群青色
最初の課題を終えてから、すでに三日経っていた。あれから謎の女からの課題は届いていない。彼女の目的はわからないし、そもそも誰なのかもわからないから、こちらから何か質問することもできない。
相変わらずの日常で、来る日も来る日も退屈だと思う。ただ空の色だけは同じ色を見せることがなく、どれも美しさを秘めていて、放課後に一人で一番上の階の窓から眺めることは面白いとは思わなかったけれど、飽きはしなかった。
ただ空を見上げれば"キミ"のことがわかるかもしれないって。
"キミ"に会えるかもしれないって。
"キミ"がいなくなってから、すでに一ヶ月が経とうとしていた。クラスはもう彼がいたかどうかきっと定かではないだろう。彼はこのクラスの中心人物ではなかったけれど、いつも誰かといて、よく話していた。少なくとも私のように一匹狼ではなかった。うまくこのクラスに、この共同体に、社会に、馴染んでいたと思う。そんな人でも消えてゆく。こうやって誰かに意識して覚えてもらわなければ、他人の記憶には確かに存在しないし、意識しても脳の容量に置いておける過去の量は時が経つたびに減ってゆく。きっと忘れたことも多くあるだろう。
だとしたら、私が死んだ時に残るものは何だろう。空っぽの容器の私は、幽霊の私は何も残らない。だったらもし死ぬなら溶けて消えてなくなりたい。小さな光の粒子になって、天に向かっていくみたいに。誰の記憶にも残らず、はじめから私みたいな人がいなかったというように。
けれども私はそれが夢物語であることを知っている。なぜなら"キミ"はそうならなかったから。
教室に戻って帰る支度をすると、机の中から手紙が出てきた。例の謎の女からである。前回とは違って、今回は課題だけが記されていた。課題内容は弁当を複数人、同じメンバーで一週間食べることだった。
くだらない。誰かと一緒に弁当を食べなきゃいけないなんて。席を動かなきゃいけないし、一人で別にいいのに。
ため息をつくしかなかった。
次の日、れいなに手紙が届いたことを報告した。れいなと話すようになったとはいえ、れいなには友達がいるし、基本的には普段その子たちといるから話すことはない。目があったら挨拶を交わす程度である。あとは謎の女からの連絡があれば報告するだけ。
登校してきたれいなに紙を見せた。おはようと挨拶をして、驚く様子もなくすぐに手紙を見る。
「弁当を一緒に食べる、か。確かに××は普段一人で食べてるね。で、誰と食べるつもりなの。」
「さあ。その辺にいた人。」
「さあって。特に誰か決めてたわけじゃないの。」
「だって誰でもいいし、動きたくないし。」
「そっか。」
呆れ口調のれいなはため息をついた。
「じゃあ××が誰と食べるか楽しみにしてるわ。」
「だからその辺にいる人だって。ほら確か近くに集団でごはん食べている人たちいたでしょ。」
「えっもしかしてその集団と食べようとしてるの。」
ずっとれいなは座っていたのに、突然ばんっと机を叩いて立ち上がった。
「そうだけど。」
一体何のことだかわからない。クラスにそんな問題児の集団なんかあっただろうか。
「だって男子だよ。」
「へえ、そうなんだ。」
「いや、そうなんだじゃないよ。本気であそことご飯食べようとしてるの。」
「うん。」
「あのねえ…。」
また彼女は呆れる。そんな呆れるようなことを言っただろうか。ただ一緒に食べるだけなのだ。
「そんなことしたら浮くに決まってるでしょ。」
「なんでだよ。」
「男子だからじゃん。突然男子だけのグループに女子が入ってきたら何こいつってなるでしょ。」