イデア・バグナは溜息をつく
※勇者候補生 イデア・バグナ(男性/人間/15歳)
職業:冒険者(狂戦士)/特性:炎の加護(攻撃時、任意で炎の追撃発生)
上記の少年視点で参ります。
昔、13頭の竜が次々にとある大陸を襲い、それを数人の冒険者が倒していきました。
彼らは後に異界から襲い掛かってきた神と名乗る化け物も倒し、この世界を守りました。
彼らは七勇者と呼ばれるようになったと言われています。
* * * * * *
うん、そこまでで話が終わると思ったら大間違いだぞ……。
俺の名前はイデア。15歳になったばっかりの冒険者だ。身長がちょっと低めだけどおふくろ譲りの黒髪が誇りの狂戦士だ。身に纏っているのが執事服なのはまぁ、執事への憧れってのもあってな。最近では「狂戦執事」なんて異名があるんだぜ。
で、俺の事はさておき。あんまり口に出すのは嫌なんだが、俺の両親はその七勇者のうちの2人なんだ。七勇者のリーダー格だった剣士と、みんなのムードメイカー的な魔導士。それが親父とお袋なんだが、俺はすっごく複雑な心境にいる。
俺の親父には俺のお袋含め2人奥さんがいる。ああ、2人奥さんがいる。大事な事だから2度言った。それはおふくろの他にもう1人奥さんがいるって事だ。
ふつうさぁ、あれだよな。一夫一婦だろ? だのに俺たち家族については皆悪く言わない。なんでも「英雄の血筋は多いほうがいい」とかなんとか。
おまけに親父の親友から前にきいたんだけど、親父は2人の女性(1人は俺のお袋)に想いを寄せられていて、告白されていたんだと。で、異界の化け物を倒した後におふくろに対して「どっちかというと、ミルフィ……」という中途半端な結論を出されたのでお袋がキレて……10ヵ月ぐらい後に兄貴が生まれたらしいんだが、何があったかもう想像付いて頭痛てぇよ。
あ、ミルフィってのはもう1人の奥さんの名前。俺のお袋の名前はキルシュな? 因みに俺はもう1人の奥さんの事を「ミルさん」若しくは「母さん」って呼んでる。
ガキの頃は俺たちだけだったのに、親父がもう1人奥さん連れてきて、一緒に暮らすことになって。その頃からもやもやする物があったけど、諸事情とかすっごく解るようになってから、なんだか一気にもやもやするようになった。
つまりは、親父は最初お袋と結婚して、数年後にミルさんと結婚したって事。で、一応本妻がミルさんで副妻がお袋って事になってる……訳なんだ。
お袋に対しての返答内容などが俺を苛立たせた。俺が潔癖なのか、いつのまにか素直に親父を尊敬できなくなっていた。なんか、こう、むちゃくちゃ腹がたってな。特殊すぎる家庭環境でいじめをうけたり、白い目でみられることは無かったけど、俺としては納得がいかないんだ。
兄貴や双子の姉や異母妹は気にした様子はない。え? おかしくないか、これ! ご近所さんも親父の仲間の人も、何もつっこみ入れないのかよ?
「まぁ、お父さんだし」(双子の姉、イカロス)
「親父はどっちも選べなかったから仕方ない気がするんだな」(兄、セーシカ)
「お父様らしいとしか……」(異母妹、マリル)
って具合の兄弟たちの様子に俺は一人頭を抱えている……。
そんな苛立ちを今日もバスタードソードに乗せて、魔物をぶったぎる。勇者の息子だからって期待されたりはするけれど、そんな事よりも親父の恋愛事情に対してむかっ腹が立つ俺がおかしいのか、女々しいのか。疑問に思いながらも俺は戦う。
優雅に、大胆に剣を振って、攻撃を受ける前にぶったぎる。戦っている間だけは、悩まないですむ。悩んでいる暇があったら剣を振るわないと、死ぬのはこっちだから。
読んでくださりありがとうございました。
しばらくの間少年のおしゃべりにお付き合いくださいませ。