18.私の気持ち
お母さん特製の豆乳レアチーズケーキは絶品だ。
だけど上の空で作業していたから、何だかすごく時間が掛かってしまった。
かなりの時間、2人をほったらかしてしまった。
しかも妙な空気を残したまま。
宿題は終わっただろうか?終わっていたら―――2人は何をしているだろう?
そう言えばお兄ちゃんが怒った状況と、今の状況はまるでそっくりだと言う事に気が付いた。
いや、家に私もお母さんもいるからピッタリ同じと言う訳では無いのだが……
部屋に私と同い年の男女が2人切りで籠っている。
おまけに澪は飛び切り綺麗な女の子だ。
勇気も人気のある男子で。
2人は親し気で通じ合っていて―――あれ?これって恋愛に発展してもおかしくない状況じゃない??
これは危ない……かもしれない。
どうしよう……扉を開けたら、2人がキスとかしていたら。
いや、ノックをすれば良いよね?
そうすれば最悪の状況は免れる。
『最悪?』澪と勇気がイチャイチャしている所が?
いや、悪いって訳じゃなくて―――2人とも私の大切な友達で。だけど何だかモヤモヤするのは……2人がお互いに特別な相手になったら。
私ってお邪魔虫じゃない??
そしたら私のいない所で2人で会ったりするようになっちゃうの??
そんな想像が私の胸を締め付けた。
寂しさやら、孤独感やら―――それ以外の訳の分からないモヤモヤした黒い気持ちが私の足首を掴んで離さない。私は自分の部屋だと言うのに、その扉の前でお盆を持ったまま動けなくなってしまった。
ガチャリ。
すると目の前の扉が突然開いて、勇気がヌッと顔を出した。
ビッックウ!と私の肩も跳ねたが、そこに私が立ち竦んでいると思っていなかったらしい勇気も「わっ!」と叫んだ。暫くお互いドキドキする心臓を静めながら睨み合う。すると先に平静を取り戻した勇気が、再び口を開いた。
「何してんの」
「えっと、オヤツを……」
「お!これ蓉子さんが作ったヤツだな?やったこれ大好き……って、突っ立ってないで中入れよ」
そう言って勇気は私の手からお盆を奪った。
「えっと……いいの?」
お邪魔じゃ……ない?
「何言ってんだ?」
勇気は首を捻って、私の言葉をサラリと流し部屋に戻った。
私は何となく肩を落として、その後に続く。
「オヤツ食べたかったらしいよ」
「そうなんだ。まだタップリ残っているに『飲み物貰って来る』って言って戻らないから、どうしたのかと思ったよ。お腹空いてたんだね」
ホッとしたように、胸に手をあて微笑む澪はとっても美しい。
これは惚れる。勇気じゃなくても。
だって、今私も惚れた。ズッキュンって胸が高鳴ったもの。
「う、うん……そう」
「食べよーぜ。俺、宿題終わったし。終わってないの凜だけだからな」
揶揄うように言う勇気に私は「なにおうっ!」と形だけ反抗して見せる。アハハと笑う勇気にドキリとした。
あれ?
勇気ってこんなだったっけ??
何だかスッゴく『男子』だな。と思った。
スラリとした澪と並ぶと、体格の良さが際立つ気がする。
いつも見ているのに、気が付かなかった。
2人はすごくお似合いの男女だった。
私は途端に気持ちが萎んでしまって、上げた拳をフラリと下ろした。
「凛?なんかさっきから変だぞ?」
勇気が私を覗き込む。私は何だか泣きそうになったけど、首を振って笑った。
「お腹空いちゃって!宿題は後回しっ、早く食べよ!」
精一杯ニコリと笑って丸テーブルの前に腰を下ろしたのだった。