青年と盗賊
走る、ただ闇雲に駆け抜ける。
ぶつかってしまった人は何もしていない。
でも、見下ろされる状況が怖くて逃げだしてしまった。
暫くして思考が落ち着いてきた。
今は「別人」になってるのに何で逃げだしてんだよ、俺。
……‘人’だったよな!?
俺は、馬鹿なんだろうか。
外に連れ出して、情報をくれそうな人物から逃げると馬鹿だろ。
逃げ回ってるうちにぶよぶよした黒いの(以下、スライム)に見つかった。
こいつは動きが遅いからなんとかなる。
そう思って方向転換したら、ガラの悪い集団(盗賊っぽい)を見つけた。
「……げ。」「……ん?」
相手に気づかれた、その瞬間、俺はスライムを飛び越えていた。
あきらかにさっきぶつかってしまった人とは違って危険なやつだ。
スライムだけじゃ盾にならない気もするが、間にいてくれた方がいい気がする。
いや、こいつを盾にしていいのかも悩むんだけどな?
案の定、集団はげひた笑みでスライムを焼き、取り囲もうとして来る。
これはまずいんじゃなかろうか。
よく見るとうしろの方は行き止まりだった。
「……来るなーーーーー!!!!」
怖いし嫌な予感しかしないから、恐怖に身を任せて叫んだ。
風が刃となり近い位置にいた何人かを斬り飛ばした。
血が舞って、返り血が俺に付着した。
悲鳴が聞こえないほど俺は動揺していた。
俺が、やった。
制御できていない力を振りかざして、こいつらを斬った。
脱力感が襲う。
これまで考えなしに動いてきた代償とでも言うかのように力が入らない。
「……え?」
なんで、こんな時に、何が起きて。
わけがわからなくて、身動きが取れない。
「‘魔力切れ’か。都合がいい、今のうちにやるぞ!」
男どもが剣を振りかぶり、棍棒を振りかざし襲いかかってくる。
しにたくない、まだ、いきていたい。
まだ、なにもしていないのに。
あの人の分まで生きないといけないのに。
せまる刃に腕を盾の様にして目を閉じた。
死ぬくらいなら腕を犠牲にしてでも生き延びないと、そう思った。
「……っ!?」「…ぎゃあっ!」「な、なんだ、こいつは!?」
いつまでも刃は襲ってこない。
男たちの悲鳴が聞こえるだけだ。
恐る恐る目を開け、状況を確認する。
金髪碧眼のやわらかい印象を受けるイケメンが男たちを斬り飛ばしている。
もしかして、最初にぶつかってしまった人なんだろうか。
「武器を持っていない人に対して襲いかかるとは何を考えているんですか。」
彼は躊躇いなく男たちに言葉をかける。
だが男たちは「じゃますんな」など子供の様なことを言って彼にも攻撃し始めた。
動かない私は後回しにされるようで、逃げだすすきをうかがう。
だるさは残っているが動けないほどではない。
イケメンは剣や壁を用いて男たちの剣をいなし、動きを制限し、
棍棒を躱し、蹴りを入れ、動きを封じていく。
結果的に言えば逃げ出すすきもなく、その前にかたがついてしまった。
「クレメントの遺跡で盗賊行為をしている時点で、馬鹿ですよね。
レアアイテムとかもありますけど、正攻法以外だと罠が作動して死にますよ。
もし知ってるんでしたら、死に急いでいるんじゃないかと正気を疑いますね。」
全員をふんじばって、縛り上げ、彼はそういった。
良い人なんだろうなぁ。逃げたことが申し訳なく思えてきた。
なにか、スクロールの様なものを使ってどこかに連絡している。
「盗賊です。転送スクロールでそちらに送ります。
……はい、クレメントの遺跡に入り込んでたので捕縛しました。
…………襲われていた方は僕の方で何とかしろって、あ、念話切られちゃった。」
スクロールをしまい、盗賊だったらしい男たちに別のスクロールを投げつけ、
何処かに消してしまった。話の雰囲気的に役所的なところだとは思うが。
「怪我とかしてませんか?もう、大丈夫です。安全な場所まで案内しますから。」
しゃがんで目線を合わせつつ、告げられた言葉に安心した。
先ほどの戦闘の様子からして剣士のようだ。
壁とかも利用していたから手練れなのかもしれない。
「……こわ、かった。しぬ、かと思った。」
腰が抜けたらしく、立つこともできない。
恐怖が今になって強くなって涙がこぼれた。
だって、殺されそうになったんだ。
人を殺しそうになったんだ。
自分の力も、アイツらも怖くてどうしようもなくて。
「もう、大丈夫だよ。怖い目にはあわせないから、ね?
僕はクロウェル。クロウェル・レミルヤード。君の名前は?」
彼、クロウェルはそういって微笑んだ。
俺、女の子なのに「俺」はおかしいし、「私」でいいか。
ルディアさんから貰った、名前を名乗る。
「わた、しの名前は、ラティエ。ラティエ・マルトレート、です。」
身体も声も震えていた。それでも‘私’はそう、名乗れた。
意識が遠ざかる。
安心して力が抜けたらしい。
魔力切れとか言っていた気もするし、それが原因かもしれない。
「……!?大丈夫ですか!?」
クロウェルが体を支えてくるけど、凄く眠い。
なんだかすごく疲れた。
心配する声が遠ざかる。
そして、視界がブラックアウトした。
やっと、主人公の名前出せた!
次の話でチュートリアルは終わりです。
前話で出てきたぶつかった人こと、クロウェル君。
ダンジョン内では凄い実力ですが、他だとそこまでの実力は出せません。
理由は次話あたりでだせればいいなぁと思っています。