プロローグ。または、この世界について。
昔々よりもさらにずーっと昔の、あるところに、たくさんの人間とたくさんのドラゴンが住んでいる世界がありました。
人間というのは二本足で歩き、二つの手でものをつかむ生き物。そして、比較的温厚な生き物でした。
ドラゴンは大きな角を持っていて、ついでに言えば大きな牙とか大きな双翼とかもあるのですけれど、とにかく人間とは違って獰猛な生き物でした。好物は人間の肉でした。
さて、そんな世界にとある人間の村がありました。かつて人間の村はたくさんあったのですが、獰猛なドラゴンたちに食い荒らされて滅ぼされ、ほとんどなくなってしまったのでした。
人間たちは自分たちが生き残る方法を考え、話し合いました。
「ドラゴンをどうやって殺したらいい?」
「我々は弱く、残念ながらとてもドラゴンに勝つことはできまい。数十人で一匹を倒すので精いっぱいじゃないか」
「どうしたら良いんだ。このままでは我々はおしまいだ」
人間たちは来る日も来る日も話し合いました。
「そうだ」
あるとき、人間の一人がひらめきました。
「我々はドラゴンより力も弱ければ体も小さい。脆弱で未完成な生物だ。しかし、我々はドラゴンより知恵がある。我々はドラゴンより技術がある。それを使えば良い。それを使って、我々はドラゴンを超える存在になれば良い」
まず、人間たちはドラゴンを超える存在になるためにドラゴンをもっとよく知ることにしました。討伐隊を組んでどうにかこうにかバカなドラゴンを一匹捕らえ、監禁し様々な実験を繰り返したのでした。そして、ドラゴンの角こそがドラゴンを獰猛にしているものであり、ドラゴンに力を与えているものだと知ったのでした。この実験で、ドラゴンが他のドラゴンの角を食べることでも、その力を増し、より獰猛に、より残忍になれることも分かったのでした。
「我々もこの角を手に入れよう」
次に、人間たちはドラゴンの角を持った人間を生み出す実験をしました。ドラゴンは獰猛な力の証である角しか持っていませんが、もし人間が角を得ることができたなら、人間は知恵も力も手に入れることができるのです。人間たちは試行錯誤を繰り返し、そして、ドラゴンの角や血から抽出したエキスや各種薬草、その他諸々を混ぜた薬品を使って角が生える人間を作ることに成功したのでした。子どものうちは従来の人間通り温厚なのですが、ある程度成長すると角が生えてきて獰猛で残忍な存在になるのです。
「やった!ついに完成した!!これこそが人間だ!これこそが脆弱さを捨て完成した真の人間だ!!これで我々はドラゴンを皆殺しにできる!!」
人間たちは角のある人間を次々と量産しました。角のある人間は角のない人間よりも繁殖力がありましたので、その数はあっという間に増えていきました。そして、十分に育った角のある人間は次々とドラゴンの住処に放たれました。角のある人間は狡猾に立ち回り、獰猛で残忍な方法でドラゴンの弱点である角をへし折っていきました。角を取られたドラゴンは途端に力を失っていきました。中には翼で飛んで逃げ延びた者もいましたが、ほとんどはその場で角のある人間に喰われていきました。
角のある人間はドラゴンの肉を好んで食べました。そして、ドラゴンの角を食べることによって、さらに自らの角を大きくし、獰猛さや残忍さを増していったのでした。
「オイシ……ドラゴン、ニク、ウマ」
「モット……クウ。ツノデ、ツヨク、ナル」
「タリ、ナイ……タリナイ」
角のない人間が気づいたときにはもうすべてが遅すぎました。角のある人間は角のない人間が制御できないくらい増えて、その力を増していました。角のある人間は欲望のまま、ドラゴンだけでなく角のない人間までも蹂躙していきました。
「彼らは我々の手に余る存在になってしまった」
「逃げよう」
「奴らに喰われたくない。死にたくない」
僅かに生き残った人間たちは自分たちが産み出したものを放って、逃げ出しました。ある者は世界の北の地中深く、ある者は世界の南の森深く、ある者は世界の西の洞穴深く、そしてある者は世界の東の山々へ。みんな散り散りに逃げたのでした。
さて、これからお話しするのはそれから数百年経った世界のお話。角のある獰猛な人間や角のない温厚なドラゴン……そして、数百年経って魔法使いと呼ばれるようになった者たち、つまり自分勝手な角のない人間の、昔々のお話です。
あとがきはこちらの活動報告にて。→http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/187605/blogkey/1321543/