武器選びと風の大鎌
あれから数日、体調が万全になったので武器選びという事になった。
直接、武器屋で決めた方良いだろうとの判断でだ。
療養中、何をしていたかというと勉強が近いな。
この世界の文字は2種類ある。
一般的な共通言語と、魔力を込めた特殊な言語である魔術言語の2種類だ。
俺は両方の勉強をしている。
魔力を扱えるという事は、術書を読んで魔術を習得できることに等しいからだ。
読み方は継承されていなかったらしく、これが1番苦労している。
あとは魔力の流れを感じ取って制御の練習をしてみたり、だな。
その過程でわかったことがいくつか。
コツさえつかめば魔力の扱いは思ったよりも楽だという事。
大雑把な流れに関してだけどな。
流石に細かいことをするには集中力がいるし、練度も必要だ。
無詠唱魔術というものがあること。
俺の場合、ダンジョンで叫んでいたとはいえ呪文は唱えていないし、
そこらへんの魔力の制御は無意識に行っていて癖になったらしく、
呪文を唱える通常の魔術の方が習得が難しそうなんじゃないかといわれた、解せぬ。
まぁ、そんなことは置いといて武器屋だ。
人のよさそうなのんびりとしたおじさんがでーんとカウンターにいた。
地味に強そうな気がするんだが気のせいだろうか?
「お、いらっしゃい!」
並べられている武器はどれも気になる。
剣も刀も槍も鎌も棍も槌も斧も杖もどんなものでも、だ。
生まれて初めて見るんだし、ゲームだけで見るものだと思ってたからな。
もとはといえオトコノコだったんだし好奇心はくすぐられる。
今回はクロウェルは一切手を出さないらしい。
せいぜい、言葉に詰まったときの助言程度だそうだ。
俺が会話苦手なのに気が付いてか、経験を積めと言ってきた。
コミュ障だから、会話とかまともにしたこと少ないっての!
でも俺の今後を決めるかもしれない武器の選択だ、
自分の意思で、決めるのが大事なんだよな?
「えと、武器を初めて持つので、どういう武器がいいかとか、
いろんなことを聞きたくて、連れてきてもらったんですけど。」
上手く伝わってるだろうか。
少しだけ不安だ。
「そうかい!嬢ちゃんはどんなことがやりたいんだ?
魔術の才能もあるようだし、いろいろ出来ることはあるぞ。」
おじさんは朗らかに笑ってそういった。
あれ、どうやって魔術使えるって判断した!?
そういう目でも持ってるか、わずかな魔力の流れで判断でもできんのか!?
流石にこれにはビックリした。
ファンタジーなめてたぜ。
「えと、中衛寄りの前衛がやりたいなと。
近づかれ過ぎるのは怖いですけど、後衛で術だけよりもいいと思うので。」
術師になると近づかれて詠唱を邪魔されたら身動きが取れないというリスクがある。
接触恐怖症がある俺にはやれない。
接触を阻止できない可能性が高いという事だからだ。
中衛や前衛は近距離戦闘もできなければ意味がない。
接触されそうになっても阻止できる可能性が高い。
拳とかの接触しなければいけないのは却下。
投げ技とかできるわけないしな。
魔術を生かすには多少距離もとれる武器じゃないと困る。
俺は生かせるものは可能な限り生かしたい。
だから、完全な前衛じゃ困る。
「投擲武器、長槍、大鎌、銃あたりが妥当かね。
弓だと嬢ちゃんみたいに前に出るっていうのはきついしな。
銃なら使いようによっては前衛も兼ねられるが相応にリスクがあるぜ。
槍なら近距離に潜られても武器だけでいなせる分、術の出番は減る。
鎌だと近づかれ過ぎると対応が効かないから、無詠唱魔術なりでの対策がいる。
投擲武器は完全に相性次第だな。どれを使うかでも大きく変わってくるぜ。」
ふむ、思ったよりも選べるものが多いな。
投擲、銃は却下。弾の補充で費用がかさみそう、回収がめんどそうだからな。
槍は微妙だな。早さや突きが売りになるから、複数の相手には向かなさそう。
鎌も悩む。複数攻撃などには向くだろうが、狭いところだと取り回しが効かなさそう。
攻撃範囲か取り回しか、どちらかしか取れなさそうだな。
狭いところでは魔術メインにすれば機動性は確保できんのか。
無詠唱で魔術使えるし、慣れれば取り回しに関しては解決できるかもしれない。
そう考えると、複数相手に向きそうな鎌がいいか?
「………大鎌にします。」
使っていて駄目だったら、変えればいい。
駆けだしなんだから少しくらい気軽に選んでみた。
自分の意思を告げるとおじさんは裏からなにかを取ってきた。
布がまかれているが大鎌のようだ。
「嬢ちゃん、これもってみな。
マジックエンチャントが掛かっていて、使用者を選ぶ。
もしも拒絶されなかったら特別価格で売るぜ?」
おじさんはそう言って布を取り外した。
中から出てきたのは、とても神秘的な大鎌だった。
柄の部分には装飾が殆ど無くシンプルで、
柄の先端部には美しい翠色の宝石と思われるものが誂られている。
刃の部分には魔力で描かれただろう文様が描かれている。
欲しい、そう思った。
「……持て、た?」
気が付いたら手を伸ばしていた。
見た目よりも軽い。
でもしっかりと持っている実感がわいてくる。
魔力を可能な限り抑えて、流れを感じて、それに従う。
‘俺’が‘私’になっていく。
そんな感覚が少しづつ思考を覆っていく。
‘私’はこの世界にいるという実感が湧いたのかもしれない。
ひゅっ!っと風切り音がして、私は自分が鎌を振ったことに気が付いた。
思考内でも一人称が俺から私になった気がする。
これは鎌の影響なのか、自分の心境の変化からなのか判断はできない。
クロウェルもおじさんもすごくびっくりしている。
いきなり鎌振ったらそうなるよな、すまん。
「…………まさか、マジで使えるとはなぁ。」
おじさん、そこまで驚く事なんですか。
結構簡単に使えたぜ、これ。
使用者を選ぶっつってたし、そういうことかね?
凄く気に入ったので是非手に入れたいです!
無言でそう主張してみる。
「それ、使えたの、嬢ちゃんが初めてなんだよ。
使用者の条件が異常でな。
製作者曰く“異世界人かつ混ざり者専用”らしい。」
…………は?
普通はいないんじゃないのか、それ。
混ざり者も異世界人もそれだけでレアらしいじゃないか。
どっちもだなんてレア中のレアの筈だ。
そうである自分が言ったところで説得力などないに等しいが。
「確かに私はそうだけど、普通、そんなの作っても買い手がいないんじゃ?」
そう考えると、とんでもない武器だな。
奪われても私以外に使われる可能性は低いだろうし。
やっぱり欲しい。お値段が高くても欲しい。
「いないな。だから持てた奴が現れた時点でタダでやるつもりだったんだよ。
売りようがないよりは使える奴の手元にあった方がいいしな。」
タダ、だと!?
……いや、持てる時点で意味があるのか。
“異世界人かつ混ざり者”を発見できたという、な。
しかも売れない武器だ、在庫処分に等しいという可能性もある。
だから金はとらない、ということなんだろうな。
「いいんですか!?あ、ありがとうございます!」
もらえるんだったらもらっておく。
今の私には金銭なんてほとんどない。
だからこそ、躊躇いなくいただくことにした。
手続きとかはクロウェルに手伝ってもらいつつ、すぐさま終わらせた。
使い方もレクチャーしてもらえて満足である。
そんな感じで私は武器『風纏いの大鎌』を手に入れた。
今回は武器選び回でした。
彼女の武器について少しだけ情報を出しておきます。
風纏いの大鎌
本文中でもあった通り“異世界人かつ混ざり者”専用武器。
風を操るエンチャントや、風の精霊の加護などを詰め込んでいる。
魔力の流し方によってはキーホルダーサイズまで縮小して持ち歩ける。
また、柄先端についた魔術結晶によって魔術の発動補助も可能。
ただし、癖が相当あるので使いこなすには相当の時間がかかる。
ゲームでいえば高レベルかつレア武器程度の性能はしている。
ラティエが使いこなせるようになるのかは今後の展開次第。