僕に勇気をください
始まりがあれば、必ず終わりが来る。そんな常套句にうんざりする。だったら変えてしまおう。始まっても終わりのない世界。でもそしたらきっと、どこでいつ始まったかなんてわからないんだろうな。なぜかわからない、いつ、どこで始まったかもわからない、唯一わかることは、ただその空間だけが存在しているということ。あの空のように。
僕の通うことになった高校には、中学の友達が誰一人といなかった。新たな学校生活。新しい環境。穏やかな暮らしを願った。もう二度と辛いことを目にしたくないんだ。何もかもなかったことにしたいんだ。どんなに願ったってできないかもしれないけれど。
クラスが決まり、周りが友達を作って仲良くしている中で、僕は馴染めずにいた。そこで友達の必要性について考えてみた。友達がいることのメリットは話し相手がいること。人脈が広がること。デメリットは相手の話が興味の持てないものでも、聞いているふりをしなきゃいけないということ。自分ひとりで過ごせる時間が少なくなること。特に話したいことがないのに、無理やり話さなければならないこと。沈黙が気まずいという証拠となること。ほらね、特にいいことがないだろう。
孤独とは物事を深く考えるチャンス。友達が多いことは必ずしも幸せではない。
こんなことを言っている人もいるぐらいだ。別に友達がいないことぐらいで特別困ることなんて、ないだろう。それなのに妙に哀しく思えるのは、自分の意志が弱いからだろうか。
教室にいるのが決まり悪くて、教室を出た。一番上の階には大きな窓があって、そこから外を眺めた。何も考えたくなかった。ただ空が青いなと、それだけしか頭の中にないようにしたかった。
青い空になりたい。綺麗な空になりたい。
トントンと肩を不意に叩かれた。
「何してたの。」
いや別にと応えると、そうと突然現れた女の子は言い、同じように空を眺めた。何事もなかったかのように、穏やかな時間が過ぎる。ちらちらと女の子を見たけれど、帰る様子はなかった。
僕は一人になりたかった。僕に用事があるわけでもないなら帰って欲しかった。仕方がないから僕が帰ろうと思い、窓から離れる。
「ねえ。」
一体何なのだと思いながらも、女の子の方へ振り返る。
「もし、愛する人が一緒に死んでって言ったら、死ねるの。」
何か企んでいるような目で、含み笑いをしてくる。
怖い。
逃げたい。
でもどこか懐かしいような気がした。どこで体験したのかわからない。あやふやなこの空気感を僕は知っていた。だからこそ同類だと感じた。
それが僕の××に対する第一印象だった。
「ねえねえ。」
振り向くと、三人の女子がいた。
「君、今日××さんと会ったかな。」
「××さんって一体誰なんだ。」
「えっと…。髪が短くってストレートで…。」
「うーん。ちょっと怖そうだけど本当はすっごく優しくて。」
僕に声をかけておきながら、そのことで女子二人は盛り上がる。どうしていいかわからず、だからといって立ち去るわけにはいかないので、そのまま突っ立っていることにした。
「あっほらあの子。」
その時、僕は初めて彼女の名前を知った。
「ああ、会ったよ。」
しかし、この女子達の意図がわからない。僕は別にかっこいいわけでもなく、どちらかというと弱々しそうなイメージしか浮かばないような顔だ。勉強もスポーツもこれといってできるわけではない。なぜ僕に用があるのか。
「もし、愛する人が一緒に死んでって言ったら死ねるのって聞かれなかったかな。」
あまりの衝撃で思わずビクッとなった。なぜこの女子はそのことを知っているのだ。あの××って奴は片っ端からそんなことを聞いているのか。聞かれたことが僕だけじゃないということに安堵した。
「言われたよ。」
「ちゃんと返事したの。」
さっきの言葉を暗唱した女子はそう尋ねた。僕はああと小さな声で言い、頷いた。
「なら良かった。それでいいんだ。突然そんなことを言われてびっくりしたと思う。気にしないでいいから。あの子はいつも自分が出会ったことのない人にそうやって尋ねるの。この学校は割と中学校の時の同級生が多いからね。君は見たことがないから、××さんが話しかけたんじゃないかなって思ったの。悪気はないし、特に深い意味はないんだと思う。いい子だから気にしないで。」
そう言って離れていった。
どうでもいい。僕の事情を彼女が知らないように、僕は彼女の事情を知らないし、考慮する気もなかった。どうせただのクラスメートだ。これから先、そう大して関わらないだろう。騒々しい群衆の中、穏やかに過ごしていきたいと心から願った。