、ププリポ大好きだもん!
「お、ま、えは~~」
「ぎゃっ!いったー!」
頭を思いっきりグリグリされた。
いたたた。髪の毛もぐっちゃぐちゃだっ!
「な、なにすんの!」
頭を抱えて、思いっきり体を引き勇気を睨みつけた。
すると勇気がフンッと腕組みをしてふんぞり返り―――私を睨みつけた。
「―――『大事』にしてやったんだろ!」
はああ?!
勇気の『大事にする』って、謎。
全く意味わかんない……!




