イデア・バグナは愚痴を聞く
親友、マサミ・シドの愚痴を聞くことに。
※タイトル詐欺成分微量かもしれませぬ。
そんなこんなでのんびりしていると、がらっ、と音を立てて戸が開く。現れたのは、ニールさんにそっくりな、青い髪の少年。実は俺と幼馴染でこれまた勇者候補生のマサミ・シド。思春期こじらせ仲間だと俺たちは自覚している。
というのも、マサミもニールさんに対してもやもやしたものを抱えているからだ。あいつ曰く「父さんはもう少ししゃきっとするべきだ」なんだとか。あいつからしてみれば、妙に中性的な父親の姿が男らしくないように思えてならないらしい。
「父さん、ただいま……、もどりました!」
「おや、マサミ。お帰りなさい」
マサミは三つ編み2本を頭の上あたりで纏めている。そして眼鏡もスクエアフレーム。俺と同様、少しでも親父似である事を隠そうとする努力である。
「イデア、久しぶり。ゆっくりできるのか?」
「うん。報告書も出し終えたし、今日はもうゆっくりできる」
俺たちの様子を見てニールさんは笑いながら、マサミの分のお茶を用意する。そして、にこやかな顔で
「依頼だったのでしょう? マサミもゆっくり休みなさい。今、お菓子を持ってきますから」
と立ち上がる。
「……もうちょっと渋く言ってもいいと、俺は思うんだよな。いや、男がお菓子作りとかするのが女々しいとかじゃないさ。ただ、もうちょっと……」
妙にもじもじしつつ口ごもるマサミ。うん、これは愚痴コースだな。
マサミが何かに気づき、口を開こうとするとニールさんがにこっ、と笑って手を出す。それにマサミが何か言おうとするも、ニールさんは首を横に振る。不思議そうに見ていると、
「積もる話もあるでしょうし、ゆっくりしていってくださいね、イデアさん」
ニールさんはそういうとお菓子とお茶のお代わりを持ってくるべく部屋を出る。と、マサミが大きなため息をついた。
「父様、茶菓子の準備ぐらい私に言えばいいのに……」
マサミがぽつり、と呟いた。すっごく口調変わってるけどまぁ、俺は慣れてるからなー。
「父様は優柔不断なんですよ、時々! 夕食のメニューしかり、遊具に塗るペンキの色しかり!」
マサミは俺と違って本当は父親をすげぇ尊敬しているし、大好きである。まぁ、ツンデレなのかな。本人には「父さん」って言っているけど本当は「父様」って呼んでいるし、こいつ、無理して武人っぽい口調しているけど、本当は丁寧語なんだよなー。
周りの皆は全部知っている。あいつが髪型を三つ編み状のポニーテールにしてるのも、父親を尊敬しているからって。因みに眼鏡をかけているのは2人とも目が悪いからに他ならない。ニールさんほどではないが、マサミも視力が低いのだ。
「それに何でも自分でやろうとする所があるんですよっ。私だってもうそれなりに色々出来るようになってきましたから、頼ればいいんですよ」
「まあまあ。お茶菓子とかの準備は、ニールさんが好きだからだと思うけど」
マサミは憮然とした表情で頬杖をつくが、あいつとしてはいつも働いている父親にゆっくり休んで欲しいっておもうのもあるんだと思いたい。
正直言って、ニールさんを尊敬できるマサミがうらやましい。まぁ、ニールさんは一途に1人の女性を愛し、結婚に至った所から『純愛の勇者』とも呼ばれているからかな。
七勇者ではないけど、凄腕の治癒術士で七勇者を陰で助け続けていたと言われているリオさんだ。純白の髪と銀の瞳が特徴で、おっとりした女性だな。マサミが尊敬するお母さんで、今では孤児院にいるみんなのお母さんだ。
俺達が話していると、そのリオさんがやってきた。話によると市場から今帰ってきたそうだ。
「マサミ、おかえりなさい。イデアさん、いらっしゃい」
「母様、ただいま戻りました」
「お邪魔しています」
2人で頭を下げていると、リオさんは真面目な顔で俺たちに言った。
「二人とも悪いけれど、直ぐにここへ向かって欲しいの。私たちも後から行くから、お願いできるかしら?」
そう言ってリオさんは、この辺りを治める領主様のお屋敷への地図を俺たちに渡すのであった。