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お兄ちゃんは過保護  作者: ねがえり太郎
お兄ちゃんはやっぱり過保護
32/62

32.お兄ちゃんと私 4



マネージャーをやると決めた訳では無いけれど……勇気にああ言った手前、やらなきゃならないような気がして来た。


勇気の学校での態度が変わってから、勇気の周りの人達と関わる事が多くなった。

中崎君やあの女子マネや……それから勇気の男友達、勇気に興味を持つ女の子。それから私が澪としか口をきかないと決めている―――と、誤解していたクラスメイトが徐々に声を掛けて来るようになった。

その中には優しい口調も、厳しい口調も、何かを隠し持った口調も、楽し気な口調も色々混じっていて―――小心者の私は内心ビクビクしながら、それらに応答している。


だから最近、学校では気持ちが落ち着かない。

何処か人目の付かない場所に隠れたくて仕方が無くなって来る事もある。


でもその状況にはきっと慣れて行かなきゃならないんだ。だって私の学力じゃ、絶対澪と一緒の高校には行けない。勇気だって高校に進学すれば益々忙しくなって、私の事に構っていられないだろう。同じ高校に入れればまだ良いけど―――違う高校に通う可能性の方が大きんじゃないだろうか。


分かっているんだけどな。


そしてやっとそれを実感し始めている。

だから部活を始めると言うのは―――自立して成長するための、良い切っ掛けになるかもしれない。




「ただなぁ……あの女子マネがいるからなぁ」




3年生が卒業した後の事を考えると、やっぱり無理だと思い直す。

勇気にタンカを切ってしまったけど―――あの子と仲良くやれる想像が全然出来ないや。

私はテレビに向かい番組を変えようとリモコンを構えながら、大きく溜息を吐いた。


「やっぱ、私には無理だよ。あーあ、そしたら勇気、きっと『ほら見ろ』って言うだろうなぁ……」


「何が無理だって?」

「ひゃっ?!」


耳元で声がして、私は椅子から飛び上がった。あ、実際はビクッとしただけで私の中のイメージとして『飛び上がった』って思えただけだけどね。

振り返ると私がダラリと寄り掛かっているソファの背に、肘を曲げた腕を預け、私の顔を覗き込んでいるお兄ちゃんがいた。


「お……にいちゃん。お帰りなさい」

「ただいま。惣菜買って来たよ」

「……ありがとう」


ニコリと柔らかく笑うお兄ちゃんにつられて、私もほんのり笑顔になった。







今日は土曜日。お母さんはお父さんの仕事(?)のお付き合いでお出掛け中。帰るのはもしかすると明日になるかもって言ってた。代わりにお兄ちゃんが用事を切り上げて夕食を買って帰って来てくれる。

「1人でも大丈夫だよー」って私は胸を張って宣言したし、そう言ったのは本気も本気、だったんだけど―――お兄ちゃんが帰って来てくれると言ってくれて、内心ホッとしていた。やっぱり1人は寂しい。特に勇気と気まずくなって、更に不安な気持ちが胸に渦を巻いてしまっているような……こんな夜は。




「手羽先餃子、久し振り~!」




お兄ちゃんはどうしてこうも、私の心に真っすぐ届く美味しいものを把握しているのだろう?今日お兄ちゃんが買って来てくれたのは、デパ地下で売っている手羽先餃子と一口餃子。手羽先餃子はレンチン。大きなシジミの身みたいな形の一口餃子はフライパンに目いっぱい30個くらい、ばーっと並べて水を入れて中火で5分。


手羽先餃子はプリップリ、一口餃子はパリッパリに仕上がった。


「一口餃子も美味し~!」


お行儀は悪いのかもしれないけれど、美味しいものを目の前にするとどうしても褒めたたえながら食べずにいられない。そんでガツガツ夢中で口に運んでしまう。あ、あくまで『ガツガツ』って言うのも、いわゆるイメージですよ?一応それなりに『女の子らしさ』からはみ出ない範囲でガッつくよう心掛けておりますの、ホホホ。


お兄ちゃんがニコニコしながら、そんな私を見ている。

ヤケになって自虐的になって傷ついた心に、包み込むような温かい優しさが沁み渡った。




……成長しなきゃと悩み始めた傍から。

ああ!これじゃ自立も兄離れも―――全然出来る気しないよ~!!



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