35.幼馴染と友人 2
お兄ちゃんはソファに座るように私を誘導すると、隣に腰掛けて肩を抱いてくれた。
悲しい事があった時、小さい頃は向かい合わせにお兄ちゃんの膝に乗ってギュッて抱き着いて、荒ぶる感情が収まるまでお兄ちゃんに慰めて貰った。お陰でお兄ちゃんのシャツが何枚私の涙と鼻水の犠牲となった事か……。
今は体も大きくなったし、中2にもなって……と自主規制している。でもやっぱり体が触れ合っている面積が大きい方が安心するだろうなぁ、って何となく想像する。だから空いているお兄ちゃんの手を探って両手でギュッと掴んだ。
「あのね、あの……最近思うんだけど。澪と勇気って……その、お互い意識し合っているんじゃないかと思うんだ」
もう隠してもしょうがないと腹を括った私は、自分を励まして口を開く。すると、お兄ちゃんからは何故か即答が返って来た。
「それは無いんじゃないか」
「でも、何かね。2人は時々通じ合っていると言うか……私の分からない会話を目でしているような、何か了解し合っているような時があるの」
そうなんだ。
そもそも2人の間の分かり合った空気、それを目にして私はその理由に行き付いたんだ。だってそれ以外、性質も違う趣味も合わない2人が意気投合する理由が思い付かなかったから。
「あのね、澪ちゃんと勇気の間にそういう感情が無いって言うのは一目で分かるよ?少なくとも2人の間に恋愛感情みたいなものは、存在し無い」
お兄ちゃんはやけにキッパリと言い切った。
確かに恋愛経験豊富で女性から常にアプローチを受けている、モテモテのお兄ちゃんがそう言うなら、そうなのかもしれない。少なくともそう言う話題に疎い私よりはずっと冷静に物事を判断できるだろう。でも私の心配しているのは―――正確には2人が付き合ったり、恋人同士になる事自体じゃないんだ。その結果自分が置いて行かれる未来を恐れているのだから。
「お兄ちゃんがそう言うなら―――そうなのかもしれないね。澪と勇気はお互い恋愛で好きって言う訳じゃないのかも。だけどさ、今2人の間には何もなくても……澪の進学する高校に、きっと私は入れないから1年とちょっとで学校で一緒にいられなくなるでしょう?勇気とはもしかしたら同じ高校に行けるかもしれない。だけど部活も忙しくなるだろうし、彼女が出来るかもしれない。そうなると、私の事なんか構ってられなくなるでしょう?今まで通りには行かなくなる。私……それが寂しいんだ」
「勇気に彼女なんか出来る訳無い」
お兄ちゃんが、何故か当り前のように言い切った。
確かにお兄ちゃんと勇気は違う。女の人が勇気を一目見ただけでポーッとなるなんて事は無いかもしれない。
「勇気ね、結構学校でモテるんだよ?……勿論お兄ちゃんほどじゃ無いかもしれないけど」
「モテるかどうかなんて関係無いだろ?勇気が凜の傍を離れるなんて事、絶対無いんだから。だから凛は余計な心配なんかしなくて良いんだよ」
お兄ちゃんが更にキッパリと言う。
何故そんな風に言い切れるんだろう?
私がそう疑問を抱いた時、お兄ちゃんは答え合わせのようにこう言ったのだ。
「アイツは凛の護衛役なんだから」
「え?」
お兄ちゃんの言葉の意味が分からず、私は思わず聞き返した。
「何それ?」
するとお兄ちゃんは何でも無い事のようにこう言った。
「凛に悪い虫が付かないようちゃんと見守るって、勇気は俺と約束したから」
「……」
ええ?!
じゃあ、勇気が私と一緒にいるのって―――もしかしてお兄ちゃんからそう命令されたからだったって言うの??




