つり橋。
「ちょっと押さないでよ。怖いじゃない!これ二人同時で渡っても大丈夫なの?」
「ハハハ…。大丈夫だよ。つり橋って古くても意外と頑丈なんだよ」
楽しそうな二人の声が周囲にこだまする。
私達は共通の休日を利用してT県の山間部にあるつり橋へ来ていた。もちろん目的はつり橋観光なのではなく山登りだ。
偶然、山の中で見つけた古いつり橋に二人は興味をもった。つり橋を渡る機会なんてめったにないから、この橋を渡るだけでも良い思い出になる。
「はい、笑顔笑顔。ビデオ撮ってるんだから」
「怖いんだから笑顔なんて無理よ。このつり橋けっこう高いんだから!」
そう言いながらも香緒里はぎこちない笑顔を見せてくれた。
俺は彼女にビデオカメラを向けながらつり橋を渡り始めた。
それにしても眺めの良い場所だ。
周辺の風景をカメラに収めるためにグルグルと周りを撮す。
その時だ。
「あれ…橋の向こう側の森の中に誰か…いる?」
カメラに俺達以外の何かが写ってる。遠くてよくわからないが誰かがこっちを見ている。
カメラをズームにしてみる。
いる。たしかにいる。着物を着た女がじっとこっちを見ている。
「おい、香緒里。あそこ誰かいない?ほら、つり橋の向こう側の森の中に」
俺は指差しながらそう言った。
「えっどこ?誰もいないよ」
香緒里は不安そうな顔を浮かべながらそう言った。
「えっ…。いや、でもカメラに写ってるよ。ほら…これ見て…あれ?」
カメラに視線を戻すとそこには誰も写ってなかった。ただの見間違だったのだろうか?
「ちょっと脅かさないでよ!ただでさえこのつり橋怖いのに…」
「あぁ、ごめん。気のせいだったみたい。」
俺はカメラを香緒里に向けた。
不安そうな顔をした香緒里がカメラに写る。
いる…。香緒里の後ろに誰かがいる。
さっきの着物を着た女だ。
じっとこっちを見ている。
カメラにしっかり写っている。
「おい、香緒里!後ろ……」
「えっ!?」