38.幼馴染の態度 3
「今日からマネージャーとして入部してくれた、高坂さんだ」
「よろしくお願いします」
グラウンドで、練習用のユニフォームを身に着けた野球部員達がゾロゾロ集まっている前で、門倉先輩に紹介して貰った。
「あまり野球には詳しく無いそうだから、何かあったら教えてやってくれ」
門倉先輩がそう言うと、「「「あっす」」」と大きな声で返事が返って来た。
その中で勇気だけが、ソッポを向いてむっつりと押し黙っているのが目に入った。
恐れていた通り、あの女子マネ、仁見さんが私に仕事を教える担当になってしまった。
1年生の小柄な田口さんと一緒に、彼女の後ろに付いて歩く。
飲み物の準備の仕方を習った。大きなボトルに袋に入った粉を入れて水道水を入れる。結構な重量感でついつい足元がよろめいてしまう。
田口さんと仁見さんは気安い様子で何か分からない話をしている。私はその話を聞いていたけど、割って入る事もできずトボトボと後に続いた。
それから備品の手入れをするように言われ、田口さんと2人、一緒にボールを磨いた。
ひどく居心地が悪い。
仁見さんならここで話を弾ませる事が出来るんだろうな……と思い、ションボリしてしまう。自分の事を嫌いな人が、ちゃんとしていて周りに受け入れられているって状況を目の当たりにすると―――何だか自分が駄目な奴だって言われているような気分になってしまう。お兄ちゃんに言ったら「ぜったい、考えすぎ!」ってまた言われそうだな。
その日はずっと備品の手入れをして、過ごした。私が田口さんに話しかけられたのなんて「この布使っていいのかな?」の一言だけ。彼女も「はい」と頷いただけで俯いてしまい、その後会話は続かなかった。……泣きたくなった。
部活の最後はボール拾いを手伝ったり、備品の後片付けをした。
単純作業が何だかゲームみたい。思わず夢中になってしまって、フェンスの際まで行ってしまったらもう周りに人がいなくなってて慌てた。ボールをたくさん抱えたまま焦って走ったら、腕の中からボールが飛び出し、コロコロ転がって行ってしまう。3方向に転がったボールのひとつを追いかけて戻って来ると、勇気が他のボール2つを拾って回収してくれていた。
「ありがと、勇気」
怖い顔をしたまま大きな手でボールを持っている勇気に、お礼を言った。
そしたら無言で、勇気は私の腕の中から幾つかボールを奪っていった。
気持ちが収まらないのか―――勇気は表情を変えないまま、低い声でポツリと呟いた。
「持ち過ぎ。また落とすぞ」
「……うん」
何となく、ホッとした。
同じ部活なのに口をきかないままなのは、苦しい。
だって私が気兼ねなく話せるのって、この場所では勇気しかいないから。




