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お兄ちゃんは過保護  作者: ねがえり太郎
お兄ちゃんはやっぱり過保護
26/62

26.試合の後で


勇気は宣言通りあの後も活躍した。だからと言う訳じゃないけれど、試合が終わった後私は勇気が片付けを終えるのを待つ事にした。

最後まで試合を見たのは、勇気との約束と言うよりは試合が単純に面白かったからだ。これまではルールも作戦も何も把握していなかったから、見ていても正直あまり面白く無かった。打ったか打たないか、ホームを踏んだか踏めなかったかしか見るべき所が無かったのだが、澪が「まだ勉強中だから詳しくないんだけど」と言いつつ初歩的な事を説明してくれたので、違った視点で試合を観戦する事が出来たのだ。


練習試合は中学校に隣接している月寒公園の球場で行われていた。澪は公園に面した住宅街に家があって、3分も掛からず帰宅する事ができる。だけど試合の片付けなど勇気の用事が終わるまで、私と芝生の上に敷いたブランケットに座って一緒に待っててくれた。


「お待たせー」


大きなエナメルバッグを担いだ勇気が現れたので、澪と私は立ち上がりブランケットをクルクル巻いて付属のバンドで止めた。こうするとバッグみたいになって持ち運びが楽なのだ。


「日浦君、大活躍だったわね。ね、凛」


私はコクリと同意の意味で頷いた。次の次の打席で勇気は塁にも出て、足を活かして盗塁もしていた。


「まーバント職人に徹しちゃったけどね」

「ファインプレーもあったし、守りも堅かったよね。いろいろ勉強になったわ」

「そりゃ、どーも」


普段は無口無表情な澪だが、ハマっている物について語る時、表情はあまり変わらないものの少々饒舌になるのだ。どうやら試合も楽しめたらしい。しかし言いたいコトを全て言い終わったのか、すぐに普段の様子を取り戻し用事は終わったとばかりにサラリと「じゃあ、私帰るね」と言ってその場を立ち去ろうとした。


すると言い終えるか言い終えないかの所で「日浦!」と女子マネージャーが、後ろから声を被せて来た。


「皆で帰りに『せいちゃん』行くって」

「いや、俺もう帰るから……」


すると女子マネの後ろから、中崎君が顔を出し勇気に絡んできた。


「帰んのかよ~、ミーティング兼用なんだから出ろよ」


なるほど、中崎君の言う通りだ。ミーティングがあるなら、出なきゃ駄目だろう。もともと1人で帰るつもりだった私はそう思い、勇気に耳打ちした。


「じゃあ私、帰るから」


そう言って後退あとずさろうとした時、ガっと手首を掴まれて勇気に阻止された。

……しかし、最近このパターン多いな。

私は真面目くさって、勇気に訴える。


「ミーティングでしょ?出た方がいいって」


しかし勇気は譲らない。


「一緒に帰る約束だろ」


中崎君はそれを見て何故か面白そうに目を見開き、眉を上げた。

その隣で眉を寄せて女子マネが、不機嫌を露わにする。


あっ私のせいじゃないのに、睨まれた!離せ~勇気!このっ!


私は何とか勇気の拘束を逃れようと、手首をねじってみたり、フルフル振ってみたりした。


「二人とも一緒にくればいーじゃん」


中崎君が無邪気にニッコリと笑う。


「私パス」


澪が眼鏡のツルに手を当て、ズバッと言う。太陽の光が当たってキラリと眼鏡が反射した。


「私も……」

「何してんだ?」


澪に続いて断りの言葉を述べようとした時、勇気よりも体の大きい上級生らしい人が歩み寄って来て、覗き込むように私達の会話に入り込んだ。すると女子マネの人が、別人のようにニコリと笑ってそのセンパイ向かって言ったのだ。


「日浦が応援に来た女の子に送って欲しいって言われたから、『青ちゃん』行けないって言うんですよ」


え!私そんな事言ってない!


驚く私の横で勇気が誤解を訂正しようと口を開いた時、上級生がニッコリと笑って先手を打った。


「何だ、そんな事か。一緒にその子達も来ればいいじゃないか」


上級生に言われると勇気も弱いらしい。これが体育会系の力関係というヤツだろうか?

澪は我関せずと、バッサリ雰囲気をぶった切って帰ったけど―――結局私は、勇気に連れられるような形で、何故か『青ちゃん』と言うラーメン屋に一緒に行く事になってしまったのだった。



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